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報告書 1
日報 5
しおりを挟む牢屋に入れられて4日後、依頼から帰ってきた”ザンダ”という冒険者達のパーティの証言で、やっと救人は釈放との運びとなった。
「うぅ…っ、酷い目にあった……!? 」
「キュウトさん! お身体は大丈夫ですか!? 」
牢屋から出され、警備隊本部のロビーに出ると、迎えに来てくれたのか、システィーナが駆け寄って来た。
「あ、あれ?システィーナさん、まさか迎えに来てくれたんですか?」
「はい。元はと言えば、キュウトさんは私を助ける為に戦ってくれたのに、こんな事になってしまって……。本当にすいませんでした 」
救人に向かい、深々と頭を下げるシスティーナ。だが、慌ててしまったのは救人の方だ。
”正義の味方”である救人にとって、悪漢に絡まれた人を助けるのは当たり前の事。それが美人ならば尚更の事である。
「ちょっ!? 頭を上げて下さいシスティーナさん! 俺がやりたくてやったんです、謝ってもらう事なんて何もありませんよ!」
「でも……っ!! 」
私が悪い、いや自分が!とお互いが頭を下げあい、いつまで経っても終わらない。
最初は微笑んでその様子を見ていた警備隊員達だったが、その目がだんだんジト目に変わって来た辺りで、終止符を打つべく二人を怒鳴りつける声が響く。
「ぃ喧しいぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!! いつまでやってんだいアンタ等は! 鬱陶しいんだよ、もう一回ブチ込んで欲しいのかいっ!! 」
赤毛の婦警、ミーナがイライラとした顔で二人の元へとやって来る。
「ミーナさん!いくら何でも無実の罪で四日間も拘留するなんて酷すぎます!」
「仕方ないだろ、ザンダ達から供述が取れたのが、やっと今日だったんだから。何と言われようが、治安を守る為には必要だったんだよ 」
「でもっ!私が身元引受人になるって言ったじゃないですか。それでもダメだったんですか!? 」
「例え身内だろうと、特別扱いは出来ないね 」
システィーナが詰め寄るが、頑として対応を変えようとしないミーナ。
だが、これはミーナの言い分の方が正しいだろう。身元を証明する物が何もない不審人物なのだ。
街の治安を守る警備隊としては、どれほど警戒しても、警戒し過ぎという事は無い。
況してや救人に関しては、その実力でやりたい放題だった名打てのゴロツキ四人を、全くの無手で アッと言う間に叩きのめしたにも関わらず、その見た目はパッと見可憐な美少女。
見た目と中身のギャップが有るにも程があり過ぎるのだ。 子猫だと思って迂闊に手を出したら、その実ライオンより強かった、という、ある意味では見た目ですぐに”タチが悪い”と分かる先のドンゴ達よりも、よっぽど厄介で判断に困る危険人物だったのだ。
とは言ってもこの世界、一般に”神”と呼ばれる存在が定めた理の裏設定としてレベルもステータスも存在はしているものの、小説や漫画の如く『ステータスオープン!』とか叫んだところで恥ずかしい思いをするだけで、一向にそんな物は出て来ない。
モンスターを倒す、何かの経験を積む、という事で見えないレベルは上がって行くが、強くなりたければやっぱり何らかの修行を積むしか無いのだ。
例外は”魔法”で、イメージさえしっかりしていれば『炎よ!』程度の呪文でも、上級者ならば様々な炎系の魔法を使いこなすことも出来る。
まあ、だいたいはイメージの補助として呪文を唱えるのが普通で、教科書的な魔法書に通例文が載ってはいるが、自己流にアレンジしても何も問題は無い。
制限があるのは魔力量くらいだが、これにしたってゲージの様な便利な物がある訳でも無く、体力と同様に経験を踏まえて自分で判断するしか無いのである。
