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第二章 シルヴィアの店編
31.リゼッタは擦り潰す
しおりを挟む「……っあ、エレンさん…すごい、」
「リゼッタもっとしっかり支えて…!」
ガタタッと大きな音がして私たちは思わず顔を見合わせて振り返る。店の入り口ではシルヴィアが真っ赤な顔をしたまま買い物袋を抱えて立っていた。
「あんたたち何してるの!?」
「え、言われた通り、胡椒を擦り潰してました…」
「……胡椒?」
ポカンとした顔でシルヴィアが近付いてくる。
私は手に持った陶器の鉢とすりこぎを見せた。
「何よ、紛らわしいわね。てっきり昼間からヤってんのかと思って変にドキドキしちゃったじゃない」
「……な、なんですかそれ!」
「またまたぁ~明日デートするんでしょう?この前だって眠ったリゼッタを二階に運んで降りて来るのが遅かったし」
「シルヴィア、リゼッタが風船みたいになってる」
私は慌てて両手で頬を包んだ。
揶揄われて赤面する癖をどうにかしたい。私がいかに寡黙に無言を貫いたところで、この分かりやすい頬っぺたはすべてを人様に曝け出してしまうようだ。
買ったものを袋から出して棚へ陳列していくシルヴィアを手伝いながら、深呼吸を繰り返した。
「それで、どこにデートで行くの?」
シルヴィアの問い掛けにエレンは考えるそぶりを見せた。
「そうだね。新しくできた水族館なんてどう?」
「まあベタで良いんじゃない?」
「あの…水族館ってなんですか?」
二人の会話に口を挟むと驚いたようにシルヴィアが振り返った。水を差してしまったようで申し訳なくなって少し身を縮める。
「え、水族館を知らないの貴女?」
「……ごめんなさい」
「いや、別に良いんだよ。謝らなくて」
穏やかにエレンが言いながら、水族館とは何たるものかを説明してくれる。私はその話をうんうん聞きながら頭の中で想像した。様々な魚が泳ぐ大きな水槽とは魅力的だ。ノアは行ったことがあるだろうか。
(だめだ…また考えちゃった)
どうしてもノアに回帰するこの思考を何とかしたい。せめて、明日のデートの間だけでも考えないようにしないと。エレンとデートしながら、頭の中ではノアのことを思い浮かべるなんて失礼だし馬鹿げている。
「特別な日だから、可愛くして来てくれると嬉しいな」
頭を悩ましていると横から覗き込んだエレンが甘く微笑みながらそんなことを言って来た。茶化すようにシルヴィアが口笛を吹くから私はまた恥ずかしくなる。
こうやって、だんだんと忘れていくのだろう。
ノア以外の男の人と会話を重ねて、仲良く出掛けて、過ごす時間を積み重ねて、新しい思い出を作っていく。
心臓がドキドキするのは良いことだ。
それは、私がまた恋を出来るという証拠。
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