13 / 63
第一章 真実の愛を見つけた夫
13 再会する二人
しおりを挟む「それで?どうして私を呼んだの?」
久しぶりの再会だというのに、一つに束ねた長い金髪をバサッと背中に流した女は表情を変えずにそう尋ねた。
デミルカ・ブラウンはレミリアが唯一他人に胸を張って友人であると紹介できる人間だ。アントンとの結婚式にももちろん呼んだし、デミルカの息子であるピノキオの誕生日だって毎年祝っている。大きな病院をいくつか経営するブラウン伯爵を夫に持つ彼女は、変わらず良き妻をしているようで。
ここのところ長い間顔を合わせていなかった二人がお茶をするに至ったのは、レミリアが声を掛けたからだった。
「貴女って高熱で死に掛けても電話の一つも寄越さないんだもの。まぁ、元気で居るなら良いんだけど、年に数回の茶会でしか生死の確認が取れないなんてなかなかにこっちは心配よ」
「ありがとうね、デミルカ。見ての通り私は元気よ。最近ちょっと肩が凝ってるけど、そのうち治ると思うわ」
「夫の病院を紹介しましょうか?」
「ううん、大丈夫。色々と忙しくてね、自分のことに時間を掛けている場合じゃないの」
デミルカはハッとしたように固まる。
そして、内緒話をするみたいに片手を口元に寄せた。
「もしかして……おめでた?」
「あらあら、その逆よ。離婚することになったの」
「なんですって!?」
この話を聞いたおおよそほとんどの人が発する第一声を例に漏れずに友人も叫んだ。カフェのウェイターが驚いたようにこちらを振り返る。
デミルカは目を大きく見開いたままで、今度は両方の手で赤く縁取られた唇を隠した。これ以上何も叫ばないために、だろうか。レミリアは息を吸って、ひと思いに話し始める。
「アントンがね、真実の愛を見つけたんですって。結婚三年目のお祝いの場で言われたの。相手は彼の同窓生で、両親に先立たれて支えが必要みたい」
「みたいって……そんな……!」
「受け入れようと思ってるわ。彼の気持ちが自分に戻ってくるなんて期待できないし、一度自分から離れた人に縋るほど私は馬鹿じゃない」
「ねぇ、レミリア……淡々と話してるけど貴女は大丈夫なの?二人のことは分からないけれど、私が見てきた限りでは貴女たちは上手くいっていると思っていたわ。賢い女ぶらなくて良いから、もっと本音で話しなさいよ」
「本音………?」
机の上のただ一点、テーブルクロスに散りばめられた青い花の一つを見つめて話し続けていたレミリアは、デミルカの言葉に顔を上げた。自分が今まで表していた感情は、他人からみたら格好を付けた綺麗事に聞こえるのだろうか。
ふとまた、ホークスに言われた言葉が浮かぶ。
彼は何故か、レミリアがアントンに対して未練を見せなかったことに怒っているようだった。情がないとまで言われたから流石に傷付いた。
「本音……か分からないけど、親しくしていた弁護士とギクシャクしているの。それは悲しいと思う。私はアントンや相手の女性、自分の幸せなんかを考えて最善の答えを出したつもりだけど……何か間違っているのかしら?」
「それって前に言ってたシンプソン公爵家のお抱え弁護士のこと?ほらあの、平民の」
「ええ。明け透けなく話してくれるし、忖度もないから気に入っていたの。だけど、私は彼を怒らせてしまったみたい」
「レミリア……貴女って本当に、」
何か言おうとしたデミルカはそのままグイッと紅茶の入ったティーカップを傾ける。レミリアは黙って、目の前で友人が二つのドーナツを立て続けに口に入れるのを眺めていた。
チョコレートにシナモンシュガー、異なる二つの丸い輪っかを咀嚼してお腹の中におさめると、デミルカはナプキンで口元の砂糖を拭った。
「先ずはしっかり離婚なさいな。その弁護士の彼との仲直りは、すべて綺麗になってからの方がいいでしょうね。言いたいことは包み隠さずに言った方が良いわよ、男って行間を読むのは得意じゃないから」
「言いたいこと……?」
「貴女の顔には書いてあるわ」
デミルカは薔薇の模様が入った金色のコンパクトミラーを鞄から取り出して、レミリアの前でパカッと開いて見せる。そこに映った自分の顔を見て、レミリアは静かに息を呑んだ。
853
あなたにおすすめの小説
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる