魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

11 魔法薬学



 熱血教師アーベルによる魔獣生態学の授業は無事に終了して、休み時間に入ったのを良いことに生徒たちはワラワラと席を立つ。アストロとノエルの衝突の件が気になっていたが、二人の姿を探そうとする前に名前を呼ばれた。

「クライン先生!」

「ぎゃっ」

「そんなに感嘆の声を漏らさんでください!昨日はランチをご馳走様でした。先生は二日目ですが、何か困っていることはありませんか?」

「ありません、大丈夫です!失礼します!」

 グイグイと腕を引くアーベルの怪力に逆らいつつ目を走らせるも、すでに教室内にはノエルの姿もアストロの姿も見えなくなっていた。

 溜め息を吐いて項垂れる。

 比較的大人しそうなノエルの方から喧嘩を仕掛けることはないだろうが、血の気が多いアストロがあれで引くとは思えない。きっとまだ気が済んでいないだろうから、再戦の時を待っているはずだ。

「クライン先生……お悩みのようですね」

「…………いいえ」

 アーベルに相談したらまたランチ代が吹き飛ぶことになる。今日は持ち合わせも少ないので、それだけは避けたいところ。

 身体を捻りながら今後の対策を考えていると、後ろから「気にすることはありませんよ」と和やかな声が聞こえた。

「学生なんて尖った石と同じです。互いにぶつかり合って、角が取れて、ようやく他人が触れる状態になる。自分の弱さに気付くこともまた成長だ」

「……そう…ですね、」

 いつも根性論を展開するアーベルにしては珍しくそれは正論で、コレットは休み時間を楽しむ教え子たちを眺めつつ頷いた。




 ◇◇◇




 そして二限目は魔法薬学。

 スクーターが故障したので自習、と連絡のあったピクシー・ベルーガは、電車の乗り継ぎが上手くいったようで予定より十分遅れで到着した。


「んはっ!おっ待たせ~!」

 元気よく教室に入って来たベルーガの姿を見て生徒たちはやや不服そうな顔をして見せる。自習という名のサボりを決め込むことが出来ないからだろう。

 小柄なベルーガの前に立って自己紹介をした後、コレットは邪魔にならないように教室の後ろに引っ込むことにした。自分で染めた緑髪にバチバチのピアスをいくつも付けた彼女は、確かもう四十代だったと記憶しているが、そのファンキーな見た目は年齢を感じさせない。

 ベルーガ曰く、この二年の間に魔法薬学の先生は二度ほど変わったらしい。というのも、もともと授業を受け持っていた若い教師が御法度とされている魅了薬の作成に手を貸した挙句、それを生徒に横流ししてクビになり、続く二人目は性格が教師に向かなかったようで僅か数ヶ月で心労のため離職。三人目は赴任して早々に用務員と不倫して解雇。

 そこで、魔法薬学を専門としてそれまで研究機関で働いていた彼女に白羽の矢が立ったという。

 話だけ聞くとろくでなし揃いの魔法薬学教員たちだが、ベルーガになってからは安定しているようで、ちょうど七月で一年になるとか。

「ミナ!バロン!授業中にコソコソ喋ってんじゃないよ~~アンタら付き合ってんの?」

「なっ!違うから!!」

「そうですよ、先生。僕は不純異性交遊に興味なんてありません。学ぶために魔法学校に来てるんです」

「キモッ!童貞のお気持ち表明キッモ!」

「はいはい、息ぴったり~」

 相変わらず私語の多いミナとバロンも仕方ないといった風に互いにそっぽを向いて黙る。

 ベルーガ独特のこのゆるい口調と、嫌味ではないツッコミがきっと生徒たちに受け入れられているのだとう。ふんふん、とメモを取りながら感心していたところで、コレットは一番後ろの席でノエルがまた空想に耽っているのを発見した。

 教科書も開かずにボーッと窓の外を眺める彼は余程のおっとり屋さんなのだろうか。


「ノエルくん、ノエルくん」

 他の生徒に注意を払いつつ、小声で話し掛ける。
 薄いグレーの瞳がコレットを見上げた。

「………? どうしました、先生?」

「今って授業中なんだけど、」

「ああ、分かってますよ。心配しなくてもテストはちゃんと受けるので大丈夫です」

「いやいや、大丈夫って……」

 君が大丈夫だとしても教師としてそれを許すわけにはいかんのだが、と内心ツッコミを入れて何回か頼んだところ、三回目にしてようやくノエルは教科書とノートを開いてくれた。驚くべきことに、彼のノートは真っ白で、コレットは更に心配になる。

(本当に進級する気はあるのかしら?)

 呆れ返って顔を上げた先では、先ほどまでノエルが見ていた場所にカラスが一匹止まっている。鋭く光る真っ黒な双眼が恐ろしくて、思わずブルッと震えた。

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