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報告書 1
日報 11
しおりを挟むーーーブゴオァァァァァァァァァァァァッ!! ーーーー
オークの鳴き声とは比べ物にならない、野太く凶暴さを秘めた咆哮が響き渡る。
白く長い毛に覆われた、3メートルを超す体躯。腕は長く、そしてシスティーナひとりよりも遥かに太く逞しい。視線を上に上げれば、はち切れんばかりの胸筋の上にあるのは鋭い牙を口元から生やした凶暴な猪の貌。
「バ、バーサーク・ボア!? な、何故こんな強力なモンスターが…っ!? 」
”バーサーク・ボア”とは、討伐依頼適正〈Cランク〉とされる強力なモンスターだ。その体躯が示す通り怪力剛腕、眼に映る全てが攻撃対象という”バーサーク”の名に恥じぬ凶暴さで暴れまわる。また、防御の面に於いては一本一本が針金のような体毛が斬撃を撥ね返し、鋼の如き筋肉は並みの攻撃を受け付けない。
これだけでも充分厄介であるのに非常に勘が良く、その体躯に似合わぬ俊敏さで攻撃や罠を回避するという、〈Dランク〉以下の冒険者達が”迷宮で出会いたくないモンスター”として真っ先に名前を上げる程のモンスターである。
ーーーブゴオァァァァァァァァァァァァッ!! ーーーー
「ひ……っ!! 」
適正ランクは確かに”C”だが、余程手練れで無い限り、例え〈Cランク〉といえども無傷では済まない ーーー、そんな風に言われているモンスターの咆哮に、恐怖に囚われたシスティーナは足がすくんで動けなくなってしまう。
(ヤバイな…っ!? コイツは【イーヴィル】の怪人達と同じくらいの強さを感じる! まず何とかシスティーナさん達を逃がさないと!)
何人もの怪人、魔人と戦い、幾多の修羅場を潜り抜けた救人にはシスティーナの様な恐怖も、突発的な出来事への躊躇も無い。
バーサーク・ボアの注意を自分に引き付けながら、ジリジリとシスティーナやオークに服を剥がれた女の子達から距離を離して行く。
「あ……、あ、キュ、キュウト……さん…っ!? 」
「しっ! システィーナさん、コイツの注意が俺に向いている内に早く!その女の子達を連れて逃げて下さいっ!」
システィーナ達には分からないが、強烈な”闘気”をバーサーク・ボアに向けて放ち、バーサーク・ボアの意識を自分に向けさせ続ける救人。バーサーク・ボアもシスティーナ達の存在は分かっているが、その闘気の鋭さに持ち前の野生の勘が警鐘を鳴らし、救人から目を離せないのだ。
「そんな…っ!? 無茶です! 冒険者になったばかりのキュウトさん1人でバーサーク・ボアの相手なんて……っ!? 」
「大丈夫、無理はしない! 今はその娘達を安全な所へ連れて行ってくれ!早くっ!! 」
(キルマオーに変身出来れば手っ取り早いんだが、あれから何度試しても、左腕の肘から下しか”融装”出来なかった……! まさか本体の方は地球に残ったままなのか?)
ドンゴとの一件の際、本当は左腕全体、肩の辺りまでを覆うように【魔装鎧)を召喚するつもりだった救人。だが実際には肘から下、籠手の様な状態でしか呼び出すことが出来なかった。
あの後、深夜の警備隊の独房の中で何度も試したものの、やはり結果は同じ、肘から下しか顕れる事は無かった。
闘気に加え、視線でバーサーク・ボアを牽制しながら内心で苦悩する救人。
だが、その一瞬とも言えぬその隙を、この勘の鋭いモンスターは見逃さなかった。
ーーー ブゴオルァァァァァァァァァァッ!! ーーーー
「しまった……っ!? 」
その身に誇る筋肉による瞬発力によって、一瞬の間に救人との彼我の間合いを詰めたバーサーク・ボアが、その丸太のような剛腕を救人に向かって叩き付ける。
「キャァァァァァァァッ! キュウトさぁーーーーんっ!? 」
「うわあぁぁぁぁぁっ!! 」
ーーードッゴォォォォォォォォンッ!! ーーーー
バーサーク・ボアの攻撃をモロに受け、直ぐ横にあった家屋の壁を突き破って吹き飛ばされてしまった救人。壁に開いた大穴から、埃と共にパラパラと壁だった物の破片が落ちる。
ーーブゴッ!ブゴッ!ーー っと鼻を鳴らし、自らが空けた壁の穴の向こうへと警戒を向けていたバーサーク・ボアだったが、やがて興味を無くした様に穴からゆっくりと視線を外すと、救人達が最も恐れていた事態が発生する。
警戒していた救人を排除した事で、とうとうシスティーナ達をその標的に捉えたのだ。
ーーブゴオァァァァァァァァァァァァッ!ーー
バーサーク・ボアが歓喜の咆哮を上げる。猪や豚の嗅覚は、実は犬等をも大きく上回るという。その鋭い嗅覚が伝える獲物の肉の甘さと柔らかさを思い浮かべたのか、その口元からは既にダラダラと涎を滴らせていた。
「ヒィィ……ィッ!」「イヤ、イヤ!来ないでぇ…… 」
(「いけない!キュウトさんの事は心配だけれど、今、この娘達を守れるのは私だけ、しっかりしなくちゃ…!」)
素肌の上にシーツなどを羽織っただけの女の子達は、すっかり恐怖に囚われて地面にヘタリ込み、逃げることすら出来ない。その姿を見て逆に少しだけ冷静さを取り戻したシスティーナは、腰に携えたメイスへと震える指先を延ばす。
恐怖を必死で堪えてメイスを構えるシスティーナを嘲笑い、獲物が恐怖し、脅える姿を楽しむかの様に、ゆっくり、ゆっくりと近付いて来るバーサーク・ボア。
システィーナとて、低ランクのモンスターならば手にしたメイスで何度も倒した事はある。だが、生臭い鼻息が届く位置にまで接近したバーサーク・ボアの巨体の威容の前に、せっかく固めた儚い決意が、折れ砕けそうになったその時だった。
「シスッ! 伏せろぉぉぉぉっ!《緋炎の矢》!! 」
ーーキュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッッ!! ーーーー
まるで機関銃の一斉掃射の様にバーサーク・ボアへと撃ち込まれる炎の魔法。
ーーギュブゴオァァァァァァァァァァァァッ!? ーー
バーサーク・ボアは苦悶の叫び声を上げ、爆炎を振り払う様に大きく飛び退る。そして、空気を歪める程の熱量を生み出した、魔法による炎の熱が今だ収まらぬのにも構わず、システィーナを護るが為にモンスターの前に立ちはだかったその背中は!?
「ミーナさんっ!」
「ケガは無いかい、シス? もう大丈夫だ。……この豚野郎がっ!よくもこのアタシの可愛い妹分に手を出そうとしやがったね、ブッ殺して焼豚にしてやるから覚悟しなっ!! 」
システィーナの窮地に駆け付けたのは、彼女がこの街で最も信頼し、頼りにしている姉と慕う存在、”メイズロンド警備隊08分隊隊長”ミーナだった ーーーー 。
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