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第二章 隠された真実の愛
22 向かい風◆ユミル視点
しおりを挟む奥様は、日を追うごとに弱っていきました。
ふっくらとした頬の肉は落ち、目元には濃いクマが浮かんでいます。ここのところ早朝から夜遅くまで、奥様の部屋には灯りが点りっぱなしなのです。同じ使用人仲間によると、弁護士探しが上手くいっていないようでした。
シンプソン公爵家のお抱えの弁護士は、前当主であられるエイドリアン様がお亡くなりになった時にお世話になったホークス・レコルテ先生でした。家のことは奥様に任せっきりだったアントン様はご存知ないと思いますが、レコルテ先生はエイドリアン様の死後、何から手を付けたら良いか困っていた奥様に丁寧なサポートをしてくださいました。
眉間に皺を寄せてうんうんと唸っていた奥様も、レコルテ先生が訪問してくださった後はスッキリと晴れやかなお顔をしていたものです。「先生がつく職業って嫌いだったけど、ホークスを見ていたら考えを改めたくなるわ」と奥様が朗らかにおっしゃっていたのを今でも覚えています。
だから私はてっきり、今回のアントン様からの申し立ても、先ずはレコルテ先生に相談なさるものだと思っていました。しかし、奥様曰く新しい弁護士を探す必要があるとのことで、私はあんなに信頼を寄せていた先生に何故頼らないのか終始不思議で堪りませんでした。
「あの………奥様、お疲れのようなので少し休まれた方が良いのではないでしょうか?」
執務机に座ったままでうつらうつらと夢の中を彷徨い始めた奥様の姿を見て、私はつい声を掛けました。
「あ、ごめんなさい。私ったら居眠りをしていたのかしら?ダメねぇ、気が引き締まってない証拠だわ」
ふふっと軽やかに笑って奥様はまた電話帳をめくり始めます。左手には奥様が訪問された弁護士の方達の名前が連なったリストを持ち、その数はすでに二十軒を超えていました。
元夫であるアントン様からの手紙は、来る頻度こそ減ったもののまだ届いています。風の噂によると、アントン様は恋人であるエロイーズ様のもとで着々と裁判に向けて証拠集めをしているとのことでした。
本当におかしな話です。
証拠も何も、先に奥様を裏切ったのはアントン様なのですから。
しかし、世間はそうは思ってくれないようで、奥様は行く先々で冷遇され、不当な扱いを受けているようでした。書面上ではシンプソン公爵家の当主であるはずなのに、古い考えに固執する者たちは奥様のような頭の切れる女が恐ろしいのでしょう。
「奥様……すみませんが、私は明日から三日ほど休暇をいただく予定です。何かありましたら他のメイドたちをお呼びいただければ、」
「あぁ、そうだったわね。お友達と旅行をするんだったかしら?楽しんできてね。若い頃の旅は貴女の血となり肉となるわ」
「ありがとうございます」
奥様は私の年齢の頃、どんな日々を過ごしていたのか。一心不乱に弁護士探しに奔走する小さな背中を見ていると、そんな些細な質問を投げ掛けるのは気が引けました。
皆には伝えていませんが、明日から三日間、私は北部のウェルベリー地方を訪問するつもりです。道中では、辺境の地にも足を運ぶつもりでした。奥様のお父様であるワーレム辺境伯が統べる土地です。
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