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報告書 1
日報 2
しおりを挟む朝食も食べ終わり、予定通り冒険者ギルドへと向かうことにした救人とシスターだったが、不意に大事な事を忘れていた救人は、失礼を承知でシスターに声をかけた。
「あの…、すいません。そう言えばですね、大事な事を聞いていませんでした。その…、シスターのお名前を教えてもらえますか? 」
何を今更…、と思わないでやって欲しい。混乱していた挙句、呼びかける時には「あの…」とか「すいません」とか、シスターと呼べば事足りていたのだ。
「え!? アレ?…でもキュウトさんは、私のことを「シスター」って……? あれ?そう言えば、私の名前は教えていませんでしたよね?」
「え?それはどういう……?」
「申し遅れました。私の名前は【システィーナ・ラグジェント】親しい者からは、『シス』とか『シスター』と呼ばれているものですから…… 」
顔を赤くして、改めて自己紹介をする『シスター』ことシスティーナ。
「そ、そうだったんですか!? すいません、特に親しい訳でも無いのに……?実は、俺の故郷ではある宗教の女性僧侶の事を「シスター」と呼ぶんです。それで、システィーナさんの格好も良く似ていたものですから…… 」
「あ、いえ!別に構いませんよ?親しみを込めて呼んでいただけるのは嬉しいですから。 そうですか…、でも面白いですね、お国は全然違うのに、良く似ているだなんて 」
「そうですね~(汗)」
あっはっは~っとお気楽に笑って見せる救人。まさか国どころか世界まで違いますよ、とは言える筈も無く。
「じゃあ、キュウトさん、行きましょうか?」
「あ、はい!よろしくお願いします 」
教会?の敷地内を越え、表の通りに出た所で救人は感嘆の声をあげる。
「おおぉ……っ!? 」
通りに出てみれば、そこは『THE異世界』。中世ヨーロッパの様な街並みの中を、種種雑多な人々…いや、異人種どころか、明らかに”別人種”達まで通りを歩いていた。
(おお…!? 赤に緑に青色の髪に、ネコ耳や角が生えてる女の子が居る!? あっちにはモロに虎頭の人まで歩いてる!スゲー!アニメや漫画みたいだ!…本当に此処は異世界なんだ……!? )
某マニアックな”お祭り”でしか見かけないような女の子や、ベ◯セルクの様な大剣を背負っている革鎧の男、これぞ獣人!という虎頭、狼頭の冒険者が往来を闊歩している。
キョロキョロとそれ等の人々を見回して、一人興奮しきりの救人。例によって自分のプロフィールはすっかり棚上げである。
「結構賑やかな街でしょう?さあ、キュウトさん、冒険者ギルドはこっちですよ、私からはぐれないようについて来て下さいね 」
表通りを、冒険者ギルドに向けて歩き出すシスター改めシスティーナ。
何しろ初めての街、置いていかれては大変と、急いで救人はその後を追うのだった。
システィーナの言う通り、本当に街の中は賑わっていた。そこら中から聞こえてくる商人達の威勢のいい物売りの声や、通りのあちこちに立ち並ぶ屋台の呼び込みや食欲をかき立てる美味しそうな匂い。
店先に並んだ肉や魚、野菜に果物など、救人はいつかテレビで観た海外のバザーを思い出す。
スーパーやショッピングモールのグラム売りでパック詰めされた食材や商品を見慣れた救人には、こうして昭和の商店街の様に剥き出しのまま店先に商品が並べられている様は、どの店を見ても非常に楽しく、まるで縁日の屋台の中を歩いているような、どこか懐かしく、また新鮮な感覚を救人に与えるのだった。
そうして暫くシスティーナに付いて歩いて行くと、やがて目的の冒険者ギルドへと辿り着いた。
ドアを開けて建物の中に入ると、ロビーのようなホールの正面には受け付けらしきカウンター、左手側の壁には大きな掲示板が設置してあって、恐らく依頼書なのだろう様々な張り紙がしてある。
ロビーにはベンチやテーブルが置いてあって、順番待ちなのか、何人もの人達がすわっていた。
(何だか市役所とかハロワみたいだな……? )
そんな印象を受けた救人だったが、実際に役割り的にも似た様なものだろう。 唯一違うのは、右手側奥のスペースに、飲食出来る場所が併設されていて、小さなスーパーにあるフードコートのようになっている事ぐらいだろうか?
