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報告書 1
日報 15
しおりを挟むモンスターに弾き飛ばされ、意識を失ってしまった救人は、精神世界で【魔装鎧】の意識であり、遠い祖先である【魔王】キルバインと出会う。
キルバインは、失った"力"を取り戻すにはある条件が必要だという。
果たしてその条件とは!? 現実の世界では、刻々とシスティーナ達に危機が迫っている!
早く力を取り戻すんだ天草 救人!戦えキルマオー(笑)!みんなが君を待っているぞ!!
「"ある条件"?何だよそれっ!? いや、それを満たせば、俺はまた変身できるのか!? 」
「うむ。その通りである!」
「何だよ、勿体ぶらないで早く教えてくれよ!こうしている間にもシスティーナさん達が危ないんだっ!」
精神世界である為、外界とは時間の流れが違うとは分かっていても、救人は気が気ではない。
名前の由来は多少、少し…いや、かなり残念ではあったが、キルマオーに変身した際の力は絶大である。
あの程度のモンスターならば歯牙にもかけず倒すことが出来るだろう。
だから、たとえその条件が何であろうと、さっさと力を取り戻して現実世界へと戻り、あのモンスターを倒してシスティーナの危機を救わねばならないのだ。
「うむ。力を取り戻す為の"ある条件"とは……… 」
ゴクリ、と硬い唾を飲み込み、キルバインの言葉を待つ救人。
「"ある条件"とわっ!………………………………………………………………我を『お祖父ちゃん』と呼ぶことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」
キルバインの言葉を、文字通り固唾を飲み込みながら、前のめりになって待っていた救人は、その言葉を聞いた瞬間に ーーー ズルベタァァァン!ーーー っとズッコケた。
「な、な、な、何じゃそりゃあぁぁぁっ!? フザケてんのかこのクソじじいっ!! 」
「クソじじいではないっ!『お祖父ちゃん』であるっ!」
「だから何でだよっ!? 」
「我がそう呼んで欲しいからだっ!! 」
ババァーーンッ!と効果音が聞こえて来そうな勢いで胸を張って答えるキルバイン。その表情は、正に威風堂々、一切の迷いも曇りも無い。
「さあ、救人よ!我を『お祖父ちゃん』と呼ぶのである!」
「呼べるか、アホーーーーーーっ!? 」
「むぅ?それでは力は完全には戻らぬぞ?」
「何でだよっ!? 」
「我のテンションが違うからだっ!! 」
ーーー ドドォオォォォオンッ!ーーー
家族への"愛"に、正に身も心も捧げた漢の、魂の叫びであった!
絶句し、エサを待つ鯉のようにパクパクと口を動かしていた救人だったが、不意に黙り込み、ポツリとキルバインに問いかける。
「えっと…、その………。ど、どうしても言わなきゃダメなのか…?」
「うむ!その通りであるっ!」
「く…っ!」
揺るぎないキルバインの言葉を聞き、救人は僅かに俯き躊躇う仕草を見せた後、意を決してその口を開いた。
「……ぉ………ゃん……… 」
「む?…聞こえぬぞ!」
「ぉじ…ちゃん……… 」
「ダメだ、小さい!」
「おじ…ぃちゃん………!」
「まだまだぁっ!」
顔を真っ赤にしながら、何とか言葉にしようとするが、気恥ずかしさも手伝ってか中々普通に呼ぶことが出来ない救人だったが、【魔王】なジジイは許してくれないようだ。
「…お祖父ちゃん!」
「One more!listen to me!」
何故英語なのかは分からないが、もっともっとと要求するキルバイン。発音がいいのが返ってムカつく。
「お祖父ちゃんっ!! 」
「おおっ!? お…、おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………っ!」
【魔王】……号泣!? 突然ぼたぼたと大粒の涙を流し始めるキルバイン。
「こ、この身を【魔装鎧】と融合してより幾星霜、再び『お祖父ちゃん』と呼ばれる日が来るとわっ!? おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!感…無量であるっ!! 」
その途端、黒い輝きが救人の身体を包み始める。
「こ、これはっ!? 」
「行けい、救人よ!お前の助けを求める者達の所へっ!お前は我が【魔王】の"暗黒の力"と!【勇者】である我が妻、響子の"光の力"を受け継いだ、絶対無敵の漆黒の勇者、キルマオーである!! 」
だんだんとキルバインとの距離が離れていく。
「祖父ちゃん………!? 」
「嬉しかったぞ我が孫よ…、また遊びに来てね~~~~っ!! 」
「ク、クソ爺いっ!二度と来るかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
散々恥ずかしい思いをさせられた救人は、真っ赤な顔のまま、憎まれ口を叩きながら光に包まれて現実世界へと戻っていくのだった。
そして、そんな救人を見送っていたキルバインは………。
「………行ったか…。やれやれ、響子によく似た面差しのクセに、口汚い孫であるな。…いや、そういえば響子も口は悪かったか?…まあよいわ、今はまだ地球から来たばかりゆえ、その身体も一般の者と大差無いであろうが、我が血に連なる者なのだ、この世界に満ちる豊富な魔力で、ゆくゆくは【魔装鎧】を纏わずとも上位のモンスターなど歯牙にもかけず倒せるようになるであろうて……… 」
そうポツリと呟いたのだった ーーーー 。
ーーー ブゴオォォォォォオォォオォッ!! ーーーー
更に凶暴性を増したバーサーク・ボアの咆哮が、迷宮都市【メイズロンド】に響き渡る。
ーーー ドッゴオォォォオンッ! ーー
「く…ぅっ…!? 」
直線的なパワーはあっても、小回りの効かないバーサーク・ボアの攻撃を辛くも避けながら、何とか隙を見つけては反撃を繰り返すミーナ。
だが、無理な姿勢から繰り出す中途半端な攻撃では有効な一打を放つ事が出来ず、鋼のような筋肉を持つバーサーク・ボアに致命傷となるほどの一撃を与えることが出来ないでいた。
そればかりか、大きく振りかぶったバーサーク・ボアの力任せの一撃が地面に叩きつけられた瞬間、砕けた石畳みの破片が"飛礫"となってミーナの顔面を襲ったのだ!?
