【完結】［改稿版］内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

アイシャ。

「キリアン君……」

「やっと会えた……」

　キリアンは唇を噛み締めグッと泣くのを堪えた。

　ずっとカレンは妹として共に育った。

　でもカレンの中にたまに見えてしまうアイシャの面影を思い出し、幼い頃の優しかったアイシャお姉ちゃんに会いたいと思っていた。

　自分のせいでアイシャは亡くなってしまった。それがキリアンにとってずっと辛い過去としていまだに残っていた。

「アイシャお姉ちゃん……ごめんなさい」

　堪えていた涙は謝罪の言葉と共に流れ落ちた。

「どうして謝るの？」

「だって……僕のせいでお姉ちゃんは……」

「ううん、違う。あなた達のおかげで最後は幸せに暮らせたの。そして……生まれ変わってカレンとしてあなた達の本当の家族になれた。
　とっても幸せなの。
　それも以前の記憶がないおかげで滑沢なく生きることができているの。
　でも……今記憶を思い出したのは、キリアン君の憂いを無くさなければいけないんだとわかったわ」

　カレンの小さな体がキリアンを抱きしめた。

「お姉ちゃん、僕今時を戻す巻き魔法を探しているんだ」

「時を巻き戻す？」

「うん、お姉ちゃんが死ぬ前に時間を戻したいんだ」

「キリアン君、必要ないわ。わたしは死んだの。転生でカレンとして生まれ変わったけど記憶を取り戻さなかったのは、アイシャとして生まれ変わったのではなくもう別の人格として生まれ変わったからなの……」

「でも……リサ様は転生させたと言ってたし……」

「魔法で人の命を思い通りにすることなんてよくないことだわ……わたしは死んだの」

　アイシャはキリアンをじっと見つめた。

「わたしを忘れないでいてくれてありがとう。わたしを最後まで幸せな気持ちで死なせてくれてありがとう。
　そして、キリアン君の妹として生まれ変わって今幸せなの。大好きだったみんなと家族として過ごせているの。こんな幸せな日々はないわ。
　記憶を取り戻した瞬間のわたしの幸せなこの気持ちがわかる？」

「アイシャお姉ちゃん……」

「わたしはもうこの世界から消えるわ……これからはカレンとして生きていく……お願い……キリアン君、忘れないで……わたしがあなた達のおかげでどれだけ幸せな気持ちになれたか……そして今カレンとして生きていることがどれだけ幸せなのか」

　アイシャはキリアンを抱きしめたまま顔を上げ前をを向いた。

　そこには………

　エリックが立っていた。

　アイシャはエリックを見てやさしく微笑んだ。

「リック………あなたも幸せになって……過去に囚われないで……今そばにある幸せを大切にして………セリウス王子には家族が必要なの………寂しい思いをさせないで……」

　キリアンは黙って聞いていた。

　エリックは体が震えていた。

「すまない………アイシャ……君を守れなかった……」

「誰が悪いわけでもないわ………わたしは家族が自分に冷たいのも仕方がないと諦めていた……変えようとする勇気がなかったの……生きることに希望もなかった……でもキリアン君達のおかげで幸せを知ったの……とても温かくて優しい気持ちになれるの……だからもうあなたも過去に囚われないで前を向いて生きて欲しい。
　キリアン君もリックも幸せになってほしい」

　アイシャは二人に「さよなら」そう言うとそのまま地面に崩れ落ち、意識を失った。

「アイシャ！」

　エリックはカレンの体を抱きしめた。

　小さな女の子は幸せそうな顔をしてそのまま静かに眠っていた。

　疲れたのか、スヤスヤと気持ちよさそうに眠りについていた。

「ゴードン様のところへ行こう。セリウスも意識を取り戻した。アイシャ、君のおかげだ」

　キリアンもエリックの後ろを黙ってついて行った。