そんな中で、唯一人が並んでいなかったカウンターへと歩いていき、受け付けのお姉さんへと声をかけた。
「こんにちは、冒険者の登録がしたいんですけど……? 」
「えっ!? ……あ、はい!では、こちらの用紙に、お名前と年齢、それから得意な武器や魔法などをお願いします。あなたが明かしても良い、という分だけで構いませんので。次に、こちらの魔道具で、魔力の測定や賞罰の有無についての検査を受けて頂きますがよろしいですか?」
受け付けのお姉さんは、一瞬ポカンとした顔で救人を見ていたが、ハッとしたように我に返って、慌てて説明を始めた。
「次に、あなたの【魔力紋】をカードに刻み込みますので、一滴で構いませんので血液をカードに垂らして頂く事になります。最後に、登録費用は銀貨一枚です。登録については以上になりますが、よろしいですか?」
「はい、分かりました……が、問題がひとつ 」
「…? なんでしょうか?」
「え~、大変言いにくいんですが、実は俺行き倒れてたらしくて、運良く助けてもらったものの、今無一文なんですよね…、支払いの方だけ、後日という訳にはいきませんか?」
「……!? そう…ですか……、ん~、弱りましたね、誰か身元の保証人になってもらえるなら可能なんですが……?」
「ライラ、それなら私がキュウトさんの保証人になるわ!」
眉尻を下げ、困った表情のなっていた受け付け嬢、ライラへと、システィーナが声をかける。
「シス?なんでアンタが…って、ああ、成る程、ザンダさん達が拾ったのって、この子の事だったのね。うん、アンタが保証人になるなら大丈夫…だけど、いいの?」
”保証人”とはそのままの意味である。ギルドカードは身分証明になる為、各街の出入りする為には必ず必要な物だ。これが無い場合、街に入る為には通行税として銀貨5枚(約5万円)を支払わなければならない。
その為、当初は冒険者になる気も無いのに、登録費用を払わずに、カードだけを持ち逃げする事例が何件も発生したのだ。
”保証人”とは、そうした際に登録者に代わって登録費を支払う義務があり、また身元の保証人になってくれるような信頼者がいないような人物では、そもそも登録すら出来ない仕組みになっているのだ。
「ええ、大丈夫。昨日から一晩お世話をさせてもらったけれど、優しくて、とても真面目ないい人よ。キュウトさんなら信用できるもの 」
「へぇ……、一晩お世話ねぇ……(ニヤニヤ)そりゃあ信用もするかぁ~~(ニヤニヤ)」
システィーナの言葉をわざと曲解して、ニヤニヤと笑みを浮かべるライラ。始めはキョトンとしていたシスティーナだったが、ハッ!?とその意味を理解して、今にも湯気を吹きそうなほど真っ赤になって行く。
「ち、ち、違うわよ!? そーいう意味じゃなくて!」
「ハイハイ、お堅い幼馴染様にもようやく春かぁ~~、いやいやいきなり夏? にひひひひ~~! 」
「もう!ライラ!」
格好のネタを仕入れたとばかりにいじり倒す気満々のライラを、真っ赤になって止めようとするシスティーナ。
キャイキャイと女の子二人が騒ぐところは見ていて微笑ましいが、こういった時は、だいたいアレが起こるものである。
そう、”お約束”とか、”テンプレ”とか呼ばれるアレである。
ーー「おい、うるせえぞっ!何をギャアギャア騒いでやがる!!」ーー
怒鳴り声が、冒険者ギルドのロビー中に響き渡った。
ーーほうら、ね?
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