〜転移サイボーグの異世界冒険譚〜(旧題 機械仕掛けの異世界漫遊記) VSファンタジー!

五輪茂

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第28章 動乱 ロードベルク王国 前奏曲(プレリュード)

第254話

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 ーー コンッコンッ!ーー

 扉をノックする音が、室内に響く。

「旦那様、ダラーズ侯爵様を御案内致しました 」
「ご苦労。入れ 」
「は、失礼致します 」

 重厚で、それでいて豪奢な造りの扉を開けて入ってきたのは、この屋敷の家令も勤める老齢の執事だ。彼は上流階級の屋敷に勤める使用人らしく、優雅な所作で胸に手を当てて恭しく一礼すると、スッと体を横にずらして案内してきた人物に道を譲る。
 
「よくぞ参った、ダラーズ侯爵。貴公の到着を待ちかねておったぞ 」
「はっ!ボージャック公爵閣下、遅参つかまつり誠に申し訳ございません 」

 体を端に避けた執事に代わり、部屋へと入って来たのは、瘦せぎすだが、その表情の中に如何にもな尊大さの滲む、貴族然とした男であった。
 この男、ダラーズ侯爵も〈回帰主義派〉の重鎮であり、北部方面に広大な領地を持つ大貴族だ。ダラーズはやや芝居掛かった仕草でボージャックへと遅参を詫びるが、ボージャックはそれに鷹揚に手を振って返す。

「よい、卿の領地が一番距離があるのは分かっている。遠路遥々の参陣、大義である 」
「有難き幸せ。その御言葉ひとつでここまでの道程の疲れも吹き飛びました。常日頃からの閣下の御恩に報いる為、このダラーズ、命に代えて全力を尽くす所存にございます 」
「うむ。その心意気や良し。貴公の働き、期待しておるぞ 」
「はっ!」
「よし。ならば、まずは座れ 」

 ここはボージャック公爵領ツィーバラ。領都ミードゥにあるボージャック公爵邸の会議室。部屋の中には既に主だった〈回帰主義派〉の貴族達が集まっており、長大なテーブルへと着席していた。
 ボージャックに促され、ダラーズは所謂"お誕生日席"に座っているボージャックのすぐ近くの席へと着席する。ダラーズが着席したのに合わせ、テーブルに座る全員に、メイド達が新しく淹れたお茶を並べ直したところでボージャックは改めて口を開く。

「まずは皆、永き恥辱と苦痛に耐え、よくぞ集まってくれた。ここに居る者全てが憂国の士であり、古き良き、真なるロードベルク王国の姿を取り戻すべく立ち上がったまことの「青き血」を持つたっとき者達である 」

 そこまで話し終えたところでボージャックは一旦言葉を切り、テーブルに座る面々をゆっくりと見回してから再度言葉を続ける。

「我等は〈ゴーレム術〉を以って、長きに渡り王都を巨獣の脅威より守ってきた。だが!最も感謝の意を示さねばならなはずの現王家は、そんな我等の忠言を悉く無視してきたばかりか、我等の聖なる技である〈ゴーレム術まで穢し始めた。断じて赦されざる暴挙である!」

 ボージャックの言葉に、居並ぶ貴族達も「そうだ‼︎」だの、「断じて許すまじ‼︎」との同意の叫びを上げる。叫ぶ言葉はどこまでも勇ましいが、先程のダラーズ同様、そういった声を上げる貴族達の誰を取っても、細い腕やデップリと突き出た腹をしていて、とても剣を取り命がけの戦いが出来るような者達には見えない。しかもそれは、この部屋の中に集う者達の大半に言える事だった。
 口々に現王家を批判し、糾弾の声を上げる貴族達を手で制して静かにさせると、更にボージャックは言葉を重ねる。

「事ここに至り、私は決意した。尊きロードベルク王家の血を引きながら、卑しき下賤の女を娶り、その血を穢したジオンにこれ以上この国を好きにさせる訳にはいかん!と。今こそ私はの無い青き血の"正統王家の者"として立ち上がり、この栄光あるロードベルクを、清浄にして正常な姿に取り戻さねばならぬ!同志達よ、真の貴族たる者共よ、そしてそれはこの一戦に、卿等の双肩に掛かっていると知れ。よいなっ‼︎ 」

