あなたの愛はもう要りません。

たろ

文字の大きさ
114 / 125

114話

しおりを挟む
「………久しぶりだな」

「………」
 彼の声があまりにも優しくて声が出なかった。

「俺に会いにきたんだろう?」

「…………」

 コクンと頷いた。

 でも顔を上げることができなくて地面をただ見つめた。

 茶色土と所々に生えた雑草が目に入る。それをただ黙って見つめていた。

「ビアンカ………もう納得した?今の俺には何もない。静かに死を待つだけだ」

 頭の上に聞こえてくる話し声に耳を塞ぎたくなる。
 手が震えた。
 唇を強く噛み締めてガリッと下唇を噛んでしまう。鉄の味が口の中に広がる。

 顔を上げてフェリックス様を見つめた。

「何か……治療法が……あるかもしれない」

 弱々しい声が出た。

 フェリックス様は静かに首を横に振る。

「ない。いろんな医者に診てもらった。でも、今の医療では助からないと言われた……ビアンカ、俺はこの土地で静かに過ごしたい……君を傷つけたことは申し訳なかった。でも、もう忘れて欲しい」

「忘れたよ?頑張って忘れた。忘れて新しい人生を歩もうと思ったよ。なのに……あなたが死ぬなんて聞いて、そうなんだで終われなかった」

 涙が溢れる。

 これはフェリックス様へのまだ残っていた愛情?それとも同情?
 自分でもよくわからない……だけど、フェリックス様のところへ会いに行きたいと思った。

 ふとサクさんが言った言葉を思い出す。

「素直でいてくれ」

 うん……サクさん。
 わたし、素直になったよ。やっと素直に彼と向き合える。

 だからお願い、サクさん。

 わたしの命をあげるからフェリックス様を助けて……

 心の中でサクさんを呼んだ。突然現れるわけがないのに。もう誰の記憶にも残っていないサクさん、どこにいるのかもわからない。

「フェリックス様……最後まで諦めるなんて貴方らしくない。諦めないで!」

「君になんの権利があって俺を責める?」

「違う……ただ、まだ諦めてほしくなくて…………「やめてくれ!俺をこれ以上惨めにさせないでくれ」

 フェリックス様はそう言うと袖を捲り上げ細くなった腕を見せた。

「筋力もなくなり体重も減った……もう俺は君を守ることもできない……」

 フェリックス様の瞳に光るものが見えた。

 もうこれ以上話をしたくないと彼は私に背を向けた。

 それは完全な拒絶。

 わたしは彼の後ろ姿を黙って見送るしかなかった。だってわたしには彼を助ける術も、彼のそばにいる資格もない。

 もう彼を忘れると決めたのは私だったから。

「宿に戻ろう」

 そう呟いて宿へ戻った。

「帰ろうかな……」

 部屋に入ると椅子に座りテーブルに顔を伏せたまま時間が過ぎる。

 諦めて帰ろう……そう思うのにいっこうに体が動かない。

 領地に帰ればたくさん仕事が待っている。お祖母様も心配して私が帰るのを待っている。

 アッシュも代わりに仕事をこなしてくれている。

 みんなに迷惑と心配をかけているのに……フェリックス様の姿が頭から離れない。

 シズナが心配して部屋に顔を出して、「ビアンカ様お食事はどうなさいますか?少しでも食べましょう」と声をかけてきた。

「食欲がないの」

「でも……少しでも……」

「ごめん……一人にさせて」

「わかりました、何か用事があればすぐに声をかけてください」

「うん、ありがとう」

 シズナは何か言いたそうにしていたけど私が俯いたまま顔を上げないので、それ以上は何も言わずに部屋を出た。

 どれくらい時間が経ったのだろう。
 窓の外から雨音が聞こえてきた。

 私はその雨に誘われるように傘もささず外に出た。

 冷たい雨がとても気持ちいい。

 雨の中歩けば泣いていても誰にもわからない。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う

ましろ
恋愛
「赤ちゃんができたの」 母の言葉に目眩がした。 我が家の両親は恋愛結婚。身分差から駆け落ち同然で一緒になった二人は未だにその愛は消えず、燃え上がり続けているのだからある意味凄いわ。 でもね? どうしてそんなにも子どもを作ってしまうの⁉ 私を入れて子どもは七人。お父さんの給料ではお手伝いさんなんか雇えるわけもなく、おっとりしたお嬢様気質の抜けないお母さんだけで家事育児などできるはずもなく。 そうなると働き手は長女の私だ。 ずっと小さな頃から弟妹のお世話と家事に明け暮れ、それなのにまだ産むと言うの? 「……ねえ、お母さんにとって子どもって何?」 「うふふ。それはね、愛の結晶よ」 愛。愛って何? 私はあなたの愛のために働き詰めなのですけど? 自分達の手に余るなら、そんなモノなど捨ててしまえっ! ❦R-15は保険です。 連載中のものが止まったままのくせに!とは言わないで(泣) 現在、作業中のものがなかなか終わらなくて息抜きのための不定期連載です。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...