あなたの愛はもう要りません。

たろ

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117話

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 馬車に乗り込むと、すぐに彼の屋敷へと向かった。屋敷はいつもフェリックス様が散歩する場所から離れていない。

 でも、令嬢である私では歩くだけで時間がかかるので馬車に乗った方が早い。

 フェリックス様が王子だった時に住んでいたお城や公爵令息であった時に住んでいた大きな屋敷に比べると、とても……とても小さな屋敷。

 僅かな使用人達と細々と暮らしているのがわかる。

 歩いていてもとても静かで人の気配がしない。まるで廃墟のように感じた。

 屋敷の敷地に馬車が着き、降りて、少しだけ歩く。

 玄関の前に着くと「どうぞ」とグローが玄関を開けてくれた。

 屋敷の中は思ったよりも明るくて、陽が差していて部屋を明るく照らしていた。

 それだけでホッとする。

 アリが案内をしてくれた。

 廊下を通り二階へと向かった。

 彼女について行くと「ここです」と言ってドアをノックした。

 中から「どうぞ」と女性の声が聞こえた。

 アリに続いて部屋の中に入ると、そこはカーテンを開けられてとても明るい部屋だった。

 もうすぐ死ぬ病人が横たわっている部屋には見えない。

 でも、看護をしている女性の顔色はあまり良くなかった。

 私の姿を見ると「こちらへ」とフェリックス様の眠るベッドへと促された。

「………フェリックス様……」

 恐る恐る彼の顔を見る。

 声をかけるも反応がなく意識が混濁しているみたい。

 私の声に僅かに反応して視線を動かすも、きついのかすぐに瞼を閉じた。

 私の知る数日前の彼ですら痩せ細り弱々しく思っていたのに、今はもういつ亡くなってもおかしくない状態だった。

 彼の手を静かに握り「彼に何かしてあげることは?」と看護をしている女性に質問すると「今は特に何もありません」と答えた。

「そう……わかったわ。少しでいいからフェリックス様と二人だけにしてほしい」

「ビアンカ様っ」
 シズナが止めようとした。

「私がフェリックス様と二人っきりになっても誰が咎めるというの?ここはオリソン国ではないし、人の目など気にする必要はないわ。私は彼の友人として少しの間そばにいてあげたいの」

 貴族令嬢が男の人と二人っきりでいることは醜聞となり、必ず使用人や誰かしら、お目付役としてそばにいないといけない。でもここで、誰の目が気になるというの?
 そんなこと、今はどうでもいい。

 シズナもわかってはいても仕事なのであえて言わなければならなかった。

「ビアンカ様……わたし達は廊下で待機しております。何かあればすぐにお声をおかけください」

「わかったわ」

 みんなが部屋から出ていくと、近くにあった椅子に座りもう一度彼の手を握りしめた。

 ただ彼の寝顔を静かに見つめていた。

 何度か、アリともう一人の女性サラが交代で看護に来た。

 彼の体を拭いたり薬を飲ませたり、体調の確認をしたりするのを少し離れたところで見ていた。

 その夜はフェリックス様の屋敷に泊めてもらうことにした。

 シズナとセオルドも部屋を用意してもらった。

 私はフェリックス様の部屋に泊まることにした。
 二人が何か言おうと口を開きかけたが、、私が頑なに意見を通し譲らないのがわかって諦めたようで、ため息をついた。

「ビアンカ様、あなたの見張り役に指名されてここについてきておりますが、わたしは今休暇中です」

「僕はまだ色々仕事がありますので忙しくて、ビアンカ様の行動まで見張る暇はありません」

 そう言って各自の部屋へと帰っていった。

 私はフェリックス様の部屋に備えられたシャワー室を使わせてもらい、簡素なワンピースに着替えた。

 流石に病人とはいえ彼の前で寝巻き姿にはなれなかった。

 隣に続き部屋として看護用の小さな部屋があり、ベッドも置かれていた。

 私は夜は隣の部屋で寝るつもりだった。でも彼の息苦しそうに眠り続ける姿がとても心配で眠ることはできなかった。

 睡眠不足の中、次の日も国へ帰るのを延期してフェリックス様のそばにいた。

 ずっとただ静かに。
 ずっと祈り続けた。

 少しでも彼が楽になれるように。
 でも、死んでほしくない。

 何か奇跡が起こらないかと、神に祈り続けた。


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