【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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救出。

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「アイシャ様……大丈夫ですか?」

 数人の使用人が小さな声でアイシャに声をかけた。

 だがアイシャは全く意識が戻らない。

 青白い顔に生気はなくこのまま死んでしなうのでないかと思えた。

 家令のマークや侍女長の手前アイシャに対しての態度は冷たい。だが本音はアイシャのことを不憫だと感じていたメイドや使用人もいる。ただ、アイシャの肩をもてば告げ口をされ自分が解雇されてしまう。

 そんな状態の中アイシャに優しくするものは少ない。今回だって庭師のエインの怪我はアイシャに対しての見せしめだった。

 優しいアイシャはエインの怪我を見てとても辛かっただろう。もうこの屋敷に帰りたくないはずなのに、エインのことを考えて戻ってきた。

 そして廊下で倒れていた。

 よくよく周りからの噂話を聞くと、ロザリアはアイシャに掃除をさせてはチクチクと文句を言って何度もやり直しをさせるらしい。

 今回は夜から掃除をさせてアイシャは体調を崩し倒れたのだろうとみんなが言っていた。

 その話しを聞いた新人のメイドのミィナは拳をぎゅっと握り締めた。

 ゴードンの屋敷で働いているミィナはゴードンに頼まれこの屋敷に新人メイドとして潜入した。

 皆と少しずつ仲良くなり噂話をたくさん聞いた。ほとんどがアイシャのことで、無能だとか鈍臭いだとか、いつも自信なさげでおどおどしていて、お嬢様として敬う気にならないと馬鹿にしているようだった。

 ミィナはこの屋敷に来る前に事前にアイシャについて調べていた。

 王妃はアイシャのことをあまりよく思っていないので、過小評価しているが実際は14歳にしては優秀で将来も明るい。なのに本人は周りからの罵倒や蔑みで自己評価は低く、今は余命僅かだと言われたのに、死を怖がるどころか生きることを嫌がり、死を選ぼうとしているらしい。

 ミィナはまわりが遠巻きで眺めているところに割って入り、「アルタ、手伝って!」と共に新入りの使用人に声をかけた。

「あ、ああ……失礼致します」

 アルタは少しおどおどとしながら、アイシャを抱きかかえた。


「アイシャ様の部屋は?」

 アルタがどこへ行けばいいのかキョロキョロしていると、ミィナが「こっちよ!早く」と叫んでアイシャの部屋の方へ指差した。

「わ、わかった……ちょ、ちょっと待ってくれ」
 アルタは頼りなさそうにミィナについて行った。


 二人っきりになるとアルタは先程とは打って変わってキリッとした顔になった。

「このままアイシャ様を屋敷から連れ出そう」

「でも勝手に屋敷から連れ出したら誘拐犯になってしまうのでは?」
 ミィナが戸惑っているとアルタがニヤッと笑った。

「俺たちが連れ出したとわからなければいい。俺たちはアイシャ様を部屋に届けたことを他の使用人たちにしっかり見せてから、裏からアイシャ様を運ぶ。そしていつものようにここで仕事をしていればいいんだ」

「でも外に出入りすればバレるわ」

「大丈夫さ。庭師のエインさんや馬丁のトーマスさんたちはアイシャ様の味方だから、裏からの出入りくらい見逃してくれるよ」

「わかった……すぐにゴードン様に手紙を送る。裏に誰かすぐに寄越してくれるはずだわ」

 ミィナは連絡用の鳩をすぐに飛ばした。

 アイシャの様子はかなり悪いのが見てとれた。

 だけどロザリアたちは医者を呼ぼうともしない。

 ゴードンの屋敷に急いで運んで診てもらうしかない。

 その前に数人のメイドに「着替えを手伝ってください」とお願いしてアイシャが部屋にいることを確認させておいた。

「アイシャ様……おかわいそうに……」

「ほんとここまでするなんて……」
  
 メイドたちはアイシャのぐったりした姿を見ているのが辛かった。ずっと見て見ぬふりをしてきたが、アイシャの体を実際触ると痩せ細り、呼吸も息苦しそうにしていた。

 意識がないのにこんなに苦しそうにしているなんて……

 メイドは涙を流し「なんとかお医者様を呼べないのかしら?」と他のメイドに呟いた。

「マークさんや侍女長、それにロザリア様がお許しにならないわ」

「でもこのままでは死んでしまうかもしれない」

 メイドたちは口々に心配の声を上げた。

 だけど平民のいつクビになってもいいメイド達には意見を言うことはできない。

「神様は絶対見てくださっているわ」

 ミィナはみんなにそう声をかけた。

 ーーそう、アイシャ様をこんな屋敷に置いておくなんてできない。

 早く助け出さなきゃ。

 メイドたちはアイシャの着替えを終わらせると後ろ髪を引かれる思いで仕方なく部屋から出て行った。

 そしてクローゼットに隠れていたアルタと共に洗濯物を入れる大きな台車に「狭くてすみませんアイシャ様」と申し訳なさそうに入れて息ができる程度に真新しいシーツを被せて周りに見えないように隠して裏の出入り口から裏門へと向かった。

 裏門に近いところに物置や厩舎があり馬丁やエインは屋敷の裏にいることが多い。

「早く早く、裏門の外で人が待ってる」
 馬丁たちが周囲の様子を見てくれていた。
 エインはアイシャの顔を見つめ、「俺のせいでこんな目に遭ってすみませんでした」と泣きじゃくった。

「エインさん、あなたもアイシャ様と一緒に行ってください」
 アルタがエインに一緒に行くようにと言い出した。

「しかし……俺にそんな資格はない」

「大丈夫です。エインさんは昨日付けで仕事は辞めたことにしておきます。辞表書いていたでしょう?」

「………知ってたのか?」
 エインはアイシャの負担になりたくなかった。だからこの屋敷を辞めるつもりでいた。

「その辞表をおいてエインさんは昨日のうちにこの屋敷を出て行きました」

「………すまない……アイシャ様のおそばにもう少しだけいさせてもらうよ」

「はい、アイシャ様はとてもエインさんに懐いていたと聞いています。目覚めた時にそばにいてくれたら嬉しいと思います」

「こんなおいぼれでも役に立つなら、そばにいさせてもらうよ」

 裏門にはゴードンが用意したハウザー公爵家の影として仕えている数人を横していた。

 影はアイシャを抱きかかえたまま、綺麗な走りで揺らすこともなく去って行った。

 エインが歩いてついて行くのは難しいので影の一人がエインを背負い走ることにした。

 屋敷から離れた場所に外観はさほど豪華には見えない普通の馬車を用意しておいた。

 ただ、馬車の中は公爵家らしく座り心地の良い椅子になっていて、内装も豪華に造られていた。

 アイシャはベッドのようにされた椅子に大切に優しく横に寝かされた。

「アイシャ様、すぐに屋敷に着きますのであと少し辛抱してください」

 普段声を出したりしない影がアイシャに優しく話しかけた。

 だがアイシャは意識を戻すことなく苦しそうに息をしているだけだった。



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