『『『『『 は…っ‼︎‼︎ 』』』』』

「うむ。……ではコアクト伯爵。大事の前だ、今一度作戦の流れと布陣の確認を 」
「は!承知致しました!」

 座りながらではあるが、ボージャックの言葉に対して一斉に頭を垂れる貴族達。その姿を満足気に見回した後で、ボージャックは自身の隣、ダラーズとは対面となる席に座っていたコアクト伯爵へと声をかけると、コアクトは椅子から立ち上がり、ボージャックへとひとつ礼をしてから手元の書類を読み上げ始めた。

「それでは、いよいよ決行まで半月と迫った、今回のの流れと布陣について今一度確認する。まず、王都に御親征されるボージャック閣下率いる本隊から目を外らす為の陽動として、王都近郊にある各都市群へと攻撃を加える。オーダウラへはザッコー子爵。ザイダーマへはシタッパ男爵。ウツルノミアへはハンカグッサ伯爵が向かうものとする。各都市周辺の町や村には各配下を向かわせろ。これ等は陽動に加え、本命である王都攻撃の際に各都市からの援護を来れなくし、更には"王都の守りを削る"という意味もある大事なお役目だ。各都市からの要請を受けて王都から騎士団が救援部隊として派遣されるであろうが、それもこちらの作戦の内。卿等はその部隊を迎え撃ち、これを殲滅せよ。もある。"汚名返上"のチャンスでもある。公爵閣下の温情に応え、全力以上を以ってこの任に当たれ。よいな! 」

「「「 はっ‼︎ 」」」

 ガタッ!っと椅子から音を立てて立ち上がり、ボージャックに向けて頭を下げ、最敬礼の姿勢を取るザッコー、シタッパ、ハンカグッサの三人。三人の姿を見て、ボージャックが僅かに頷いたのを確認し、コアクトは次の指示へと移る。

「よし。では、次に海側であるが、フーリムン海軍卿!」
「はっ!」

 コアクトに名前を呼ばれ、返事と共に立ち上がったのはロードベルク王国海軍を統括する海軍卿、「アカマァタ・フーリムン」。この場に居るメンバーの中では珍しく、浅黒く陽に焼けた肌の偉丈夫だ。しかし、出世欲が強く、己の栄耀の為ならどんな事でもするとの黒い噂の絶えない男でもある。実際にその噂を証明するかのように、フーリムンの両眼は、まるで獲物を前にした毒蛇の如く、ぬらりとした狡猾な光を湛えていた。

「卿はヨゴルスカより艦隊を率い、全ての海上路を封鎖、近付く船は閣下の翼下である事を示す"旧王国旗"が掲げられた船以外は全て沈めて構わん 」
「コアクト様、…で、よろしいのですか?」
「構わん。それが何処いずこの勢力にせよ、のだ。ならば、何も問題なかろう?」
…ですか?なるほど、成る程!ならば何も、何も問題ありませんな!承知致しました。このフーリムン、近付く者は全て海の藻屑と変えてやりましょう!」

 コアクトの言葉に"含まれた意味"を読み取り、ニタリと愉しげに嗤うフーリムン。そんなフーリムンへとよく似た笑みを返しながら、コアクトは指示を続ける。

「公爵閣下の御親征に対処する為、ジオンめは生意気にも討伐軍を出すだろう。だが、そこで先程までの策が活きてくる。周辺諸侯の援護の部隊は来ること適わず、奴等は近衛騎士団を含む、王都近郊に駐屯する王国軍の殆んどを向かわせるしかなくなるからだ。そこでフーリムン、卿は海上封鎖に必要な船だけを残して、防備が手薄となった王都へと艦隊を進め、上陸部隊を率いてグランベルク港、並びに王都全域を制圧せよ。さすれば、如何にの強いジオンとて、逃げ込む場所が無いのだ。閣下の御力の前に悪足掻きすら出来ぬであろう 」

「素晴らしい!完璧な作戦でありますな!」
「これほどの計略は、今まで聞いたこともありませんぞ!」
「然り、『端倪すべからざる』とは正にこの事。閣下の深遠なる御智略の前には、歴史上の如何な名軍師とて霞んでしまいますな!」

