【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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公爵邸。

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「アイシャが死んだ?」

 ロザリアの口元はうっすらと笑みを浮かべていた。

 それでも……悲しむアリアの体をギュッと抱きしめて「アリア………」と悲しみの声をあげて共に泣いた。

 ローゼはまさか本当に死んでしまうなんて思ってもいなかった。

『貴女さっさと死んでちょうだい』

 自分が吐いた言葉を思い出した。

 まさか本当に死ぬなんて……

 真っ青な顔をしたローゼはしばらく動けずにいた。

 涙なんて出なかった。

 だって、アイシャが死んでくれたおかげで、やっと愛するエリックのそばにいられるから。

 これからはわたしが彼のそばにいて、たくさんの愛情で彼を幸せにしてあげられる。

 そう思うとつい顔がほころんでしまう。

 それでも一応悲しむ叔母さまの前では共に悲しむふりをしなければ。

 でもなぜ?あんなに嫌っているのだから死んでくれて喜べばいいのに。

 お母様なんて悲しむふりして顔が嗤っている。

 ふっと俯いてクスッと嗤った。

「伯母様………」と悲しみの声を出してアリアとロゼリアにふわりと抱きついた。

 三人の悲しむ姿を伯爵は冷たい瞳で見ていた。

 ローゼとロザリアは伯爵が二人のことまでは事情を知らないと思っていた。まさか二人の笑みをしっかりと見ていたなんて思ってもいなかった。

 そしてアイシャの死を悲しみながら時間は過ぎた。

 アリアはアイシャにあわせる顔がないと嘆き悲しみそのまま泣き崩れたが会いに行こうとはしなかった。

 伯爵もこれ以上この人達に関わりたくないと「話はしたのでこれで失礼する」と去って行った。

 本来なら参加するはずの葬儀にアイシャの家族は誰一人参加しなかった。

 いや会うことも参加することもできなかった。

 両親もローゼとロザリア、そして公爵家の使用人全てが公爵邸に閉じ込められて取り調べが行われた。

 誰かが放火に関わっているはずだと。

 兄のマーカスだけは葬儀に間に合わなかったが最後のお別れだけは許された。

 全身包帯だらけだったが白い綺麗なドレスを着せてもらい、傷ひとつない美しい顔には化粧が施され今にも目覚めそうなほど美しい顔で安らかに眠りについていた。

 マーカスは歳の離れた妹を気にかけることなく、早くから公爵邸を離れ学園の寮で暮らしそのまま外務大臣補佐官として忙しい日々を送っていた。

 妹が王太子殿下の婚約者に選ばれたと聞いた時はとても誇らしく思っていた。

 でもだからと言って仕事中、同じ城内にいても会うことはなかった。

 王妃はとても厳しくアイシャに教育を施していることは耳にしていたが、いずれは殿下と共にこの国を背負うのだから仕方がないことだと思っていた。

 妹が母から嫌われていることなど全く知る由もなかった。

 アリアはマーカスに対して愛情たっぷりかけて育てられた。
 それは妹のアイシャもまた同じだと思っていた。

 ただアイシャが生まれた頃父は宰相になったばかりで、とても多忙を極めていたし、母も公爵夫人として社交に忙しそうにしていた。

 自分もまた8歳から寮に入り公爵家の嫡男として厳しい勉強を課せられていた。

 だから……知らなかった。

 いや、知ろうと思えば知ったはずなのに……アイシャへの関心は薄かった。



 そしてマーカスはアイシャと別れの挨拶を終えて公爵邸に帰ってきた。

 たまにしか帰ってきていなかった公爵邸に懐かしさなどない。

 しかしいつもなら遠慮がちに「お帰りなさい」と微笑んで言ってくるアイシャの姿はなく、心を締め付けられた。

 ーー俺は………どうしてアイシャにほんの少しでも関心をもたなかったのだろう……

 生まれたばかりの頃のアイシャはとても可愛らしく毎日のように顔を見に行っては乳母に「やっと眠られたところですので……」とやんわりと部屋を出て行くようにと言われた。あまりにも何度もアイシャの部屋にいくので、アイシャが起きてしまうと困った顔をされていた。

