14 / 105
第一章 魔法学校のポンコツ先生
11 魔法薬学
熱血教師アーベルによる魔獣生態学の授業は無事に終了して、休み時間に入ったのを良いことに生徒たちはワラワラと席を立つ。アストロとノエルの衝突の件が気になっていたが、二人の姿を探そうとする前に名前を呼ばれた。
「クライン先生!」
「ぎゃっ」
「そんなに感嘆の声を漏らさんでください!昨日はランチをご馳走様でした。先生は二日目ですが、何か困っていることはありませんか?」
「ありません、大丈夫です!失礼します!」
グイグイと腕を引くアーベルの怪力に逆らいつつ目を走らせるも、すでに教室内にはノエルの姿もアストロの姿も見えなくなっていた。
溜め息を吐いて項垂れる。
比較的大人しそうなノエルの方から喧嘩を仕掛けることはないだろうが、血の気が多いアストロがあれで引くとは思えない。きっとまだ気が済んでいないだろうから、再戦の時を待っているはずだ。
「クライン先生……お悩みのようですね」
「…………いいえ」
アーベルに相談したらまたランチ代が吹き飛ぶことになる。今日は持ち合わせも少ないので、それだけは避けたいところ。
身体を捻りながら今後の対策を考えていると、後ろから「気にすることはありませんよ」と和やかな声が聞こえた。
「学生なんて尖った石と同じです。互いにぶつかり合って、角が取れて、ようやく他人が触れる状態になる。自分の弱さに気付くこともまた成長だ」
「……そう…ですね、」
いつも根性論を展開するアーベルにしては珍しくそれは正論で、コレットは休み時間を楽しむ教え子たちを眺めつつ頷いた。
◇◇◇
そして二限目は魔法薬学。
スクーターが故障したので自習、と連絡のあったピクシー・ベルーガは、電車の乗り継ぎが上手くいったようで予定より十分遅れで到着した。
「んはっ!おっ待たせ~!」
元気よく教室に入って来たベルーガの姿を見て生徒たちはやや不服そうな顔をして見せる。自習という名のサボりを決め込むことが出来ないからだろう。
小柄なベルーガの前に立って自己紹介をした後、コレットは邪魔にならないように教室の後ろに引っ込むことにした。自分で染めた緑髪にバチバチのピアスをいくつも付けた彼女は、確かもう四十代だったと記憶しているが、そのファンキーな見た目は年齢を感じさせない。
ベルーガ曰く、この二年の間に魔法薬学の先生は二度ほど変わったらしい。というのも、もともと授業を受け持っていた若い教師が御法度とされている魅了薬の作成に手を貸した挙句、それを生徒に横流ししてクビになり、続く二人目は性格が教師に向かなかったようで僅か数ヶ月で心労のため離職。三人目は赴任して早々に用務員と不倫して解雇。
そこで、魔法薬学を専門としてそれまで研究機関で働いていた彼女に白羽の矢が立ったという。
話だけ聞くとろくでなし揃いの魔法薬学教員たちだが、ベルーガになってからは安定しているようで、ちょうど七月で一年になるとか。
「ミナ!バロン!授業中にコソコソ喋ってんじゃないよ~~アンタら付き合ってんの?」
「なっ!違うから!!」
「そうですよ、先生。僕は不純異性交遊に興味なんてありません。学ぶために魔法学校に来てるんです」
「キモッ!童貞のお気持ち表明キッモ!」
「はいはい、息ぴったり~」
相変わらず私語の多いミナとバロンも仕方ないといった風に互いにそっぽを向いて黙る。
ベルーガ独特のこのゆるい口調と、嫌味ではないツッコミがきっと生徒たちに受け入れられているのだとう。ふんふん、とメモを取りながら感心していたところで、コレットは一番後ろの席でノエルがまた空想に耽っているのを発見した。
教科書も開かずにボーッと窓の外を眺める彼は余程のおっとり屋さんなのだろうか。
「ノエルくん、ノエルくん」
他の生徒に注意を払いつつ、小声で話し掛ける。
薄いグレーの瞳がコレットを見上げた。
「………? どうしました、先生?」
「今って授業中なんだけど、」
「ああ、分かってますよ。心配しなくてもテストはちゃんと受けるので大丈夫です」
「いやいや、大丈夫って……」
君が大丈夫だとしても教師としてそれを許すわけにはいかんのだが、と内心ツッコミを入れて何回か頼んだところ、三回目にしてようやくノエルは教科書とノートを開いてくれた。驚くべきことに、彼のノートは真っ白で、コレットは更に心配になる。
(本当に進級する気はあるのかしら?)
呆れ返って顔を上げた先では、先ほどまでノエルが見ていた場所にカラスが一匹止まっている。鋭く光る真っ黒な双眼が恐ろしくて、思わずブルッと震えた。
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。