あなたの愛はもう要りません。

たろ

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107話

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 お祖母様も教室に顔を出してくれたある日。

「ビアンカ様!大変です!」

 メイドが慌てて新聞を持ってやって来た。
「どうしたの?」

 地方の新聞と違い王都で発行され領地に届く新聞は数日遅れる。

「ここ、ここを読んでください!」

 捲られたページに目をやると。

「………ガルカッタ王が処刑?」

 ミリル殿下は強制送還されると聞いていた。それが彼女への罰だった。

 国を混乱させるような情報を流したミリル殿下。ガルカッタ王国の王はあまりにも独裁者として名を馳せ、財政を悪化させた。
 いずれは王家は滅ぶだろうと聞いていたし、それは私がどうこう出来る事ではなかった。

 それでも……やはりミリル殿下の顔を思い出すと胸が痛んだ。

 あの美しいお姫様は今どうしているのだろう。

 他の王族はまだ処刑されたとは書かれていなかった。

 ガルカッタ王国もオリソン国のように新しい王が国を変えていくのだろう。

 そこに以前の王族の血が残ることはない。

 ふと記事の隅に、ミリル殿下は送還される前に馬車の事故で亡くなったと書かれていた。

 えっ?

 その内容は簡単なもので詳しくは書かれていない。ミリル殿下はさほど重要視されていなかったのかもしれない。

 王女が亡くなったという事実はとても大きな事件だと思うのだけど、国単位で言えば、内乱により治安も悪化している。
 虐殺も多く滅びゆく王族が一人亡くなったところで大した事ではなかったのかもしれない。

 そのくらい簡単な内容として書かれていた。

「………ミリル殿下が亡くなっていた?」

 領地に引き籠もっている私にはなかなか耳に入ってこなかった。

 お祖母様は私が読んでいる新聞を覗き込み、顔をゆがめた。

「ガルカッタ王国もまた新たな道を進み始めたのね」

「……はい………ミリル殿下のことはご存じでしたか?」

「亡くなったことは知っていたわ。向こうに帰ればどちらにしろ王族は処刑されることをミリル殿下はわかっていたと思うわ。オリソン国にいれば自国のことが違う形で見ることも知ることもできるから」

 お祖母様はため息をつきミリル殿下のことを想い、辛そうな顔をした。

「気づかずに最後まで贅を尽くしていたのは国王と王妃よ。時の支配者として栄華を極めた二人は足元から崩れ落ちていきそうになっても、気付かないふりをし続けたの。他者を見下し、自己中心的で高圧的な態度をとる君主に誰もついていこうとしない。それに気がつくことなく振る舞って自ら破滅の道へ突き進んだの」

 ミリル殿下にあまり好感を持つことはできなかった。でも、死んで欲しいとも思わなかった。

「お祖母様……少し席を外しますね」

 子供達を他の人に頼み、私は屋敷の裏庭へと行く。

 そこはあまり人が来ない静かな場所。

 私の気持ちのように空は曇っていた。

 雨がいつ降り出すのかわからない。

 フェリックス様の隣で楽しそうに笑うミリル殿下の顔を思い出す。

 悪いことをしたのだから罰を受けるのは仕方がない。そう思っていたのに、現実はとても心が痛いだけでスッキリとはしなかった。

 アッシュはその日、記事を読んで表情を変えることなく黙ったまま何も言わなかった。

 彼はミリル殿下が事故で亡くなっていることは知っていたのかもしれない。




 数日後、目の前に現れたのはカイさんだった。

「ビアンカ嬢、元気にしているようだな?」

「はい」

「お前に少し話がある」

 カイさんがわざわざここまで会いに来たのだから何かあるのだろうとは思った。

 屋敷の中ではなく、客人のために造られた小さな離れの屋敷にカイさんを通した。

 ここは普段使用人もいない。

 二人だけで話が出来る。

「ミリルのことなんだが……」

「新聞で読みました」

「うん、ここにもそろそろ届いていると思った。ミリルが亡くなったことが発表されたが、オリソン国では彼女自身あまり知られていないし関心が薄く小さな記事だった」

「はい」

「…………お前には正確な話をしなければならない」

「??」

「ミリルはガルカッタ王達の不正や悪事を自分の力では正すことはできないと悟っていた。俺がガルカッタ王国のことを調べていることを知り、俺に情報を流してくれた。それは……ミリルは王女としてガルカッタ王国を救いたかったからだ。ミリルは素直じゃないしねじれてはいるが王女として国を憂えていた。まあ、傲慢だしわがままな性格は変わらないし、オリソン国でもしっかり発揮したが、特にお前に対してはな。
 だが、オリソン国の危機を救ってくれたのも確かだ。やり方は最低だけど。
 ビアンカにとっては辛いことだらけで、それを黙認した俺や国王はお前にどれだけ詫びても頭が上がらない。
 それでもオリソン国を守るために俺たちはお前の心を傷つけることを選んだ」

 カイさんは椅子から立ち上がると、私の目の前で床に膝をつき頭を床に当たるくらい下げた。

「すまなかった、ビアンカは何も悪くないのに辛い目に遭わせた。
 俺たちは……いや俺はオリソン国を守る影だ。何があってもこの国を守るのが俺の仕事だ。一人の少女を傷つけ、無理やり恋人をミリルの婚約者にしようとした。何も悪くないお前を犠牲にすることでこの国を守ろうとした」

「今更謝っても仕方がないことでは?」

 ミリル殿下のことは心が痛んだ。
 だけど、カイさんの謝罪に心が動くことはない。

 多分私の心は、あの頃の辛さが、苦しくて忘れたくて、壊れてしまったのかもしれない。

「もういいのです。私はこの場所で静かに生きていきたい。もう何事にも煩わされたくありません」

 今フェリックス様がどんなふうに暮らしているのかそれすら興味がない。

 ただ人の死を願うほど、人の心を失くしたくはないと思っている。だからこそミリル殿下の死が胸を痛めただけ。

「ミリルは……生きているんだ」

「え?」










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