 作戦の全容を確認した事で、計略の成功を強く確信した〈回帰主義派〉の貴族達は喜悦の表情を浮かべ、ここぞとばかりにボージャックを褒め称える言葉を並べ立て始める。

 しかし、称賛を受けるボージャックはニコリともせずに、僅かな手の動きだけでその声を制して貴族達を窘める。

「静まれ。皆の称賛嬉しく思うが、未だ軍議の途中である。事を成就せぬ内から浮かれては、思わぬところで足下を掬われることとなりかねん。気を引き締めよ 」
 
「「「「「も、申し訳ありません…!」」」」」

 少しでもボージャックの覚えを良くしようと、競うように美辞麗句を並べ立てていた貴族達は、思いもよらぬボージャックの反応に冷や汗をかき、顔を青くして一斉に頭を下げる。

「分かれば良い。…コアクト、続きを 」

「はっ!では確認を続ける。…ああ、それと言い忘れていたが、今回閣下の御厚情により、各部隊にそれぞれから、戦いを有利に進める為のが届く運びとなっている。各員、それを巧く活用して任務を遂行せよ。……さて、では次に閣下の御親征に同行する、栄えある者達を発表する。まずは先陣、ドボゲ男爵、タァーケ男爵、ホンデーナス子爵…………………………………………!」
 
 コアクトが次々と陣容を読み上げて行く様子を眺めながら、その場の貴族達には気付かれぬよう、クク…ッと、喉の奥だけで忍び笑いを漏らすボージャック。

 先程〈回帰主義派〉の面々に"浮かれるな"と窘めはしたが、何のことはない。最も勝利を確信し、気持ちを高揚させていたのはボージャックであった。当たり前である。何と言ってもこの反乱計画の青図面を引いたのはボージャック本人なのだから。


(「ククク…ッ、見ておれよクズのような理想ばかりを並べ立てる、偽りの王族共よ。楽に死なせるなどせん。散々に痛め付け、絶望の中で一族もろとも嬲り殺しにしてやるわ。この私に恥をかかせたことをタップリと後悔して、豚の様に悲鳴を上げるがいい…‼︎ 」」










「……なぁ~~んて考えてやがるんだろうなあ、あのジジイ?悪人顔が更にも増してっるい顔してやがるぜ 」

 いやいや、陛下おっさん、"悪い顔"ってんなら、あんたも負けてねーから。今、スッゲー"悪い顔"で嗤ってるから。

 ………と、いうか…。


「何だ、こりゃあ…っ⁉︎ 」

 ここは陛下おっさんの執務室。つまりはグランベルク城の中の一室である。

 俺達はあの後、ノアの《空間転移》で移動。今回の婆さんからの依頼の中で起きた事件の一切合切を、陛下おっさん達に報告した。その過程でザインが片腕を失った事、エリアスちゃん達の一件の事などで一悶着はあったのだが、取り敢えずは一先ず無事報告は終えた。

 その後でひと息つくためにちょっとばかり休憩と、皆んなでお茶を飲み始めたあたりで、陛下おっさんの元に連絡が入り、その連絡をうけた陛下から、壁に掛けられた"大きな絵"の方を見るように言われたのだ。

 すると、その大きな絵がスクリーンへと切り替わり、突如としてそのスクリーンの中で、悪人どもが悪巧みを繰り広げる場面が上映され始めたのだ。しかもこれ、録画とかそんなんじゃない。画面の端には、ご丁寧にであることを示す、「LIVE」を示す単語がこちらの世界の公用語で入っている。

 今この部屋に居るのは、ザインとトーレスを含む先程までのメンバーと、陛下おっさんにレイラ王妃さん。それから爺さんと婆さん。…と、見知らぬ数名…。

 だが、ニヤニヤと悪い顔で笑う国王夫妻と英雄夫妻以外の全員は、アングリと口を開け、ポカ~~ンとした表情で画面に映し出されているものに見入っていた。

「何だこれっ?は?「LIVE」って、生中継してんの、これ⁉︎ いつの間にこんな事まで出来るようになったんだっ?ってか、どうやって……⁉︎ 」
「どうやって?って、そりゃお前、ボージャックのジジイんトコに潜り込ませてる、うちのモン密偵に仕掛けさせたに決まってんじゃねーか。ほれ、あるだろ?エラそーな奴が飾ってる鎧とかよ。アレに仕掛けたらしいそ?」

