【完結】溺愛してくれた王子が記憶喪失になったようです

おのまとぺ

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第二章 シルヴィアの店編

38.リゼッタは知らされる

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シンデレラが継母や義理の姉たちに虐められているのを読んで、その境遇の不憫さを憂いた。そして、いつか自分も大きくなって、愛を誓い合える素敵な王子様と出会うことを夢見た。

25歳になった時、自国カルナボーンの第二王子が自分を婚約者として検討しているという旨の手紙を受け取って、本当に舞い上がらんばかりに喜んだ。あまり私に優しくはなかった義両親も、その時ばかりは手を取って祝福してくれた。

しかし、婚約して一年という短い年月でその生活は幕を閉じた。私の身体が弱かったとか何とか相手は理由を述べていたけれど、つまるところ疎ましく思ったのだと思う。私を厄介払いをした元婚約者はもう死んでしまったので、本当のことは聞けないのだけれど。

破談になったことを知った義両親にも愛想を尽かされて娼館で働くことになった私を、その有り余る愛で包み込んでくれたのが隣国アルカディアの王子、ノアだった。誰にも教えられなかった幸せを、深い愛情を、惜しむことなく注いでくれる彼の手を私は絶対に離さないと決めていたのに。

ノアが記憶を失くして、私は変わってしまった彼に耐えられずに逃げ出した。他の人へ向けられる優しさに心が乱されて、側に居続けることなんて到底出来なかった。

これは、罰なのだろうか。
途中で物語を投げ出した私への罰?

最期まで演じれば私はシンデレラになれた?
魔法も解けて、王子様の側には他の女が居るのに?


「さあ、みんなお待ちかねの主役の登場だ。あのノア・イーゼンハイムが今の今まで隠していた婚約者だよ、くれぐれも興奮して絞め殺したりはしないでくれ」

壇上に上がらされ、ずた袋を被ったまま、近くから聞こえるエレンの声を聞いていた。男たちの顔は見えないが、これから起こることが分からないほど私は馬鹿ではない。

人形劇なんて、上手い言い回しだと思う。すべてが終わったら私はこの一部始終を悲劇調にしてシルヴィアに語れば良いのだろうか。きっとドン引きものだ。

「残念ながら王子に汚された身体だが、悪くはない。ほら見てくれ、後ろまで見えるかな?良い脚だぞ」

エレンの手が私の太腿を叩く。何処からか聞こえてくる口笛に呆れながら、緊張しつつ服を選んだ今朝の自分を情けなく思った。こんなことならお洒落して来るんじゃなかった。

「さてさて、お姫様はどんな顔をしているのかな?鼻水を垂らして泣いていないと良いけれど……」

ドッと笑う群衆の声の中、エレンは私の頭から袋を取り払う。ぼんやりとした暗がりから急に明るくなった視界に目を細めた。十人程度と踏んでいた男たちの数は、パッと見て数えられない程には多かった。

「おや、意外にも強気な顔してるね」
「エレン…貴方のこと好きになりたかった、」
「それは申し訳ないな。俺はノアのお下がりは御免だ」

一瞬だけ心が痛んだのは、その言葉を聞いてノアに言われたことを思い出したから。誰が抱いたか分からないような女、そう言って彼は私を拒絶した。

こんな場所で慰み者にされては、それこそもうノアに合わす顔がない。迎えに来てくれた彼の優しさを受け入れずに、目先の幸せに逃げてしまった結果がこれなのだろうか。ノアが来たと聞いた時、大人しく宮殿に帰るべきだった?

「………どうして…」
「君がノアの婚約者だったから。僕らは反王党派の集まりだ。ぬらりくらりと姿を暗ます名ばかりの王子とそんな息子を野放しにする王には嫌気が差してる」
「彼はもう私に関係ない…私が婚約破棄したんです!」
「ノアはそうは思っていないみたいだ。実は王宮に知り合いが居るんだけど、ここ二週間ほどずっと王子は朝から晩まで走り回ってたみたいだよ、君を探して」

自分の耳を疑った。

「……そんな、だってノアは!」
「シルヴィアの店で僕が追い払った。来たことは伝えただろう?デートするって言ったら驚いていたな。君が僕とキスしてくれた日、彼は雨の中、君が来るのを外で待ってたんだ。知ってたかい?」
「………嘘、」

夢半分で私がエレンの唇を重ねていたあの日、ノアは同じ場所に居たということだろうか。私が彼のことを忘れようと背徳的な行為に及んでいる間も、雨に打たれながら、一人で。

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