 屋敷の中はとても静かだった。
 各々は、部屋から出ないように言われ扉の外には監視のため騎士が立っていた。

 使用人達はいくつかの部屋に押し込められ厳しい事情聴取が行われていた。

 ローゼとロザリアは「わたしたちは伯爵家へ帰ります」と騎士達に訴えたが認めてもらえず仕方なく自分たちの部屋で過ごしていた。

 その部屋はアイシャのみすぼらしい部屋とは違い豪華な家具とたくさんの宝石やドレスが置かれていた。

 そのことをマーカスが知ったのはアイシャの部屋を一目見ておこうと訪れたあと、ロザリアたちに一応挨拶だけはしておこうと訪れた部屋を見て初めて気がついたのだった。

 両親はそれぞれ自分の部屋から一歩も出てこようとしなかった。だからアイシャの部屋の状態など全く気がついていないようだった。

 マーカスは二人があまりにも堂々とした立ち振る舞いをしている姿に違和感を感じた。

「あら?マーカス、帰ってきたの?お帰りなさい。アイシャがあんなことになってしまって辛いと思うけど両親のそばにいてあげられるのは貴方だけなのだから、しっかりしなさいね」

 労った言葉のように聞こえるが、全く心がこもっていない。

「マーカス兄様!お久しぶりですね?もう、わたしたちまで屋敷に閉じ込められて困っているの。早くここから出して欲しいわ。アイシャが死んだからと言ってわたしたちが何かしたわけでもないのに!
 お兄様だってそう思われるでしょう?本当に死んでも迷惑をかけるなんて、ねぇ?
 叔父様もお仕事がお忙しいはずなのに、大変お困りだと思うの。叔母さまだってまた旅行に戻るはずだったのに……わたしも早く殿下にお会いしてこれからのことを話さないと……彼も婚約者がいなくなって困っているはずだから。わたしが彼のそばにいてあげなくっちゃ。だって学校ではいつも彼の近くにいるのはわたしなんですもの、ふふふっ」

 ローゼは自分たちが迷惑をかけられていると文句を言いつつ、マーカスもそうだろうと同意を求めた。

 ローゼはマーカスが妹をよく想っていないと思い込んでいた。だから一緒に悪口を言ってくれると考えていたのだ。

「はっ?ローゼ、何を言ってるんだ?」

「えっ?」
 キョトンとしたローゼは一瞬考えたが「ふふっ」と笑い返した。

「お兄様ったら、隠さなくてもいいの。知ってるわ。アイシャがこの家でどう思われていたか」

「どう思われていた?」

「ええ、アイシャは家族に嫌われ屋敷の使用人たちからも蔑まれ、王妃様からは厳しく叱咤され、殿下からは愛情すら与えてもらえなかった、それがアイシャでしょう?でも仕方がないわ。彼女は無能でわがまま、傲慢なんだもの」

「……………許さない」

「はい?」

「許さない、今の言葉を取り消せ!」

「どうして?だって事実じゃない?何を今更?だからみんなアイシャの葬儀にすら参列しなかったんでしょう?」

「もうローゼ。おやめなさい。アイシャは死んだんだから、もう人を困らせることはしないはずよ?」

「でも、死んでもわたしたちは迷惑をかけられているのよ?ほんと、いい加減にして欲しいわ、ねぇ?お兄様?」

 マーカスの怒りなど気にもしない。いや、なぜ突然怒ってこんなことを言うのかローゼにはわからなかった。

 嫌われて邪魔者のアイシャが死んだのだ。誰も悲しいなんて思うはずがない。

 ローゼはそう思っていた。







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