ヒーローは異世界でお巡りさんに就職したようです。

五輪茂

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報告書 1

日報 3

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「おい、うるせえぞっ!何をギャアギャア騒いでやがる!! 」

 怒鳴り声が、冒険者ギルドのロビー中に響き渡った。ーー

 怒鳴り声を上げたのは、大柄な冒険者の男だった。右手奥にあるフードコートで仲間と酒を飲んでいたのか、顔は赤く、酒精の匂いを漂わせている。

「人が連れ共と気分良く飲んでる時によぉ、うるっせぇーんだよ! ……って、よく見りゃ【女神教会】の見習い神官じゃねーか、こんな所で何してンだ?依頼にでも来たのかよ? 」

「お酒臭い……っ!? 違います、私は付き添いで来ただけです 」

 既に相当の酒を飲んでいるのか、無遠慮に顔を近付けてくる冒険者の男。吐く息はかなり酒臭い。その匂いに顔を顰めながら、それでも律儀に答えるシスティーナ。

「ふぅん?ま、いいか、どうでも。丁度いいや、こっち来いや、俺達の酒に付き合えよ 」
「ちょっ!? やめて!離して!」

 システィーナの都合などまるでお構い無しに、強引に腕を取って連れて行こうとする男に、ライラが鋭い声で待ったをかける。

「ちょっと、ドンゴ!その手を離しなさい!シスが嫌がってるじゃないの!」
「ああん? 何だライラ、お前も相手して欲しいのかよ? いいぜぇ、俺達なら二人いっぺんに明日の朝まで可愛がってやるよ、ひゃひゃひゃひゃっ!」

 フードコートの方にいた仲間達も、ドンゴの下品な言葉に ドッと笑い声を上げる。ライラの制止にも、まるで耳を貸そうとしない。

「なぁに、元々この女は前から狙ってたんだ、俺のモンになるのが、早いか遅いかの違いだけさ、なぁ?」
「私にはそんなつもりはありません!離して下さい!」
「まあまあ、そう言うなよ。一発やりゃあ、アッと言う間にこの俺の虜になるからよ!ゲラゲラゲラッ! 」

 このドンゴという冒険者、この街でも名うてのゴロツキである。確かに実力はあるのだが、その力に任せてやりたい放題で、男も女も、潰されたり泣き寝入りした人数は両手の指では足りないという、もっぱらの噂のある男だ。

 お陰で、ライラやシスティーナが、いくら救いを求める視線を周りに送っても、誰一人視線を合わせようとしない。荒事が専門の他の冒険者達も、巻き込まれる事を嫌がってか、誰も助けに入ろうとはしてくれない。

 だが、そんな中で、ただ一人傍若無人な男の手首をがっしりと掴む者があった。

「なあアンタ、この人は俺の恩人なんだ、この手を離してくれないか?だいたい嫌がってるだろう?」
「キュウトさん!」

 そう、誰あろう我等がヒーロー救人その人だった。

「何だぁ、テメェは!…って、おほっ、こりゃまた顔してるじゃねえか、良し良し、オメェも一緒に可愛がってやるからヨォ 」

 怒りの表情から一転、救人を見るなりダラシなく欲望に顔を緩ませるドンゴ。

 ーー ここで説明しなければなるまい!【キルマオー】こと天草 救人は、何と!! ーー

 それも、世に言う”乙女ゲー”なるジャンルで言うなら、勝気で生意気であったり、大人しく物静かだったりと性格は様々だが、五人組のアイドルユニットには必ず居る、ちょっぴり背が低い事がコンプレックスだったるする年下の弟的ポジションのキャラクターのような容姿をしているのだ! 
 しかも、中性的というよりは、明らかに女顔寄りの、女装が似合っちゃったりするタイプだったりもするのだ!

 ……まあ、当の救人本人にしてみれば、非っ常~~~~~~~~にっ!不本意な事ではあるのだが……。

「……はぁ、あのな、勘違いしてるみたいだから言っとくぞ?俺は、オ・ト・コ! 男だよ!!  分かったらさっさとこの手を離してやってくれ 」
「ああ”っ、男だぁ? なら用は無えよ、俺は忙しいんだ、から、さっさと消えなっ!」

 救人が男だと分かった途端、分かりやすく恫喝して来るドンゴ。だが、見た目は可愛らしくとも、救人も長年悪の組織と戦い続けて来た猛者だ、この程度の恫喝など脅しにもならない。

「まったく…、テンプレにも程があるだろ……、いいからこの手を離せってーのっ!」

 ーーギリギリギリッ!メキメキッ!ーー

「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 」

 容赦無く掴んだ手に力を込めて、握り潰さんばかりに、掴んだドンゴの腕を力一杯握り締める救人。
 その痛みに、堪らずドンゴは握っていたシスティーナの手を離す。
 そのままドンゴの腕を捻り、身体の後ろ側へと捻り上げた。

「ぎいぃぃぃっ!? は、離せこの野郎!ブッ殺されてえのか!」
「ハイハイ、あ~怖い怖い。嫌がる女の子を無理矢理とか、どう見たって”悪者”だぜ、アンタ 」
「うるせぇっ! おい、オメェ等、殺っちまえ! 」

 ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる冒険者達。どちらにしても、結局荒事はさけられないだろうな?っと、早々に対話による説得を諦めて、武力行使力尽くに切り替えた救人も、たいがいイイ性格をしているのだが……。

「ナメんなよガキがぁ!」「ブッ殺されてぇか!」「タダで済むと思うなよ!」

 怒りの感情にその表情を歪め、ダカダカと足音も荒く近付いてくるドンゴの仲間の冒険者達。
 
「くはっ!終わったぞテメェ!俺達に逆らって、この街で生きて行けるとぉ ーーー 」

 後ろ手に腕を極められているものの、仲間の加勢に勝利を確信して、兇悪な笑みを浮かべるドンゴだったが……。

「……煩い、黙れ…!」

ーーどゴッ!…ガンッ!「「グハァッ!? 」ーー

 ドンゴの尻を思い切り蹴飛ばして、加勢に来た仲間の一人に思い切りぶつけてやる救人。本当は背中を蹴りたかったのだが、身長の都合で尻になったのは内緒だ!

