【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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バーバラ。

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「貴方……」

 バーバラはセリウスと二人でのんびりと森の中を歩いていた。後少しで、エリックと親子三人でいつも散歩をしている湖へと辿り着く。

「一緒にいつもの湖でお散歩しましょう」

 静かに微笑むバーバラにエリックは怒らなければならないのに、一瞬なぜか胸の苦しさを覚えた。

「………わかった」

 エリックはセリウスが手を伸ばし三人でいつも通りセリウスを真ん中に横並びに歩こうとしたが、エリックはその手を取らなかった。

 バーバラはそんなエリックに気がつきながらも何も言わず、「セリウス、行きましょう」と優しく背中を押し歩くように促した。

 セリウスはチラリとエリックを見上げるも少し怖い顔をした父に声をかけることができずしょんぼりしたまま、母に言われるがまま歩き始めた。

 母の手はいつもより少し冷たく感じたセリウスはギュッと手に力を入れて少しでも温めてあげようとした。

「セリウスありがとう。貴方がそばにいてくれるだけで私は幸せよ」

 少し陰のある微笑みにセリウスはなぜか不安な気持ちになった。今日はいつもと違う。何かがおかしい。でもまだ6歳のセリウスにはそれが何かなんてわからなかった。

 ただ少し離れた隣で同じ歩調で歩く父がとても怖く感じた。

 国王としての父はいつも威厳に満ち堂々としているため近寄りがたいところもある。でも、普段セリウスと過ごす父は優しく家庭的な人で、セリウスは父親が大好きだった。

 たまに王妃であるローゼ様が嫌味だと子供でもわかる言葉をセリウスに言うこともあるがそんな時でも、あとで報告で耳にして父はいつもそっと助けてくれていた。


「今日の湖はとても綺麗ね」

 ポツリと呟いたバーバラ。

 バーバラはセリウスに言ったのかエリックに言ったのかよくわからなかった。

「…………ああ、陽射しが湖に映りキラキラと輝いて見える」

 エリックはなぜこんなに綺麗な場所で、一番の思い出の大切な場所でバーバラと話さなければならないのかと思うと、言葉が出てこない。

 息子のセリウスをここから立ち去るように言わなければならない。なのにこの親子を引き離すことが心苦しくもあった。

 二人のつながれた手に視線を移した。この手を離せばもう二度と二人の手は握られることはないだろう。

 セリウスがここを立ち去ればもう二人がこうして親子として楽しく過ごす時間はなくなる。たとえ会えたとしてもセリウスの心には傷が残ったままだろう。

 バーバラとの夫婦関係は穏やかで安定していた。そこに愛はなかったがセリウスの母として尊重し上手く暮らしていたはずだった。

「貴方………あと少しだけ三人で歩きませんか?」

 バーバラのしずかな願いに「わかった」とエリックは頷いた。


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