あなたの愛はもう要りません。

たろ

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99話 フェリックス編

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「覚悟はできているのか?」
「ええ、もちろんよ」
「わかった」
「わかったってどちらなの?」
「………受け入れるよ」
「本当に?」
「君を愛することは絶対にないが、これから君を愛しているフリならできる」
「それでいいわ、後悔しないでね?」
「………わかってる」

 ミリルはフェリックスに手を差し出した。

「よろしくね」
「ああ、仕方がない。覚悟を決めたよ」
「あら?わたくしの婚約者になれるなんて幸せなことじゃない?」
「他の男なら喜ぶかもしれないが俺は本当はごめんだね」

 ミリルは唇を尖らせ怒りを見せた。

「もう!ビアンカを好きになる男は失礼な人が多いわね」




 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎


 フェリックスは幸せだった。

 やっとビアンカに好きだと言えて、恋人になれて、卒業と同時に婚約して、半年したら結婚するんだと勝手に決めていた。

 結婚したら甘やかして幸せにするんだと決めていた。

 そのために、周囲の者達にも頼み準備を始めていた。



 なのに、幸せは一瞬で消し去られた。




「陛下、お久しぶりです」

「突然呼び立ててすまない」

「何かありましたか?」

 いつもの陛下なら会えばすぐに軽口をたたき、笑わせようとするのに、顔をしかめて困った顔をして言いにくそうに言葉を濁した。

「ああ……うん……まぁ……なんだ……ビアンカ嬢とはその……うまくいっているのか?」

「もちろんです」

 なぜそんなことを聞くのか?嫌な予感にフェリックスは思わず緊張が走る。


「…………この国に留学生としてガルカッタ王国の王女であるミリル姫がやってくる。その世話係としてお前に頼みたい」

「いやです。なぜ王女の世話を?ビアンカに勘違いされてしまったらどうするんですか?」

「わかってる……だが、向こうから圧力がかかって、お前を指定してきているんだ」

「ミリル姫?」

「会ったことはあるか?」

「まあ、それなりに。一応これでも王子でしたから。国際会議の時は、子供達の交流会もありますし、何度か顔を合わせております」

 フェリックスにとってミリルと言われ思い出すのは、わがままで自分の思い通りにならなければ、すぐに泣き喚くうるさい女の子だったことくらいだった。

 たとえ同じ年頃でも遊びも違うし、ミリルのあのうるささにうんざりして近寄ろうとしなかった。

「ミリル姫自らがフェリックスを世話係として……指定してきた。断りたかったが……フェリックスには婚約者がいないし、同じ学校で同じ学年で、彼女と対等でいられる立場の人がいない、君に恋人がいるとは言え、ミリル姫と不適切な関係になるわけではない。あくまでも学校で困った時に助けるだけなので、断ることができない」

「嫌だと言えばどうなります?」

「俺の力を使って命令するだけだ」

「ビアンカにはミリル姫の世話をするだけだと伝えてもよろしいでしょうか?」

「ああ、もちろんだ…………イマノトコロハ」

 最後の方は陛下の声が聞き取れないくらい小さかった。

 仕方なく了承して、ビアンカの屋敷へと向かった。

 可愛くて愛らしいビアンカは突然の訪問にも笑顔で迎えてくれた。

 先ほどの陛下からの話を伝え「心配しないで」と言うと「わかったわ、フェリックスのこと信じているもの」と笑って返事をしてくれた。

 ビアンカとの学校での楽しい時間を削られて不機嫌になりながらも、ミリル姫の相手を仕方なく笑顔でやり過ごしていた。

 元々王子だったフェリックスにとって、表ではニコニコと爽やかな笑顔で接することには慣れていた。

 ミリルもまたそれをわかっていて、ビアンカの前でわざと甘えて見せるような態度をとっていた。

「ミリル、ビアンカを揶揄うのはやめてくれないか?」

「あら?フェリックスとは友人として仲良くしているだけよ?」

「ビアンカは素直で優しい子なんだ。彼女を傷つけたくない」

「ふうん、そんなに彼女が大切なの?」

「当たり前だ。だからこそ今この国にいるんだ」

「ビアンカはいいわね。恋人であるあなたに守られ、屋敷では優しい家族に大切にされているのね」

 ミリルの瞳の奥に暗い影が差す。

 そして、それからひと月も経たず、王命によりミリルとフェリックスの婚約の話が浮上した。

「は?俺がミリルと婚約?ふざけないでください!絶対に嫌です!あり得ない!」

 机をたたく手は真っ白になり手のひらには爪が食い込んでいた。

 ミリルはそんなフェリックスの姿を小馬鹿にしたように嗤っていた。


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