 その間にも、殴り掛かって来た男Aの腕を取って見事な背負い投げでロビーの床に叩き付け、すぐ様反転、いきなり投げられ宙を舞った姿に躊躇し、下がろうとした男Cの踵側に脚を差し込み、前に出る勢いのまま男Cの胸を押し込むと、為す術もなく後ろ向きに倒される男C。
 二人ともロクな受け身も取れずに頭を打ち、そのまま昏倒してしまう。

「え!?キュウトさん……、スゴい……っ! 」

 屈強な冒険者四人を、瞬く間に床へと這わせた早業に、冒険者ギルド内はシン…と静まり返る。

 助けてもらったものの、ドンゴ達四人に対して明らかに小柄(異世界比だ!:救人談)な救人では、絶対に敵わない、ヘタをすれば殺されてしまう!?と、助けを求めようとしていたシスティーナも、目の前で起きた出来事を、ただただ呆然として見詰めていた。
 ただし、その顔は真っ赤だったが…?

「ガキがぁっ!もうシャレじゃ済まねぇぞ!ブッ殺してやらぁっ!! 」

 ぶつかった拍子に縺れて倒れ、気絶した男Bの上から、ドンゴがゆらりと立ち上がる。その顔は真っ赤に染められている。ただし、システィーナとは正反対の、怒りの為だが。
 ロビーの床に ペッと唾を吐き捨てながら、とうとう腰に着けた得物を抜き放つ。

「「「キャァァァァァッ!?」」」「うわっ!? ドンゴの奴抜きやがった!」「マジか!ギルド内で信じられねえっ!?」「おいっ!誰か警備隊を呼んで来い!! 」

 突如として騒がしくなるギルド内。激昂するドンゴを鋭く見据えながら、冷めた声で救人は問いかける。

「おいアンタ…、を抜いたって事は、自分も死ぬ覚悟がある、って事でいいんだな?」
「うるせぇっ!死ぬのは、テメェだぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」

 右手に持った剣を振りかぶり、力任せに救人へと振り下ろすドンゴ。

「いやぁぁぁぁぁっ!キュウトさーーーーん!?」

 システィーナの悲鳴に、ギルド内に居た全員が真っ二つに斬り裂かれた救人の姿を幻視した。だが……!?

ーーギャリィィィィィィィィインッ!! ーー

 硬質の物が激突したような、耳障りな金属音が響き渡る。見れば、渾身の力でドンゴが振り下ろした剣を、救人は頭の直ぐ真上の位置で、左手ただ一本、素手のままで止めていたのだ!?

 いや、素手ではなかった。よく見れば救人の左手にはいつの間にか黒く染まったの様なモノが装着されていて、振り下ろされたドンゴの剣を握り締めていたのだった。
 
 ドンゴ自身も、必殺を確信していただけに、その信じられない光景に目を見張る。だが、普段から荒事に慣れているドンゴは、直ぐ様剣を両手へと持ち直し、掴まれた腕ごと両断するべく力を込めるが、まるで最初からそこに固定されているかの様にビクともしない。

「くっ!? 離せ!離しやがれっ!」

「…なあ、アンタ。さっき言ったよな、”覚悟はあるか”ってな?」

 散々人を暴力で傷付けて来た男が、下から見上げて来る、まるで少女の様な顔をした救人の鋭い視線に射抜かれて動けなくなる。
 やがて……、

ーーピキッ!ピシッ!バギィィィィィィンッ!! ーー
「ヒィッッ!? 」

 救人の手の中で、握り潰され、砕け散るドンゴの剣。ドンゴが情けなく短い悲鳴を上げた瞬間、

 ーーズドムッ!ー 「ごぉっ!?」
 ーーガッ! ー      「ガフッ!」
 ーードッゴオォォォン!! ーー

 ドンゴの腹部に突き刺さる、途轍も無く重い右の正拳の衝撃。堪らず身体を二つに折ったドンゴの顎が、すかさず下から突き上げる左掌底の衝撃に見舞われる。
 強制的に仰け反らされだドンゴの口から、噛み合わせた際に砕けた歯の破片が飛び散って行く。この時点でドンゴの意識は刈り取られ、白眼を剥いていたのだが、伸びきり無防備な状態に、トドメの右後ろ回し蹴りの一撃が突き刺さり、数メートル先のフードコートまでドンゴの身体は吹き飛ばされ、椅子とテーブルをメチャクチャに巻き込んで転がりながら停止した。

 ーーシィィィ………………ィィィィィン ーー

 再び静まり返る冒険者ギルド内。誰もが厭い、関わり合いになろうとしなかった乱暴者達が、たった一人に、それもまるで少女の様な美少年に一瞬のうちに無力化されたのだ。
 誰もが自分の目を疑い、今見た光景をすぐには理解出来ないでいた。


ーー「ピィーーーーーッ!! 警備隊だ!全員神妙にしやがれ!! 」ーー

 そんな物音ひとつしない静寂を引き裂いたのは、鋭い笛の音と共に現れた警備隊の、ひとりの婦警の叫び声だった。ーーーー






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