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115話
しおりを挟む雨の中何も考えずに歩いて、結果……
熱を出した。
当たり前だ。
ずぶ濡れになって宿に帰った時には体温は下がり震えてお風呂に入ってもなかなか寒さから抜け出せなかった。
夜になると一気に熱が上がり、セオルドが慌てて医者を呼びに行ってくれた。
シズナがずっと付き添って看病をしてくれたおかげで、なんとか三日後には熱も下がり起き上がれるようになった。
シズナがパン粥を宿屋の主人にお願いして作ってもらった。
「少しでも食べてください」
「うん」
まだ食欲はなくできれば何も口にしたくなかったけど、シズナの心配そうな顔を見ると要らないとは言えず、一口食べた。
「……美味しい」
食べ物を受け付けないと思っていたのに、お腹は空いていたみたい。
お皿の半分を食べて「これ以上は入らない」と断りを入れて食べるのをやめた。
シズナはお皿を片付けて部屋に戻ってくると次は苦い薬を「はい飲んでください」と渡してきた。
顔を顰めながらも自分が悪いことはわかっているので、我慢して飲むしかない。
なみなみに注がれた水を全部飲んでなんとか苦い薬の味を口から逃がそうとした。
なのに苦味だけはしっかり残っていた。
「次に薬が出される時は甘い薬にしてほしいと頼んでね?」
シズナは「そんなわがままを言う前に自己管理をしっかりしてください」と窘められた。
「心配かけてごめんなさい」
セオルドは最近この国で忙しそうに仕事をしていた。
「兄はせっかくなのでこの土地で作られる小麦を領地に輸入しようと考えていて、ここの領主と話し合いをしています」
「なるほど」
私はフェリックス様のことで頭がいっぱいだったけど、セオルドは領地のためになる仕事をしていた。そろそろ自分も現実を見て、自分の居る場所へと戻ろう。
体調が戻り三人で町へ買い物に向かった。
この領地で作られる絹の繊維には、適度な吸湿性と放湿性があり、強さ、しなやかさが備わっている。絹糸作りは、蚕を育てることから始まり、手間をかけて作られた糸で織られた絹は、先に述べた機能性に加え、優雅で美しい光沢があり軽い。
特にこの領地で作られる絹は独特な光沢を放ち、美しさと機能性を併せ持ち、長らく高級品として扱われてきた。
セオルドはこの絹にもとても興味を持っていて、服屋を見つけると店に入りたがった。
「ビアンカ様、ここで一枚ドレスを作りませんか?」
「ええ、そうね……」
何軒も店に入ってはドレスを注文した。
「セオルド?私そんなにドレスを着ることないのだけど?」
お金がかかるのはいいんだけど、こんなに買ってどうするのかしら?
私の疑問にセオルドは笑いながら。
「全て領地へ送って、向こうでここの絹で作られたドレスを社交界でお披露目するつもりです。ビアンカ様、ぜひあなたがモデルになって宣伝して欲しいのです」
「……そうね、お金になることは喜んでしないといけないわね」
「ええ、そろそろ帰りましょう。仕事がかなり溜まっていますよ」
シズナが落ち込む私のお尻を叩く。
「ふふ、そうね。当たって砕けたからもういいかもね」
数日後。
宿屋をひき払い、馬車に乗る。
「お願い、最後にフェリックス様の住む屋敷を回ってくれない?」
屋敷の方へ行ったからといって、もう彼の姿を見れないかもしれない。
だけど未練を捨てるためにも最後にもう一度、ここに来てから毎日通った場所へ行きたいと思った。
セオルドは何も言わず了解しましたと、馬車を向かわせるように御者に伝えた。
シズナはそっと私の手を握りしめて「行きましょう」と言ってくれた。
でも、やはりいつもの時間、いつもの場所にフェリックス様はいなかった。
それでも一度馬車を降りていつもの場所に佇んだ。
これで最後。
彼の姿はなくてもいつも彼が居る場所に視線をやる。
その時背後に人影を感じた。
「誰?」
シズナとセオルドも一瞬緊張して私を庇おうと体を動かした。
でも目の前にいたのはいつもフェリックス様と散歩に付き添っているアリだった。
アリは恐る恐る話し出した。
「突然申し訳ございません。わたしはフェリックス様の看護をさせていただいているアリと申します」
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