【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

文字の大きさ
11 / 81

救出。

しおりを挟む
「アイシャ様……大丈夫ですか?」

 数人の使用人が小さな声でアイシャに声をかけた。

 だがアイシャは全く意識が戻らない。

 青白い顔に生気はなくこのまま死んでしなうのでないかと思えた。

 家令のマークや侍女長の手前アイシャに対しての態度は冷たい。だが本音はアイシャのことを不憫だと感じていたメイドや使用人もいる。ただ、アイシャの肩をもてば告げ口をされ自分が解雇されてしまう。

 そんな状態の中アイシャに優しくするものは少ない。今回だって庭師のエインの怪我はアイシャに対しての見せしめだった。

 優しいアイシャはエインの怪我を見てとても辛かっただろう。もうこの屋敷に帰りたくないはずなのに、エインのことを考えて戻ってきた。

 そして廊下で倒れていた。

 よくよく周りからの噂話を聞くと、ロザリアはアイシャに掃除をさせてはチクチクと文句を言って何度もやり直しをさせるらしい。

 今回は夜から掃除をさせてアイシャは体調を崩し倒れたのだろうとみんなが言っていた。

 その話しを聞いた新人のメイドのミィナは拳をぎゅっと握り締めた。

 ゴードンの屋敷で働いているミィナはゴードンに頼まれこの屋敷に新人メイドとして潜入した。

 皆と少しずつ仲良くなり噂話をたくさん聞いた。ほとんどがアイシャのことで、無能だとか鈍臭いだとか、いつも自信なさげでおどおどしていて、お嬢様として敬う気にならないと馬鹿にしているようだった。

 ミィナはこの屋敷に来る前に事前にアイシャについて調べていた。

 王妃はアイシャのことをあまりよく思っていないので、過小評価しているが実際は14歳にしては優秀で将来も明るい。なのに本人は周りからの罵倒や蔑みで自己評価は低く、今は余命僅かだと言われたのに、死を怖がるどころか生きることを嫌がり、死を選ぼうとしているらしい。

 ミィナはまわりが遠巻きで眺めているところに割って入り、「アルタ、手伝って!」と共に新入りの使用人に声をかけた。

「あ、ああ……失礼致します」

 アルタは少しおどおどとしながら、アイシャを抱きかかえた。


「アイシャ様の部屋は?」

 アルタがどこへ行けばいいのかキョロキョロしていると、ミィナが「こっちよ!早く」と叫んでアイシャの部屋の方へ指差した。

「わ、わかった……ちょ、ちょっと待ってくれ」
 アルタは頼りなさそうにミィナについて行った。


 二人っきりになるとアルタは先程とは打って変わってキリッとした顔になった。

「このままアイシャ様を屋敷から連れ出そう」

「でも勝手に屋敷から連れ出したら誘拐犯になってしまうのでは?」
 ミィナが戸惑っているとアルタがニヤッと笑った。

「俺たちが連れ出したとわからなければいい。俺たちはアイシャ様を部屋に届けたことを他の使用人たちにしっかり見せてから、裏からアイシャ様を運ぶ。そしていつものようにここで仕事をしていればいいんだ」

