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第二章 男爵とそのメイド
55.おみやげ
しおりを挟む「どうした?今日はなんだか…君らしくなかったな」
「え?」
しょぼくれた様子でそう口を尖らせるのは、いつの日か私にウイスキーを贈ってくれた男でした。貿易関係の仕事をしているらしい彼は、今日もまた「使ってくれ」と言って異国の土産を渡してくれました。
「なんだかずっと考え事をしてるみたいだった。まさか、恋でもしてるんじゃないか?」
「…………、」
黙り込む私が怒ったと思ったのか、男は慌てて「勘繰ってすまない」と謝ります。私はズラリと並んだ棚の前まで歩いて行って、一番気に入っている鞭を手に取りました。
背後で男が息を呑む音がします。
「そうね。考え事をしていたの」
「あ……女王様?」
「最近ずっとつまらなくって。何か面白いことをしない?私を笑わせることが出来たら貴方の勝ちよ、頭を撫でてあげる」
「わ、笑わせられなかったら…?」
「この鞭で尻を打つわ。ゲームみたいなものでしょう」
そう言って誘えば、欲望に忠実な男がどんな反応をするか私は知っていました。また大きく勃ち上がった雄を揺らして、四つん這いになって男は変な顔をして見せます。
彼は私の笑いなど始めから求めていません。
勢いよく鞭を振るうと、下品な声が上がりました。
しかし、最近物足りない気持ちを抱えているのは本当のことなのです。七日間しか与えていないというのに、ロカルドは今日一日中屋敷を空けていました。一言も言葉を交わさないまま、鍵を閉めて屋敷を去るとき、虚しさを感じました。
「そういえば、このお土産は何なの?」
ハァハァと息を荒げる男に尋ねると、なにやら複雑な顔をして閉口しました。早く答えが知りたいので脇腹を蹴って急かします。
「……日用品だよ。君のために選んだんだ」
「私のために?」
「本当は僕が一緒に開けたかったけれど、そんな烏滸がましい真似は出来ない。暇つぶしぐらいにはなるから、使ってみてくれると嬉しい」
「そうなの。気が効くのね」
頭を撫でてやるとトロンと目を嬉しそうに細めるので、もう一度先ほどのゲームの続きをするように命じます。
結局その後、数回の鞭打ちを受けて赤くなった尻を気遣うようにしながら男は帰って行きました。この後の予約は入っていません。私は時計を確認して、ふとロカルドのことを考えました。
(今から行ったら……驚くかしら?)
思い立ったら試さずにはいられず、私は弾かれたように受付へ上がって早上がりすることを伝えました。快く了承してくれた男に礼を伝えて、部屋に戻ると着替え始めます。
貰い物の土産の箱を掴むと、私は部屋を飛び出しました。
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