【完結】溺愛してくれた王子が記憶喪失になったようです

おのまとぺ

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第二章 シルヴィアの店編

37.リゼッタは人形を見に行く

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「え?人形劇ですか?」
「そう。知り合いが演出を担当していてね、良かったらこれから観に行かない?」

その後に食事でも、と続けるエレンの誘いに頷いた。

水族館に人形劇と、エレンは私に次々と新しいものを見せてくれる。シルヴィアに話す良い土産話にもなりそうだし、私は積極的に彼に着いて行こうと思った。

「食事は何にしようかな?苦手なものはある?」
「そうですね…結構何でも大丈夫です!」
「いいね。女の子って好き嫌いが激しいから」
「……そうでしょうか?」
「ああ、ごめん。一言でまとめちゃダメだよね。妹がいてさ、かなり偏食なんだ」
「それは勿体無いですね…」

自分は育ったカルナボーン王国に比べると、発展したアルカディア王国では食べられる食材の種類も質も桁違いだ。この国に居るであろうエレンの妹が、それを楽しめないのは他人ながら非常に残念に思った。

そういえば、王宮に居た時にヴィラがカーラの食事について愚痴を溢していたっけ。パンだけ食べて他は手を付けないとか、トマトはいつも残しているとか。彼女がカルナボーン王国に来たら、あまりの食事の違いにアルカディアで生まれたことを感謝するに違いない。

まあ、そもそも、彼女がカルナボーンを訪れる可能性なんて無に等しいのだけれども。きっと彼女はこのまま、ノアの側で大切に愛されて生きて行くのだろう。かつての自分が、そうだったように。


「今更だけど、君がノアの婚約者だなんて信じられないな」
「元ですよ…今となっては何の関わりもありません」

歩きながら遠慮がちに切り出された話題は、私の心にまたノアの思い出を呼び寄せた。歩く速度を合わせてくれるエレンの気遣いに感謝しながら、私は自分の足元を見つめる。

ノアが来た、と寝惚けた私にエレンが告げたのはほんの数日前のこと。彼は、私を探していたと言っていた。帰りたいか?という問い掛けに答えられなかったのは、同じことが繰り返されるのを恐れたから。

私が戻りたいのは都合の良い婚約者ではなくて、ノアの寵愛を一身に受けていたあの頃の自分だった。誰かと彼の愛を分け合うなんて考えられないぐらい、自分の欲は膨らんでしまっていたのだ。ノアが求めている理想像がもしも、無欲で女独特の汚い感情とは無縁なリゼッタ・アストロープだったならば、今の私を見てさぞかしガッカリするだろう。

ノアの記憶は戻ったのだろうか?

戻っていないならば、それまでだし、記憶が戻っているのならば私に再度会いに来ない理由が分からなかった。シルヴィアの店まで来てくれて、私がそこに居ることが分かったはずなのに、どうして。


「ごめん、なんだかまた暗い気持ちにさせちゃったね」
「いいえ。そんなこと…」

気が付くと、どこをどう歩いたのか目の前には大きな倉庫が立っていた。民家などは周辺になく、建物の背には灯の消えた工場のようなものが広がっている。

「ここで人形劇をされるのですか?」
「うん、入ってみようか」
「……はい」

空はもう暗くなり、いくつかの星が顔を出している。人形劇という言葉の響きからして子供向けの上映かと思っていたけれど、こんな時間に子供が見に来るのだろうか。

先立って歩くエレンの後ろを付いて入り口の扉を潜った。コンクリートの床には所々ゴミが落ちていて、その建物が普段あまり使われているものではないような気もする。不安になってエレンの背中に声を掛けた。

「あの、本当にここで人形劇が……?」
「そうだよ。よく見てごらん、リゼッタ」

二枚目の扉を開いて、真っ暗な闇の中でスイッチが押される音がした。蛍光灯が灯されて部屋の中を照らし出す。

「……どういうこと…?」

人形劇なんて可愛らしいものとは似ても似つかない男たちの姿がそこにあった。自分より少し若いような青年から上は年寄りのような年齢の者まで、皆揃いも揃ってギラついた目をこちらに向けている。

怖くなって見上げた先で、エレンは小さく笑った。

「一つ嘘を吐いたね、演出は僕が担当なんだ。人形劇はこれから始まるよ。主役はリゼッタ、君自身だ」

逃げ出すために後方へ振り返った瞬間、頭の上から大きな袋を被せられて視界が塞がれた。完全に油断していた。

平和ボケしていた頭に教えてあげたい。
王宮を出たら最後、自分の身は自分で守らなければいけないのだと。





◆ご連絡

ストックの関係で更新時間が変更になります。
7:20、19:20

色々とご意見いただき、ありがとうございます。感想に関するお気遣いも有難いですが、他の方を不快にするような誹謗中傷などでなければ基本的に何でもウェルカムです。自分の書いた話なので、一応お返事は遅れながらもさせていただきます。(とりあえず全部お返ししました)

リゼッタにとって過酷な状況が続きますが、作者自身も彼女のことは大好きなので、何とか成長して幸せになってほしいと思います。



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