「でも外に出入りすればバレるわ」

「大丈夫さ。庭師のエインさんや馬丁のトーマスさんたちはアイシャ様の味方だから、裏からの出入りくらい見逃してくれるよ」

「わかった……すぐにゴードン様に手紙を送る。裏に誰かすぐに寄越してくれるはずだわ」

 ミィナは連絡用の鳩をすぐに飛ばした。

 アイシャの様子はかなり悪いのが見てとれた。

 だけどロザリアたちは医者を呼ぼうともしない。

 ゴードンの屋敷に急いで運んで診てもらうしかない。

 その前に数人のメイドに「着替えを手伝ってください」とお願いしてアイシャが部屋にいることを確認させておいた。

「アイシャ様……おかわいそうに……」

「ほんとここまでするなんて……」
  
 メイドたちはアイシャのぐったりした姿を見ているのが辛かった。ずっと見て見ぬふりをしてきたが、アイシャの体を実際触ると痩せ細り、呼吸も息苦しそうにしていた。

 意識がないのにこんなに苦しそうにしているなんて……

 メイドは涙を流し「なんとかお医者様を呼べないのかしら?」と他のメイドに呟いた。

「マークさんや侍女長、それにロザリア様がお許しにならないわ」

「でもこのままでは死んでしまうかもしれない」

 メイドたちは口々に心配の声を上げた。

 だけど平民のいつクビになってもいいメイド達には意見を言うことはできない。

「神様は絶対見てくださっているわ」

 ミィナはみんなにそう声をかけた。

 ーーそう、アイシャ様をこんな屋敷に置いておくなんてできない。

 早く助け出さなきゃ。

 メイドたちはアイシャの着替えを終わらせると後ろ髪を引かれる思いで仕方なく部屋から出て行った。

 そしてクローゼットに隠れていたアルタと共に洗濯物を入れる大きな台車に「狭くてすみませんアイシャ様」と申し訳なさそうに入れて息ができる程度に真新しいシーツを被せて周りに見えないように隠して裏の出入り口から裏門へと向かった。

 裏門に近いところに物置や厩舎があり馬丁やエインは屋敷の裏にいることが多い。

「早く早く、裏門の外で人が待ってる」
 馬丁たちが周囲の様子を見てくれていた。
 エインはアイシャの顔を見つめ、「俺のせいでこんな目に遭ってすみませんでした」と泣きじゃくった。

「エインさん、あなたもアイシャ様と一緒に行ってください」
 アルタがエインに一緒に行くようにと言い出した。

「しかし……俺にそんな資格はない」

「大丈夫です。エインさんは昨日付けで仕事は辞めたことにしておきます。辞表書いていたでしょう?」

「………知ってたのか?」
 エインはアイシャの負担になりたくなかった。だからこの屋敷を辞めるつもりでいた。

「その辞表をおいてエインさんは昨日のうちにこの屋敷を出て行きました」

「………すまない……アイシャ様のおそばにもう少しだけいさせてもらうよ」

「はい、アイシャ様はとてもエインさんに懐いていたと聞いています。目覚めた時にそばにいてくれたら嬉しいと思います」

「こんなおいぼれでも役に立つなら、そばにいさせてもらうよ」

 裏門にはゴードンが用意したハウザー公爵家の影として仕えている数人を横していた。

 影はアイシャを抱きかかえたまま、綺麗な走りで揺らすこともなく去って行った。

 エインが歩いてついて行くのは難しいので影の一人がエインを背負い走ることにした。

 屋敷から離れた場所に外観はさほど豪華には見えない普通の馬車を用意しておいた。

 ただ、馬車の中は公爵家らしく座り心地の良い椅子になっていて、内装も豪華に造られていた。

 アイシャはベッドのようにされた椅子に大切に優しく横に寝かされた。

「アイシャ様、すぐに屋敷に着きますのであと少し辛抱してください」

 普段声を出したりしない影がアイシャに優しく話しかけた。

 だがアイシャは意識を戻すことなく苦しそうに息をしているだけだった。



しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

記憶が戻ったのは婚約が解消された後でした。

しゃーりん
恋愛
王太子殿下と婚約している公爵令嬢ダイアナは目を覚ますと自分がどこにいるのかわからなかった。 眠る前と部屋の雰囲気が違ったからだ。 侍女とも話が噛み合わず、どうやら丸一年間の記憶がダイアナにはなかった。 ダイアナが記憶にないその一年の間に、王太子殿下との婚約は解消されており、別の男性と先日婚約したばかりだった。 彼が好きになったのは記憶のないダイアナであるため、ダイアナは婚約を解消しようとするお話です。

処理中です...