【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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アリア。

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「あ………亡くなった?誰が?」

 ハザー伯爵は呆れて鼻で笑った。

「君は耳が聞こえないのか?」

「…………ア……アレは……」

 アリアは亡くなったと聞いてもまだ『アレ』とアイシャを呼んだ。

 伯爵はその言葉を聞いて眉間に皺を寄せアリアを睨みあげた。

「はっ?『アレ』とはアイシャ嬢のことか?自分が産んだ娘にたいして?」

 伯爵は説明することさえ勿体無いと呆れ果てて言葉を失った。

「ア、アレ……いえ……アイシャがなぜ亡くなったなんて……そんな馬鹿馬鹿しい……あり得ない話ですわ」

 アリアは何度も首を横に振った。

 認めたくないと……あの子が死ぬわけがない……

 ふと思う………あの子……の姿を…まともに見たのはいつだったかしら?

 あの子に向き合ったのは?話したのは?

 どれくらいの髪の長さだったかしら?

 どんな顔だった?

 あの子の好きなものは?

 どんなふうに笑う子だった?

 顔を見ると不愉快でつい嫌な顔をしてしまった。ウィリアムに似た顔立ちがアリアをイラつかせた。

 あの子を抱きしめたのはいつ?

 産まれたばかりのアリアがどんどんウィリアムに似てくるのが嫌だった。

 ウィリアムを愛しているのに彼は自分を見てくれない。互いにすれ違う夫婦関係、距離が離れれば離れるほど、アイシャにその苛立ちを向けた。

 何かアイシャがしたのか?

 何も………していない。

 逃げて屋敷に近寄らなかった。

 離縁する勇気もウィリアムから離れてしまう勇気もなかった。

 ただ、現実から逃げて好き勝手して……

 アイシャを攻撃し無視することで自分の矜持を保とうした。

 なんてみっともない………

「でもあの子はわがままで傲慢で……いつも屋敷の者達を困らせて……だから…だから……」

「本当にアイシャ嬢はそんな子でしたか?わたしは王城内で見かけたアイシャ嬢は平民の使用人達にも分け隔てなく挨拶をし会話を楽しめる人でした。誰にでも優しく微笑み、困った人にはすぐに手を差し伸べることができる人でした。
 だからこそ王太子殿下はアイシャ嬢を婚約者として選び陛下はお認めになったのでしょう?」

「だって……使用人達が……」

「あなたはアイシャ嬢に向き合うことすらしていなかったのでしょう?人の言葉を鵜呑みにしてはいませんでしたか?」

「わたし………アイシャのところへ……いけ……ない……わたしなんかが会いに行ける……わけがない……」

 声が震えた。

 体から血の気が引く。

 瞳に涙がたまる。

 今までの自分を顧みて、アイシャにどんな顔をして会えばいいのか分からない……

 伯爵は黙ってアリアを見つめていたが、大きく息を吐いた。

「ハァー……アイシャ嬢は放火に遭い……なんとか助け出したのですが、息を引き取りました……元々心臓が悪く手術が必要でした……余命幾許もありませんでした」

「心臓病?放火??」

 信じられないと言う顔をしたアリア。

「そんな話…聞いていません…アイシャが心臓病なんて……それに……火事に遭うなんて……そんな………」

 フルフルと首を横に振る。

「信じない」「そんなことあり得ない」とぶつぶつと言い続けた。

 まるで現実逃避をしてしまっているかのようだった。

「アイシャ嬢に最後のお別れはしなくてもよろしいのですね?ゴードン様がアイシャ嬢の養育権をお持ちですので、あなた方が会いたくないのならそれまでです。一応筋は通しました……あとはこちらで葬儀を行いたいと思っております」

 アリアは伯爵に縋るように言った。
「だ、だめ……アイシャはわたしの娘です……も、もしかしたら、本当は生きているかもしれませんよね?」

「亡くなったんです」

「い、いやあーーー!そんなこと絶大認めない!あ、あの子は……死ぬわけない!!」

 アリアは床に顔を埋めて泣き叫んだ。







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