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報告書 1
日報 6
しおりを挟む「キュウト、アンタ”お巡りさん”になってみる気は無いかい?」
突然のミーナのスカウトの言葉に、困惑しきりの救人。
まあ、でもこれは仕方ないだろう。何しろさっきまでは無実の罪とはいえ、”犯罪者扱い”だったのだ。それが、急に掌を返したように真逆の話となれば、誰だって混乱ぐらいはするだろう。
「えぇ…と、ミーナ…さんでしたっけ? またどういった風の吹き回しで?」
「ん?そのまんまの意味だよ。”困ってるヤツは助けて当たり前”なんて考えれて、腕っ節は折り紙付き。『お巡りさん』にはピッタリじゃないか。 だいたい警備隊はいつでも人手不足なんでね、使えそうなヤツならいつだって大歓迎なんだよ 」
「うわぁ…、ぶっちゃけたよこの人…… 」
例えスカウトの為のお世辞や建て前だとしても、「君こそ求めていた人材だ 」とか「君のその力を是非欲しい!」とかならまだ分かるが、『人手不足で使えそうな奴』とは、あまりにぶっちゃけ過ぎて本気でスカウトしたいとは聞こえない。
思わず救人がジト目になってしまっても仕方ないだろう。だが、ミーナはそんな救人の視線にもまるで気にせず、ふふん、と笑いながら言葉を続ける。
「それにね、アンタにだってメリットはあるんだよ?」
「メリット?」
「ああ、なあキュウト、アンタは”身分証”が欲しいんだろう?」
「まあそうだけど、それが何か?」
「警備隊に入れば、冒険者カードなんて比べ物にならない程、これ以上無いってくらいに信用のある”身分証”が手に入るんだよ? なんて言ったって証明してくれるのは御領主様だ 」
ニヤっと笑いながらそう話すミーナ。確かに街の治安を守る警備隊に発行される身分証なら、これ以上のモノは無いだろう。
ーーふむ?と暫し考える救人だったが、疑問に思った事をそのままミーナに聞いてみる。
「なあミーナさん? 冒険者登録したら警備隊に入ることは出来ないのか?」
「いや?そんなことは無いさ。現に警備隊員の多くは一線を退いたベテランとか、理由があって一発勝負的な冒険者を辞めて安定を求めて警備隊に入った奴らが殆んどだ。まあ中には二足の草鞋で、休みの日に冒険者として依頼を受けて小遣い稼ぎをしてる奴らも居るけどね 」
つくづく正直な人だな~ と、半ば呆れながら思う救人だったが、ミーナのここまでの言動や行動に、街の治安を守る立場の人間として内に一本筋が通っている事も何と無く感じている。
そこで、救人も正直に、ありのままに伝える事にした。
「分かりました。けど、一旦この話は持ち帰らせて下さい。そういう事なら、取り敢えず先ず最低限の身の証として、先に冒険者登録だけはしたいんですよね。何と言っても今の俺、保証も何も無いんで 」
「そうかい、まあ好きにしなよ。確かに”安定収入”って言っても警備隊の給料なんて、冒険者に比べたら雀の涙だからねぇ……。冒険者になって一発勝負でドカンと当てるってのも悪かないさ。ま、賭け金は自分の命だがね?」
クックックッと喉奥でわらうミーナ。命を担保に賭けに出るか、少ない稼ぎでも堅実に行くのか?それぞれ個人の自由だが、冒険者の場合、その自由すら命と引き換えなのだ。
実際の話、身体が資本の冒険者は地球で言うアスリートと同じ、例え依頼の中で命を落とす事無く上手く立ち回れたとしても、その職業寿命は意外と短い。
それ故に、”一線を退いた”と言っても、警備隊員の中では年代的に30代くらいが一番多い。
「じゃあ、取り敢えず冒険者ギルドに行って登録してきますよ。お世話になりました 」
「ああ、じゃあジックリ考えてくれ。良い返事を期待してるよ、じゃあな 」
救人としては、最後にタップリ皮肉を込めたつもりだったのだが、そんなことは何処吹く風、ヒラヒラと手を振って去っていくミーナ。
皮肉までもが肩透かしに終わり、やや憮然とした気分のまま、警備隊本部を後にする救人達だった ーーー。
***
「よう、災難だったみたいだな 」
冒険者ギルドに着き、再び冒険者登録をしようとカウンターに向かったところで、救人とシスティーナに声をかけて来た大柄な冒険者。
だが、先日のドンゴ達のような野卑な感じは無く、少々使い込まれているが良く手入れされた革鎧などの装備に短く刈り込まれた金髪に、隙の無い仕草…。職業柄、粗野ではあっても決して野蛮では無い、おおよそ救人が想像する「歴戦の冒険者・傭兵」そのままの風貌だ。
「ザンダさん!」
「おお、システィーナ。悪かったな、何か面倒事を押し付けちまったみたいで 」
「いいえっ!? アレはミーナさんが悪いんです! ザンダさんが謝ることなんてありません!」
どうやら会話の内容から察するに、この男性こそがこの”冒険者の街”メイズロンドにあってその名を知られる高ランク冒険者にして、救人の命の恩人でもある『ザンダ』その人らしかった。
その存在だけは第1話から出ているものの、やっとご本人の登場である。
「キュウトさん、こちらがあなたを助けて下さった〈Aランク〉冒険者のザンダさんと、そのパーティ【勝利の盃】の皆さんですよ!」
見れば、ザンダの背後には胸部や肘膝など要所のみを護る軽装備にショートソードやダガーを携えた猫耳の女性や、如何にも、と言ったローブや杖を持った魔法使い風の狼面人身の男性?に、これまた如何にもな弓を持ち耳の長いエルフであろう男性。更にその後ろには、額から短い角を二本生やした二メートルは超しているであろう重装備の女性!? が揃って苦笑を浮かべていた。
「にゃはは~『キュート』君かあ~、可愛くてピッタリな名前だね♪」
「これ、リンクス、男性に可愛いは失礼だぞ」
「そうですね、それは褒め言葉にはなりませんよ?」
「ハッハッハーーッ! いいじゃねぇカ!可愛いかろうガなんだろうガ!聞いたゼェ~”キュート”、オ前ドンゴ達をブッ飛ばしタそうじゃねぇカ!? やるナァ~! 今度オレとも勝負しねぇカ!? 」
口々に騒ぎ出す【勝利の盃】のパーティメンバー達。なかなか個性的な面々だが、ふざけているように見えて、その実全員に全く”隙が無い”事に救人は気付いた。
(何だか凄い人達だな、色々な意味で…。けど、悪い人達じゃない事は確かだろう。……おっと!いけないいけない、呆気に取られてる場合じゃないや、俺まだ助けてもらった礼も言ってなかったよ!)
「うるさいぞ、お前等。見ろ、キュウト君が呆れてるじゃないか 」
「あ…いえ!ぼけっとしててすいません。改めて「救人」です。助けて頂いてありがとうございました、本当に助かりました!」
深く腰を折り、頭を下げる救人。ザンダはともかく、彼の仲間達のキャラクターのあまりの濃さに呆気に取られていたのは内緒だ。
「しかし、アズミーノの言葉じゃないが、冒険者ギルドに顔を出したら、君がドンゴ達を瞬殺したって噂で持ち切りだったぞ? どうだ、その腕を見込んで、良かったら俺達のパーティに入らないか?」
ニカッと男臭い笑みでザンダが切り出したのは、救人にとって本日二人目になる、まさかの”スカウト”だった……。
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