 ほらほら、こーんなヤツ、と、身振り手振りで説明してくる陛下おっさんだが……。

「違っげーよ!そうじゃねえよ!いつの間に、盗聴器なんてモンをどうやって作れるようになったのか?って聞いてんだよっ!」
「あん?何言ってんだ?あいつ等錬金術師共は、お前から「良い事を聞いた!」って、大騒ぎして開発してやがったぞ?確か、徹夜のし過ぎで二、三人ぶっ倒れたんじゃなかったか?それでも復活したらすぐ大喜びで開発に戻ってンだから、まったくトンデモねえ変態ばっかりだよなあ、ワッハッハ…!」

 何やってんのアイツ等はーーーーっ⁉︎ 

 いやいやいや、そりゃ確かに【通信機】やら、【魔導式強化外殻】の視覚モニターの開発の段階で、地球での監視カメラや盗聴器、果てはテレビ中継なんて事も話したさ。けどな、あの【国家錬金術師変態】ども、いっくら何でも趣味に全振りし過ぎだろうよ⁉︎

「まあいいじゃねーかヒロト。お陰で奴等の悪巧みは、全部こっちに筒抜けだ。見ろよあのボージャックのジジイの得意げな顔!あいつ、俺達が何にも知らないと思ってんだぜ?バッカだよな~~!…いや、しかし、いいなぁ、コレ。いっそのこと、全部の貴族の邸に仕掛けるか?」

 ギャハハ…!と、画面に映るボージャックを指差して、爆笑するおっさん。だが、そのすぐ隣に座る女性ひとといえば ーーー 、

 ーーー パキン………ッ‼︎ ーーー

「『卑しい下賎な女』?『血を穢した』?……クククッ、い~~い度胸じゃないか、あのクソジジイっ‼︎ 」
「ヒィ…ッ⁉︎ 」

 優雅に持っていた扇子を、殺気を放つレイラ王妃さんの怒りの魔力波動にビビったメイガネーノが、思わず…といった感じでゼルドの陰に隠れてしまった。

「お、落ち着けレイラ…!」
「ああ"ン…っ?このジジイは生かしてアタシのトコロへ連れて来な。誰にケンカを売ったのか、ジックリと!教えてやらないとねェ…。分かってンだろうね、ジオン!」
「分かった!分かったから落ち着けレイラ…!」

「ひぃぃぃっ⁉︎ 」

 あ~~あ、メイガネーノが真っ青になってゼルドの腕にしがみ付いてブルブル震えてる。完全にとばっちりだな、可哀想に……。
 あのバカ共は、一番怒らせちゃいけない人を怒らせちまったみたいだな。ま、それも全部、自業自得か。俺は知らん。精々、タップリと後悔しながら滅びてもらおう。

「やめとけ、陛下おっさん。もし何かの拍子に見つかったら、信用されてないと思われて、却って信頼を失うぞ?やるなら不穏分子だけにしとけ。それから、レイラさんも落ち着いて。が怯えてるぞ 」
「…あ、あら!これはごめんあそばせ?オホ、オホホホホ…!」
 
 レイラ王妃さんの怒りにタジタジになっていたおっさんは、助かった!といった顔でこちらを見ている。まあ、仕方ねーよなぁ、一度怒り始めた嫁さんってのは、旦那では中々止められないのはよく知ってる。なんせ、あの"親父"でも、そんな時はお袋には絶対勝てなかったもんなぁ………。ま、それはともかく。

「まあ、経過がどうあれ、敵の動向が詳細まで分かったってのは良い事だから、取り敢えずハッチャケまくった【国家錬金術師変態ども】達をシメるのは後回しにするか。………で、陛下おっさん。当然対策は取れてんだろう?」

 そう言って視線を向けると、調子を取り戻した陛下おっさんと口の端を吊り上げる。

「当ったり前だろ?もっと前の段階から、ボージャック達の計画は詳細まで掴んでるんでな。後は、奴等が動き出すタイミングだけだったんだが…、それも。で、だ。ヒロト、バカ共の計画に合わせた、最適な戦略と部隊編成はしたつもりなんだが、何せこっちも初めての運用だ。見落としが無ぇか見て欲しいんだけどよ、頼めるか?」
「クックク…ッ!ああ、任せろよ陛下おっさん。プライドばっかりのバカ共に、"現実の厳しさ"ってヤツを、教えてやろうぜ…!」

 さてさて、いよいよ大詰め、だ。


 俺が、いや、俺達が、"本当の戦争"ってヤツを教育してやるぜ………‼︎


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