「ちぃっ…!? 」
思わずその手に携えた槍で防御したミーナだったが、一瞬、バーサーク・ボアから目を離したその一瞬が致命的であった。
ーーー ブゴオォォォォォォォォォォオッ! ーーー
「…!?…しまっ…!きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「ミーナさんっ!? 」
バーサーク・ボアの剛腕の一撃を喰らい、悲鳴と共に吹き飛ばされたミーナは、二度、三度と地面をバウンドした後にゴロゴロと転がり、道の反対側にあった家の壁に激突して、やっとその動きを止めた。
「ミーナさんっ!? ミーナさん!ああっ!……良かった、まだ息はある!」
慌てて駆け寄るシスティーナ。急いで状態を確認するが、頭部の裂傷による出血、バーサーク・ボアの攻撃を防ごうとしたのだろう、左腕を骨折しているようではあったが、それ以外には致命傷になりそうな目立った外傷は見当たらなかった。
ホッと胸を撫で下ろすシスティーナだったが、その背後から圧倒的な絶望が迫り来る。
ーーー ゴフッ!ゴフッ!グボロロロロロロッ! ーーー
「シ、シス……、アンタだけでも…、逃げ…るんだ……… 」
朦朧としながらも、システィーナだけでも逃がそうとするミーナだったが、その考えをシスティーナはイヤイヤと首を横に振って否定する。
「ダメっ!出来ない、そんなことっ!」
絶望的な状況な事は分かっている。だが、システィーナは実の姉も同然であるミーナを見捨てて自分だけが逃げるなど、到底出来なかった。
だが、残虐なる捕食者には、そんな麗しい姉妹愛など関係あるはずも無く、獲物に"トドメの一撃"を与えんと、傷付き倒れ臥すミーナを叩き潰すべく剛腕の一撃を振り下ろした。
「ダメえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 」
その圧倒的な暴力の前に、何の意味も無いと知りながらも、健気にもその身を投げ出して、ミーナの上に覆い被さりバーサーク・ボアの攻撃から守ろうするシスティーナ。
正に絶体絶命、バーサーク・ボアの無慈悲な一撃が、システィーナとミーナの頭上に振り下ろされたその刹那の一瞬!!
ーー キュンキュンキュンッッ!! ーー
ーーー ブゴオォォォォォォォォォォオッッ!!!? ーーー
"漆黒の閃光"が迸り、バーサーク・ボアの振り下ろした腕を吹き飛ばした!
突然腕を吹き飛ばされ、苦悶の悲鳴を上げてのたうち回るバーサーク・ボア。
「………え?」
絶体絶命の危機を脱したシスティーナだったが、いったい何が起こったのかサッパリ分からない。だが、その視線の先で動いた影を見て、反射的にその影の主の姿の方を見る。
振り返ったシスティーナの視線の先、建物の屋根に立つその者の姿は"漆黒"。
どこか生物的なフォルムの全身鎧を纏ったかの如きその姿。
「あの人?は………っ!? 」
戸惑うシスティーナの疑問を余所に、その"漆黒の救い主"は高らかに名乗りを上げたのだった。
ーーー「絶対無敵!漆黒勇者【キルマオー】!! 救いを求める声に応えて只今推参っ!! 」ーーーー
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遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
爺孫漫才(笑)が終わり、やっと主人公が変身することが出来ました。
相変わらず不定期更新になるとは思いますが、本年も宜しくお願い致します。
応援ありがとうございます!
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