【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ

文字の大きさ
22 / 63
第二章 隠された真実の愛

22 向かい風◆ユミル視点

しおりを挟む


 奥様は、日を追うごとに弱っていきました。

 ふっくらとした頬の肉は落ち、目元には濃いクマが浮かんでいます。ここのところ早朝から夜遅くまで、奥様の部屋には灯りが点りっぱなしなのです。同じ使用人仲間によると、弁護士探しが上手くいっていないようでした。

 シンプソン公爵家のお抱えの弁護士は、前当主であられるエイドリアン様がお亡くなりになった時にお世話になったホークス・レコルテ先生でした。家のことは奥様に任せっきりだったアントン様はご存知ないと思いますが、レコルテ先生はエイドリアン様の死後、何から手を付けたら良いか困っていた奥様に丁寧なサポートをしてくださいました。

 眉間に皺を寄せてうんうんと唸っていた奥様も、レコルテ先生が訪問してくださった後はスッキリと晴れやかなお顔をしていたものです。「先生がつく職業って嫌いだったけど、ホークスを見ていたら考えを改めたくなるわ」と奥様が朗らかにおっしゃっていたのを今でも覚えています。

 だから私はてっきり、今回のアントン様からの申し立ても、先ずはレコルテ先生に相談なさるものだと思っていました。しかし、奥様曰く新しい弁護士を探す必要があるとのことで、私はあんなに信頼を寄せていた先生に何故頼らないのか終始不思議で堪りませんでした。



「あの………奥様、お疲れのようなので少し休まれた方が良いのではないでしょうか?」

 執務机に座ったままでうつらうつらと夢の中を彷徨い始めた奥様の姿を見て、私はつい声を掛けました。

「あ、ごめんなさい。私ったら居眠りをしていたのかしら?ダメねぇ、気が引き締まってない証拠だわ」

 ふふっと軽やかに笑って奥様はまた電話帳をめくり始めます。左手には奥様が訪問された弁護士の方達の名前が連なったリストを持ち、その数はすでに二十軒を超えていました。

 元夫であるアントン様からの手紙は、来る頻度こそ減ったもののまだ届いています。風の噂によると、アントン様は恋人であるエロイーズ様のもとで着々と裁判に向けて証拠集めをしているとのことでした。

 本当におかしな話です。
 証拠も何も、先に奥様を裏切ったのはアントン様なのですから。

 しかし、世間はそうは思ってくれないようで、奥様は行く先々で冷遇され、不当な扱いを受けているようでした。書面上ではシンプソン公爵家の当主であるはずなのに、古い考えに固執する者たちは奥様のような頭の切れる女が恐ろしいのでしょう。


「奥様……すみませんが、私は明日から三日ほど休暇をいただく予定です。何かありましたら他のメイドたちをお呼びいただければ、」

「あぁ、そうだったわね。お友達と旅行をするんだったかしら?楽しんできてね。若い頃の旅は貴女の血となり肉となるわ」

「ありがとうございます」

 奥様は私の年齢の頃、どんな日々を過ごしていたのか。一心不乱に弁護士探しに奔走する小さな背中を見ていると、そんな些細な質問を投げ掛けるのは気が引けました。

 皆には伝えていませんが、明日から三日間、私は北部のウェルベリー地方を訪問するつもりです。道中では、辺境の地にも足を運ぶつもりでした。奥様のお父様であるワーレム辺境伯が統べる土地です。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

もう、今更です

ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。 やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

処理中です...