52 / 63
第四章 奥様、その恋全力で応援します!
52 日曜日4
しおりを挟む出会い方が違えば。
何か、もっと、可能性はあったのだろうか。
適当に入った美術館で一緒に奇妙な絵を見て互いに勝手な意見を言い合った。半分凍ったような道をひっくり返りそうになりながら歩いた。そうして二人して冷えた身体を温めるために近場にあったカフェに適当に逃げ込んだ。
「ふふっ、こんなに楽しかったのは久しぶり」
「そりゃあ良かった。こっちも良い気分転換になったよ。どうだ、なかなか便利な運転手だったろう?」
メニューの向こうでホークスは微かに笑う。
レミリアは何度か頷いて肯定した。
「だけど、今日は感謝のための日だったのに貴方が全部支払いを済ませたわ。レストランのときだってどうして私が戻る前に払っちゃったの?」
「当主様が遅かったからウェイターに追い出されないか心配だったんだ。おかげでチップまでたんまり請求された。あの若い男、なかなかやり手だな」
「私だって公爵家の当主なの。今日は貴方にお礼したいから、せめて何か……」
「どうせ家の資産だって返すつもりなんだろ?」
「…………!」
視線はメニューの上に落としたままでそう言うから、レミリアは返答に困った。
ホークスの推測は正しい。
レミリアは確かに、シンプソン公爵家に残された資産を邸を追い出したアントンと分割する予定でいた。もともと別にお金目当てで当主になったわけでもないし、すべてを乗っ取ったのではこちらとしても後味が悪い。
「なんで分かっちゃうのかしらね。貴方と話してると時々、全部見透かされてるんじゃないかと思って怖くなる」
「べつに俺はエスパーじゃないさ。ただ、俺の知る公爵家の女主人だったら、そうするんじゃないかと思っただけだ」
「そうね…… そのつもりよ」
レミリアは溜め息を吐いて下を向く。恨まれて、憎しみを受け続けることに慣れているわけではなかった。仮にも三年の夫婦生活を共にした元夫を、どん底に突き落として笑いたいわけでもない。
ただ、自分の場所を守りたかった。
それが与えられた役割なのだと思っていた。
いまだに「正しいことをした」という満足感などはなく、過ぎた出来事を思い返しては眠れない夜もある。だけど、こうするしかないと思ったのだ。アントンの性格、そして自分に残された時間を考えたら、これが最善だと。
カフェでの短い休憩を終えて会計を済ませ、店を出たのが夕方のこと。なんだか現実感のない夢のような一日で、ぼんやりとした頭で車まで歩いていると、近くでガラスの割れる音がした。
驚いて振り返った先に立つ人物を見て、ハッと目を見開く。相手はすごい剣幕でこちらに向かって来ていた。通路に転がった空き瓶を拾い上げて、細い腕が高々と掲げられる。
「どうして貴女が……!!アントンの家を返しなさいよ………ッ!!!!」
エロイーズが振り下ろした水色のガラスが自分に向かって弧を描くのを、レミリアはまるでスローモーションのように眺めていた。
632
あなたにおすすめの小説
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる