あなたの愛はもう要りません。

たろ

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78話

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 陛下の前に行くと挨拶をして頭を下げて俯いたままでいなければならない。

「頭をあげなさい」

 この言葉を聞くまで。

 なのに陛下はその言葉を言わない。

 私とアッシュは腕を組んだままずっと頭を下げていた。

 陛下の視線がわたしの頭の上で感じる。

 見られている。

 どうしていいのかわからず隣にいたアッシュの腕にギュッと力を入れた。

「そなたがビアンカ嬢か……」

「………はい」

「顔を見せよ」

 陛下のその声にやっと頭を上げる。

 陛下と目が合う。

 陛下はまだ30歳を過ぎたばかりと聞いてはいたけど、近くで見るとさらに若く感じた。

 隣にいる王妃様も美しい。
 わたしを見つめる視線は温かいものに感じられた。

 戸惑いながらも何も言われないので、こちらから声をかけることもできず、ただ黙っているしかない。

 沈黙が……どうしよう……。

「………何かあれば頼ってきなさい」

「……は、はい」

 それはどういう意味かしら?

 わたしから彼を引き離したからお詫び?

 目の前にいる陛下は何を考えているのか掴めない人だと思う。
 全く表情は変わらず、椅子の肘掛けに腕を置き、自分の顎を触りながらわたしを見ている。

 隣にいるアッシュは陛下を前にしても特に緊張しているようには見えない。

「アッシュ、久しぶりだな」

「はい、陛下お久しぶりでございます。ビアンカは特に困るようなことはございません。もし何かあれば我が侯爵家が全力で守りますので大丈夫でございます」

 その言葉にアッシュの顔へ視線を移した。アッシュは私と目が合うとフッと笑った。

「そうか……お前がいればそこのお嬢さんも安心だな」

「もちろんです。すぐに気が変わる男などビアンカには必要ありませんからね」

「ほぉそう来るか」

「本当に大切な人を守るならこんなバカなやり方はしないはずです」

「一人を守ることよりもその他大勢を守ることの方が大切なのでは?それがその一人を守ることにもなるとは思わないのか?」

「一人を守ることもできないのにそれ以上の人を守れるものでしょうか?」

「わたしとお前では考え方が違うな」

「ええ、ですからビアンカは我々が守りますので」

 アッシュは私の肩に手を回し「行こう」と声をかけてきた。

 慌てて両陛下に深々と頭を下げて、アッシュに連れられて会場を後にした。

「アッシュ、あんな不敬なことを言ってあとで大変なことにならないの?」

「あ?うん、大丈夫さ。我が侯爵家はフェリックスのところの本家である公爵家よりも格は下かもしれないが、この国での発言力は同じくらいある。今回、俺たちを怒らせたことをしっかり知らしめなければ他の貴族たちに笑われてしまう」

 この国の再興に侯爵家はかなりの財力と労力を惜しまなかった。

 本来なら公爵の爵位を賜るはずだったが、亡きお祖父様はそれを良しとせず、侯爵のままでいいと断ったらしい。

 本家と爵位が同じになれば何かと問題が起きた時に面倒だと断ったと聞いている。

 アッシュは陛下の弟のような存在で幼い頃から陛下とも仲が良かったらしい。

 ミリル様や陛下に対して普通に接することができるのはそれなりに親しいからなのだろうけど、私のせいで良好な関係が壊れてしまわないか心配になった。

「アッシュ……あのね、私はもう大丈夫だよ……」

 諦めたから……学校で二人の仲睦まじい姿を何度も遠くから見て、少しずつ気持ちの整理は出来ているもの。

 これ以上周りに心配も迷惑もかけたくない。
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