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第二章 シルヴィアの店編
41.王子は詰められる
しおりを挟む「ノア、お前は一度でも自分の行いの尻拭いをする人間が居ることを考えたことがあるか?」
「尻拭い…?」
「お前が好き勝手遊び回っている傍らには、必ずそのケツを拭く親切な人間が控えているんだ。今だとウィリアムが上手く立ち回っているんだろうな」
「………、」
ノアは考える素振りを見せながら、話を聞いていた。
エレンは怒るでもなく、感情を露わにして喚くでもなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ。その顔にはどこか諦めすら滲んでいるような気がした。
「何でもかんでも思いのままに操るお前に憧れていた。何をしても許される。欲しいものは必ず手に入る。自由で気儘なアルカディアの王子」
「……何が言いたい?」
「馬鹿らしく思ったんだよ。お前と同じように遊び、振る舞っても俺はお前と同等の特権を得ることはできない。五年前に刑罰を喰らったよ、知ってたか?」
「知らない」
だろうな、と自嘲的に笑うと、エレンは立ち尽くす私たちの顔を順に眺めた。
「よく一緒に行った南部の娼館を覚えているか?あそこに軍の仲間と行く機会があった。運悪く付いた女がお前の知り合いだったみたいで散々詰られて揉み合いになった。お前、いったい彼女に何したんだ?」
「……覚えていない」
「彼女は死んだよ。俺が手を出したんじゃない。倒れ込んで、打ちどころが悪かったんだ。だけど、警察はそうは思ってくれないようだった」
「………、」
「監獄から出て来たら、職も爵位も失ってたよ。冤罪も良いところだろう?本来であればお前が被るべき罪だ」
涙すら浮かべて力なくそう話すエレンを見ながら、私は娼館で初めてノアの接客をする際にヴィラから聞かされた警告を思い出していた。甘い言葉を多用する彼に本気になって後を追う娼婦が多いと、ヴィラは確かにそう言っていた。
信じたくないけれど、彼本人にその気があるかないかは別として、人を誤解させるようなノアの言葉は知らない間に女たちの心を弄んで、恨みや辛みを生んでいても不思議ではない。そしてその結果、エレンが被害を被ったというのは酷く気の毒な話だった。
「ここまでは俺の個人的な愚痴。そして、此処に集まった反王党派の奴らはみんな、雲隠れして国政に参加しないお前に不満を持ってる者たちだ。国王の影に隠れてその恩恵だけ受けようなんて、随分と虫の良い話だな」
エレンの言葉を受けて、取り囲むように近付いて来た男たちは椅子に座るノアに厳しい目を投げ掛ける。ノアはただ、片肘をついて変わらぬ顔でその話を聞いていた。
「俺たちが要求するのは、反王党派を正式にメンバーに加えた議会の開催。そして、お前の心からの謝罪だ」
私は頭の中でアルカディア王国の議会の在り方を思い出す。平和を重んじる現国王オリオンは、議会の構成を王党派と中立派に分けており、過激派とされる反王党派は慣例的に収集されていなかった。以前食事の場で、反王党派の意見も聞く必要があると頭を悩ませていたけれど、当事者である彼ら側にもその願望はあったようだ。
気になるのは謝罪を要求されたノアの出方。腕を組んで冷たい目を向けるエレンの顔を見上げて、薄く笑うとノアは立ち上がった。
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