あなたの愛はもう要りません。

たろ

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108話

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 カイさんの言葉に「生きてる?」と小さく呟いた。

 なぜかホッとした。恨んでいるけど死んで欲しかったわけではない。

「そうですか……」

 ミリル殿下の死に気持ちが沈み、日々どこから来るか分からない不安感からいつも気持ちが張り詰めていたはずなのに、カイさんの言葉を聞いて緊張が解け安堵する自分がいた。

 人の死を願わない自分がまだいてよかった。

「カイさん、なぜ私に?………」

 ーーー話すのですか?
 それは逆に不安を呼び起こさせてしまうかもしれない。

「初めは話すつもりはなかった。ミリルの命を助けたのは俺が決めた事ではない。ガルカッタ王国の新しい王が、あの国の混乱を少しでも早く解決できるように動いたミリルに罪を軽減することにした。
 そしてオリソン国にも被害が及ぶところを未然に防げたのもミリルのおかげだった。両国の王が話し合い、ミリルは死んだことにして命を助けた」

「………なるほど」

 政治的なことは分からない。国のトップが決めたことに私が何か言うことはない。
 別に納得したわけではないけど。

「………ただ、お前とフェリックスにはなんの罪もないのにミリルのわがままで引き裂いてしまったのは事実だ。フェリックスとの婚約はミリルのわがままだった。そのわがままを受け入れ王命として無理を押しつけたのは国王だし、苦渋の決断とは言え受け入れ傷つけたのはフェリックスだ」

 二人は恋仲ではなかったのかしら?どう見てもそう見えたけど?

「そして俺はそれを止めなかった。俺の仕事は国を守ること。一人の少女の心を傷つけても、ミリルの情報は必要だった……だがな……仕事としては冷徹にならなければならないのに……父親の視点になると……」

 カイさんは義理の娘さんのことをとても大切にしている。私も彼女のことは大好きだ。明るくて優しい人。

「あああ、くそっ………すまなかった……」

 うつむき加減で言葉を詰まらせるカイさん。いつも堂々としているのに彼は本当に父親なんだ。私の父とは違い、娘を思う気持ちから、私に対しても申し訳ないと思っているのがわかった。

「ミリルは………生きることを望んだわけではない。王女としての死を受け入れていた。それを無理やり生かしたのは国だ。あいつは生きることで、ずっと罪を償わなければならなくなった」

 カイさんはどこか遠くを見ていた。
(ミリルはこれから一生自ら死ぬことは許されない。俺と同じ道を歩くことを選んだ……)

「罪を償い続ける?」

「ああ、あいつは贖罪の道を選んだ。そして……ミリルからの手紙だ」

 カイさんはそう言って手紙を渡した。

「読むのが嫌なら捨ててくれ。俺自身渡すのも迷った。だが、何も知らずに生きることが幸せなのか、知って前に進むことが幸せなのか、俺には判断できなかった。でも、ビアンカ、君は辛い思いをしてきた。だからこそ何も知らされずに生きるより、知ってなお強く生きることができると信じている」

 そう言ってカイさんは帰って行った。


 手紙はそのまましばらく私の部屋の机に置かれていた。

 読むことは簡単だ。

 でも、死を偽装してまで内密に行われたミリル殿下の生存をわざわざ私に告げるのは、簡単な事ではない。

 カイさんだって、他の人に私に話した事を知られればリスクはあるだろう。罪に問われるはず。
 そんな危険を冒してまで届けられた手紙。





『ビアンカ様。

 許してもらえるとは思っておりません。わたくしがあなたにしてきたことを思えば恨まれて当然です。
 幼い頃からアッシュに守られ、彼の隣で安心した顔で笑うあなたが妬ましかった。
 最後にもう一度アッシュに一目会いたいとこの国に来て、アッシュに守られ、そして心惹かれたフェリックスに愛されるあなたに嫉妬し、意地悪をしたのは私です。
 わたくしは王女であっても親にも誰にも愛されることもなく生きてきたから、あなたが羨ましかった。愛され大切にされているあなたがねたましく嫉妬していました。
 あなたもまた辛い日々を送っていたなんて知らなかったわ。だって幸せそうに笑っていたし、愛する人たちに囲まれていたから。
 フェリックスは国のためにわたくしと婚約しただけでそこに愛なんてなかった。彼がわたくしを愛しているフリをしたのには理由があったの。
 わたくしもそれを知ったのは婚約を解消する前だった。彼がたまたま落とした薬を拾い、なんだか胸騒ぎがして調べたら、フェリックスは心臓病で手術も難しくあと何年生きられるか分からないということがわかったの。
 だから彼は嫌がったはずなのにわたくしとの婚約を受け入れ、あなたに恨まれて嫌われる事を選んだのだと思うわ。
 婚約は長くは続かないことも彼は知っていたし、わたくしがいずれ国へ帰ることも知っていたから、婚約解消したら彼はあなたの前から姿を消す事を選んだのだと思う』

 そんな内容が書かれていた。

 フェリックスが心臓病?
 あと何年生きられるか分からない?

 私は彼が今どうしているのか全く知らない。

 彼のことは知ろうとは思わなかった。もう終わったことだから。

 彼は王都でいずれ公爵として生きていくのだろう。私が領地を出ない限り、彼ともう会うことはない。
 そう思っていた。

 お互い新しい道を歩むのだと。






 ◆ ◆ ◆

 あと少し、話が落ち着くまで感想欄を閉じさせて頂こうと思っております。

 皆様のご意見ご感想、とても感謝しております。本当に嬉しいし楽しみにしております。
 ただ、終り方は作者の考えで終わらせたい。わがままなことは承知で少しの間、閉じます。

 また終わりに差し掛かりましたら感想を受けさせていただけたらと思っております。

 申し訳けございません。





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