少し横道に逸れたが、そういった理由から、非力に見えても素の筋力に関係ない【強化】の魔法の達人で実は激強、なんて人物も冒険者の中にはいる訳で、警備隊の面々も日々苦労しているのだ。
「システィーナさん、もういいですよ。ちょっとは不満も感じますが、この人の言ってる事は正しいです 」
「……う~、当事者であるキュウトさんがそう言うなら…… 」
如何にも無理矢理、嫌々、仕方なく…、といった風情で、納得しないながらも渋々引き下がるシスティーナ。
「へぇ……、坊やの方がもっと怒ってると思ってたよ。しかし、エラく物分かりがいいじゃないか?」
驚き八割、感心二割といった顔で、救人を見るミーナ。口には出さないが、彼女自身も警備隊の職責として仕方なかったとはいえ、実は『無実の罪』だというのは自覚しているのだ。
それだけに、救人の言葉には驚きを隠せない。
「俺の住んでた国でも、”お巡りさん”が時には自分の身を危険に晒してでも日夜治安を守る為に頑張ってたのは知ってますからね、不満はありますけど理解は出来ますよ」
「そうかい、そいつはありがたい。ところで”オマワリさん”ってのは知り合いの警備隊員か誰かかい?」
「違いますよ、本当は”警官”って言うんですが、ほら、警備隊でも見廻りで街を巡回するでしょう?だから”お巡りさん”です。元々は揶揄して言う言葉だったらしいですが、今では住人皆んなが、親しみを込めて”お巡りさん”って呼んでるんです 」
「へぇ、”お巡りさん”…ね? 良い呼び方じゃないか 」
正義の味方として活動していた関係上、救人は警察とも直接関わる事も多かった。まあ、主に”助ける側”、でだったが。
何しろ悪の秘密結社【イーヴィル】の怪人・魔人は生体改造された怪物だ。並みの警官の持つ拳銃程度では歯が立たない。それこそ自衛隊の一個中隊規模の火力、戦闘力が無ければ相手にもならなかった。
だが、それでもその身を呈して怪人達を止めようとする警察の姿、その使命感や正義感に、同じく正義を守る者として深く尊敬の念を抱いていたのだ。
「それと、「坊や」はやめて下さいよ、これでも俺は18歳ですよ?」
「「え………っ!? 」」
またか……、と溜め息を吐く救人。日本に居た頃でさえ、小柄、童顔女顔と相まって、いつも中学生くらいに見られていたのだ。
「ご、ごめんなさい!? 私キュウトさんの事、14歳くらいだと思ってました。私よりひとつ年上だったんですね 」
「まさかアタシのひとつ下だったとは……!? 悪いけど、全然そうは見えないよ?」
だが、これは仕方ないだろう。システィーナ達は地球でいうところの”西洋系”の彫りの深い顔立ちをしている。地球でも、日本人に限らず”東洋系”の人種は若く見られるのが普通なのだ。
更に言えば、メイズロンドには救人の様な所謂”アジア系”の人種は一人も居ない。分からなくても当然と言えるだろう。
「いいですよ、ハハ…、ナレテマスカラ…… 」
不当拘留よりもよっぽど納得したくはないが、「可愛い」と言われることと同様に、こればっかりは仕方ない。
「………なあ、キュウト? アンタ「身分証」が無いんだったね?」
暫し思案顔となり、改めて救人に質問して来るミーナ。
「そうですよ?だから、この後で、もう一度冒険者ギルドに行って”冒険者カード”を作って来ますよ。それなら良いんでしょう?」
仕方ないとは思いながらも、ちょっとだけまだ拗ね気味に答える救人。彼の”毎日牛乳2L”という、涙ぐましい努力が報われる日は……遠い…。
だが、次にミーナの口から出て来た言葉は、まるで予想の斜め上を行っていた。
「いや、文句を言ってるんじゃ無いんだよ。アンタ、”お巡りさん”になる気はないかい?」
ーーー 何と突然のスカウトだったのだ…。
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