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08 ダンスのパートナー
しおりを挟む「まぁ……週末にダンスのレッスンを?」
「はい、お母様。パーティーに向けて良いパートナーを見つけたので、土日で練習をしようと思うの」
「それは嬉しい知らせだわ。きっとお父様も喜ぶはずよ。色々あったけれど、私たちの天使は良い協力者を見つけたのね!」
「ええ、本当に良い方です」
舞い上がって胸の前で手を組む母を横目に、ダコタはアルバートのことを考えていた。
彼が教師であるにも関わらず生徒に魅了の薬を提供したことを黙っておく代わりに、ダコタはアルバートに周年祭のパートナーとして一緒に参加することをお願いした。
ほとんどは生徒同士で参加するけれど、べつに教師が生徒に付き添っても問題はない。去年だって学校のマドンナと呼ばれる保健室の先生レイチェル・ウィンスターが、彼女にぞっこんな生徒会長と参加していた。もちろん二人は恋人同士ではないし、あくまでも目的は周年祭でのダンス。
プリンシパル王立魔法学校の周年祭で毎年行われるダンスパーティーでは、一番上手に踊れたペアに対して豪華な商品が贈られる。
去年は王都から出発して離島を一周した後に戻ってくるクルーズ船でのディナーチケットで、一昨年はフロンティア遊園地の貸切チケットだったらしい。ペアチケットがそれぞれに渡されるので、去年の優勝者のレイチェル先生は一緒に踊った男子生徒ではなく、婚約者とクルーズディナーに向かったという裏話まである。
今年の商品は、なんと隣国への二泊三日旅行。
お隣のデネボラ王国は、ここセレスティア王国から陸続きで移動出来る比較的アクセスしやすい国だ。しかし税金が低いのと金の発掘が有名で、一攫千金を狙う夢追い人たちのお陰で国内はかなり賑わいを見せている。
ダコタにとっては、ダンスの出来栄えよりも何よりも、エディとルイーズ、そしてクラスメイトの前で気落ちした姿をこれ以上見せたくないという意地があった。一人で惨めに参加するよりも、教師でも偽彼氏でも良いから、誰か殿方と連れ添って颯爽と登場したかったのだ。
その点、イメチェンのしがいがあるアルバートは適任だ。ほとんどの女子生徒が彼のことが眼中に無いだろうけれど、この一週間で男前に生まれ変わらせることが出来れば、きっと見る目も変わるはず。そしてこのお節介は容姿にコンプレックスを持つアルバートのためでもある。
(………子供っぽいって分かってるけど)
一瞬でも良いから、エディを見返したい。
彼が居なくてもしっかり前を向いて生きられる自分を見せつけたい。この考えがまだエディに囚われている確かな証拠かもしれないのだけども。
湿っぽくなる思考を頭から追い出して、ダコタはポケットから四つ折りにした小さな紙切れを取り出した。
そこには、半ば脅しのような形で手に入れたアルバート・シモンズの住所が書かれている。「また淫行教師と言われてしまう!」と騒ぎ立てるので、ダコタは変装して彼の家に向かうこと、アルバートとダンスの練習をすることは学校の関係者に話さないことを約束した。
どんな変装が良いだろう?
彼に合わせてぐるぐる瓶底眼鏡でも掛けようか。
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