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鬼男と少女魔術師のタッグ
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しおりを挟むヴァイスが店の奥に走って行って二人きりとなったアルゴとヒスイ。先ほどの謎の会話のせいか二人ともしばらく沈黙が続いた。
「おい、ヒスイ」
「な、何かしら?」
静寂を破るアルゴの呼びかけに対し、ヒスイはいたずらが見つかった子供のようにたじろぎながら返事をする。
「さっきのあれはなんだったんだ?」
「いや、その、あれは言葉の綾と言いますかなんと言いますか……ご、ごめんなさい」
アルゴの静かな怒りがふつふつと感じられる声を受けて、ヒスイは顔を反らしながらもなんとか言い訳をしようとする。しかしおそるおそる目を向けて怒る般若の顔を視界に収めるや、しゅんと小さくなり素直に謝った。
「大人をあんまりからかうもんじゃないぞ」
「あら、私は本気だったのだけど」
「……」
「アルゴは寂しい独り身なんだから別にいいじゃない」
アルゴが優しく諭そうとするがそれに対し、ヒスイは先ほどの反省はどこへやら、あっけらかんと言い返した。しっかりとアルゴの目を真っ直ぐに見て放たれた好意を乗せた言葉にアルゴは再び沈黙するが、それを好機とばかりにヒスイは追い討ちをかけた。
「さすがに年の差がありすぎるだろ……」
「恋に年なんて関係ないわよ。成人前の子がヨボヨボのおじいちゃんと結婚することもあるんだから、アルゴぐらいの年齢ならなんてことないわね。とにかく私は本気だからしっかり考えときなさいよ!」
先ほどのアルゴの攻勢はすっかり消え失せアルゴはヒスイに押されていた。年の差を理由にささやかな反撃を試みるもやはり軽くあしらわれ、最後にはなぜか逆に怒られる始末。出会ってから押され負け続けているアルゴがヒスイに勝てる日は来るのだろうか。
「いやーお待たせしました」
ちょうど二人の話が一区切り迎えた頃、ヴァイスが台車のような物をガラガラと引いて現れた。
見ると、その台車の上には大きな剣らしきものが三本ほど乗っていた。
「いつもアルゴさんが買われるのと同じぐらいの大きさの剣を持ってきましたよ。どれも名付きで私の渾身の力作ばかりです」
「名付き?」
「はい。鍛冶職人がいい出来だと思った作品には名前を付けるんですよ。その作品を名付きと呼ぶのです。まぁ鍛冶職人の腕次第なので名付きと言ってもピンキリですがね」
「そうなのね。どれがいいのかしら」
アルゴとヒスイが目を向けた台車の上にある三本の剣はいづれも形が違っていてミトレスの町では見慣れぬものも存在した。
「三本あるから一つずつ説明しますね。まずこのオーソドックスなクレイモアの大きな剣ですね。大きいですけどしっかりとした切れ味もあります。簡単に言うと今旦那が使っているものの切れ味が鋭くなったような剣ですね。見た通り両刃で、この中だと一番頑丈かな。名は死をも断ち切る冥剣デュランダル!」
なぜか剣の名を言う時だけ急に声の抑揚が激しくなり、ポーズまでつけ始めた。
急に不思議な動きをし始めたヴァイスに二人はポカンとするが、気にしたら負けな気がしたので特に突っ込むことなく残りの剣の説明を促す。
「二つ目はこの大太刀。太刀はこのあたりじゃ見かけないけど東方の国ではみんなこれを使っているらしいよ。特徴はなんといってもその切れ味だね。慣れると鉄だろうと簡単に断ち切ることができるよ。欠点は側面からの衝撃に弱いことと引くように切らないといけないから少し技術が必要なこと。後、片刃なことかな。この太刀の名は太刀きるぜ!」
東方風の名を持つヒスイは太刀を知っているのかきらきらと輝くような目でその武器を見ていたが、その武器の下手なダジャレのような名を聞くとスッと冷めた目つきに早変わりした。
「三つ目はこの大鉈。趣味半分に作ってみたもののさっきの二つに比べるとあんまり実用的じゃないかな。名は魂のソウルクラッシャーだ!」
「じゃあ、なんで持って来たのよ! あと魂とソウルが意味被ってんのよ!!」
「ふっ、細かいことは気にするな」
今まで沈黙を貫いて来た二人だったが、とうとう我慢できなくなったヒスイが勢いよく怒号を浴びせた。しかしヴァイスは自己に陶酔するかのようにキザなセリフを発し、まるで意に介さない。
「これだからあんまり来たくなかったんだよ。感触を確かめたいから持ってみてもいいか?」
「もちろん構わないよ」
自分の世界から戻って来ていたヴァイスがアルゴの問いに軽く答える。
アルゴはまず最初に紹介されたクレイモアを持ち上げ、周囲に当たらないようにしながらも軽く腕を動かす。感触的にはいつも使っているものとそう変わらなかったようで、満足するように頷くとすぐに武器を台車の上に戻した。
二つ目の大太刀を持ち上げる。細身なためか随分と軽い。太刀としてはありえないほど重いのだが、初めて持ったアルゴにはそのように感じられた。ふと、隣を見るとヒスイがなぜか食い入るように見ていた。
「太刀が好きなのか?」
「え? ああ、うん! 子供頃東方に住んでたいたから持っている人をよく見かけたの。だから懐かしいなと思って」
「そうか」
アルゴの急な問いかけに驚いたのか、慌てるようにヒスイは答えた。
アルゴとしては慣れ親しんだものの方が使いやすいのだが、ヒスイは声には決して出さないが太刀をご所望のようだ。
「ヴァイス、このクレイモアはいくらだ?」
「そうだねー。百万ミル、といきたいところだが旦那以外使えそうな人がいないから持て余しているんだ。だから在庫処分も兼ねて十万ミルでいいよ」
「それは有難い。それと控えの武器としてこんな大きなものでなくていいから、良い太刀を十万ミル以内で見繕ってくれないか」
「うん、任して」
ヒスイは最初顔には出さないが少しがっかりしているように見えた。しかし、アルゴが別に太刀を頼むと分かりやすく嬉しそうな表情をする。
既に絆されているのか、なんだかんだ言いながらアルゴはヒスイに甘いのだ。もちろんそれだけのために買った訳ではない。以前オークと戦って武器を失った時のことを思い出し、予備の武器があった方がいいかと考えたのが大きな理由だった。
しばらくするとヴァイスが奥から一メートルほどの太刀とおまけだといって鞘と剣帯を持ってきた。お金を支払ってそれらを受け取ると早速身につける。
ちなみに今回の武器代はアルゴが貯金を切り崩して支払う。最初はヒスイが払うといったが、そこまでさせるのは男としても冒険者としても余りに情けないので丁寧に断った。
「良い武器が買えてよかったね」
「あぁ、そうだな。太刀は扱いが難しいらしいから少し練習しないといけないな」
店を出て二人が満足そうに言葉を交わしながら帰路につく。
こうして新しい武器を得てワクワクするように少し気持ちを高ぶらせるアルゴと、アルゴの刀をつけた姿を嬉しそうに眺めるヒスイは宿屋へと帰り、再び残るみかんを消費するのだった。
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