【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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束の間の時間。②

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「駄目よ」

「ええ、賛成できないわ」

 エマとサラは二人して首を縦にふらない。

 キリアンはアイシャの腕の中で「いく!」と言って譲らなかった。

 2歳児とはいえ聞き分けの良いキリアンがアイシャとお出かけをすると駄々をこねて譲らない。

 アイシャは困った顔をしながらキリアンの頭を撫でた。

「キリアン君、どこに行きたいの?」

「おそと!こうえん!おみずがいーっぱいの!」

 キリアンは絵本を開いてアイシャを見上げながら目をキラキラさせた。

 今キリアンのお気に入りの絵本は、湖にすむ妖精の話だった。だからキリアンは湖に行って、湖を見てみたかった。

 アイシャがサラの家に来てからエマもアイシャの看病に忙しくあまり外遊びをキリアンにさせてあげられなかった。

 キリアンは庭師のエインと庭で遊んで満足していると思っていたが、やはり外に出て回りたかったのだろうとサラも叱ることはできなかった。

 アイシャ自身も久しぶりに身体が楽になったのでキリアンのためにも外に出たいと思った。キリアンがいつもそばにいてくれた。だから今度ばキリアンのために何かしてあげたかった。

 多分これが最後の外出になるだろうと本人も感じていた。

 ただ、自分のわがままで『外出したい』と口に出すのは憚られた。

 外にいる護衛、エイン、みんなが自分を守ってくれていることを知っていた。以前いた護衛たちが突然姿を見なくなったのも自分のせいだと本当はわかっていて心を痛めていた。

 次に何かあればまた周りに心配と迷惑をかける。じっとベッドの中で過ごすのが一番賢明だと理解していた。

 それでも………

「………わたしも……一度でいいからキリアン君とお出かけしたいです」

 勇気を振り絞りわがままを言ってみた。

 エマとサラは困った顔をしながらも思案して、「先生に訊いてみるわ」と言ってくれた。

「やったあ!!」

 まだ何も決まっていないのにキリアンは嬉しそうにアイシャに絵本を読んでもらった。

「おねぇたん、ここ、いこうね。いたいの、なおそ?」

「……キリアン君……」

 アイシャは思わず固まった。

 キリアンは絵本に書いてある『湖にすむ妖精が願い事を叶えてくれる』という言葉を信じて、アイシャのために出掛けたいと言っていると知って、瞳が潤んでしまった。

 近くにいたサラも、二人の姿を見て俯いてハンカチで目を拭いていた。

 なんとか外出許可を貰おう。
 自らゴードンに会いに行ったサラは、渋るゴードンをなんとか説き伏せた。

「アイシャは今癒しの魔法で一時的に体調が良くなっただけでいつまた動けなくなるかわからない。今度発作を起こせば命に関わるんだ。外出など無理に決まってる」

「王城内に王族しか入れない森に湖があるでしょう?あそこなら家からも近いし、何かあってもゴードン様やカイザ様が対処できると思うんです。お願い、あの子達の願いを叶えてあげたいんです。それにアイシャも外に出て楽しむことができたらまた生きたいと思ってくれるかもしれません」

「………あそこは、アイシャが幼い頃何度か遊びに行った場所だ。王子と二人仲良く遊んでいた。わしも二人の楽しそうな姿をよく見ていたよ」

「アイシャが幼い頃?」

「ああ、だが、アイシャが顔を出さなくなって王子も笑顔が減って勉強ばかりするようになった。アイシャも元気で明るい子だったのにいつの間にか大人しく笑うことがなくなっていた……あの湖に連れて行けばアイシャも少しでも気持ちが変わるかもしれないな」

 ゴードンはすぐに陛下に謁見を申し込んだ。

 王族でもある自分が共に行ければよかったのだがあいにく今とても仕事が忙しい。ただ宰相の娘で王家とは血が繋がっていることもありアイシャが湖に行く許可はすぐに取れた。

 もちろんサラはゴードンの婚約者として許可を得てエマやキリアンもその親族として無理やりだが許可をもらうことができた。

 次の日、ゴードンの公爵家から数人の護衛を連れて、王城内の湖へと向かった。

 アイシャはまさか昨日の今日でお出かけができるとは思ってもいなかった。

「おねぇたん、そと、たのしいね」

 迎えの馬車に乗って向かう道はアイシャにとって見慣れた道だった。
 毎日のように歩いて通った王城へと向かう道。

「サラ様、この道は王城へ向かう道と同じなんですね」

 サラはアイシャに王城内の湖だと伝えていなかった。でも外を見れば誤魔化せないのは当たり前だった。

「今から行くところはゴードン様が許可をとってくれた王城内の湖なの。あまり遠くには行けないし、何かあったらすぐ対処できて、しっかりと城を守る人たちが多い安心できる場所を選んだのよ」

「そうですか」

 アイシャは城に近づいてくると顔色が悪くなってきた。

「どうしたの?」

 サラが心配して声をかけた。

 アイシャは「なんでもありません、少し馬車に酔っただけです」と言ったが、内心はとても不安で胸が押しつぶされそうだった。

 王太子妃教育を受けに通った日々、それは屋敷から出られる唯一の時間。王妃は厳しいけど自分を見てくれる。

 それでも………思い出してしまう。毎日睡眠を削り必死で勉強をした。

 屋敷ではまともな食事は出してもらえず「食べたいなら働いてください」と侍女長に冷たく言い捨てられた。

 雑巾を持って床を磨いた。窓を拭いた。

 最初の頃は他の使用人が心配して手伝ってくれることもあった。でもその使用人はいつの間にか辞めさせられていた。

 だから「誰も私に構わないで」とお願いした。

 ひとり、あの屋敷で使用人のように扱われたり、居ない存在として無視されたり、たくさんの宿題と復習に追われ寝る時間も削られた。

 幸せすぎる今、あの辛い日々を思い出してしまい、息苦しくなってしまった。

 そして……母の冷たい視線、無関心な父の目、忙しすぎて妹に興味すらない兄。

 冷たい態度の使用人達、嘲り呆れた目で見る伯母と従姉。

 忘れていたのに、考えないようにしていたのに、思い出すのは辛い日々ばかり。

 それでも王城内に馬車が入りそのまま脇道を抜けて裏山へと向かった。

 森の中まで馬車道は続いていて湖に着いた。

 青白い顔をしたアイシャを心配そうに覗き込むキリアン。

「だいじょおぶ?」

「うん、馬車からおりて新鮮な空気を吸ったからもう平気」

 アイシャは護衛に抱きかかえられて馬車を降りた。

 アイシャのためにゆっくりと座れる椅子が用意されていてそこでしばらく美しい湖を眺めていた。

 キリアンはアイシャの足元にくっつくようにシートの上に座って美味しそうに早速おやつを食べ始めた。

 そんな可愛いらしいキリアンを見てアイシャは微笑んだ。

「キリアンくん、美味しい?」

「うん」

 アイシャはキリアンの笑顔に不思議と心が落ち着いてきた。

 今はもう一人じゃない。

 大好きなキリアンやエマ、サラ、先生やエインもいる。

 だから怖がる必要はない。

 静かな湖には鳥の鳴き声や木々が揺れる音しか聞こえない。

 なのに耳には不思議なことに、幼い頃の自分の笑い声が聞こえた。

『リック!』

 ーーリック?誰?





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