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アイシャ、父と会う。
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「おねぇたん」
その声はわたしの閉ざされた心に優しく響く。
もう現実の世界に戻りたくないのに、切ないくらいわたしを呼ぶこの可愛い声に返事をしてあげなくてはと思ってしまう。
意識が戻りアイシャは重たい瞼を仕方なくこじ開けた。
「……アイシャ!」
「おねぇたん!」
キリアンとサラの声を聞いたそばに居た使用人がアイシャが目覚めたのを確認して「呼んで参ります」と言って部屋を慌てて出て行った。
アイシャはぼんやりとしながら視線を動かすとキリアンと目があった。
「…………キリアン君?どうして……」
ーーここは………どこ?わたし……掃除が終わって……疲れて……部屋に戻ろうと思ったけど………少しだけ廊下で休んで……
アイシャは何度もやり直しをさせられて床掃除が終わったあと、自分の部屋に戻るだけの体力がなくなっていた。
胸が苦しくて歩くのもやっとでとにかく少し休もうと廊下の壁に寄りかかり、気がつけば意識を失っていた。
アイシャを救出して急ぎゴードンの屋敷へと連れ帰られ、治療をして薬の投与を行いなんとか一命は取り留めた。
アイシャの心臓はかなり弱っていて呼吸の機能が低下し、心不全を起こしていた。
「アイシャ、どうして屋敷に戻ったの?」
サラは目に涙をためて真っ赤になっていた。そして眉間に皺を寄せてアイシャに本気で怒った。
「勝手に家からいなくならないで!勝手に出て行ってはダメよ!」
アイシャの手を握りしめ怒りながらも泣き出した。
「どれだけ心配したと思っているの?本当にもう目覚めないかもしれないと思ったのよ」
アイシャはベッドの上で目覚めたまま動けないでいた。
頭も体も重たく動かすことがしんどい。
アイシャは握られた手の反対の手をそっと力が入らず震えながらもサラの頭へと伸ばした。
サラの髪になんとか触れる。
ーー泣かないでください
「………ごめんなさい」
僅かに聞こえるほどの小さな声で謝ることしかできなかった。
アイシャは誰かが自分のことを心配するなど考えたことがなかった。
サラやエマ、キリアンのことは好きだがそれは自分の病気に同情してのことだと思っていた。行く当てのないアイシャを優しい人たちが助けてくれているだけなのだと。
ここにずっと居れば迷惑をかけてしまう。それにもうすぐ死ぬのに邪魔者でしかないとも思っていた。
ーーずっとずっとここに居たい
その思いは心の奥にしまい込んで、みんなに迷惑をかけたくない。そう思った。
ううん、違う。
好きになったこの人たちに嫌われたくない。
それに伯母様達がエインのように何かしてくるかもしれない。マークや侍女長たちが使用人を使って嫌がらせをしてくるのは目に見えていた。
アイシャは何も言い訳せずにただ謝った。
キリアンはそんなアイシャのベッドの上に乗ろうとして、サラに「ダメよ」と捕まり下されていた。
「おねぇたん、いいこいいこ」
キリアンはサラの膝の上に座り必死で手を伸ばしてアイシャの頭を撫でた。
サラは自分が見ていない間にアイシャが出て行ったことで罪悪感に駆られ、さらに倒れて意識をなくし、危険な状態が続いたため、精神的に余裕がなかった。
キリアンの様子を見て我に返り少し心を落ち着かせることができた。
「アイシャ、ごめんなさい。いきなり怒ってしまって。でもね、ほんの少しとはいえあなたと過ごしてあなたを大好きになったの。とても心配したの。もしこのまま亡くなってしまったら……そう思うだけで辛かった」
「………わたしを心配……すき?」
アイシャは信じられないと言う顔をしてサラを見つめた。
今まで自分を好いてくれた人は皆いなくなっていった。
今屋敷にいる使用人だって表立って優しくしてくれる人はいない。エインは祖父のお気に入りだったから多少は優しく接しても追い出されなかった。
そのエインすら酷い目にあってしまった。
自分から大切に想うことはいけないことだと思っていた。
だからこそエマやサラ、キリアンのそばがあまりにも居心地良くて怖かった。
アイシャは何を言って返せばいいのかわからず俯いていると、
「アイシャ嬢、目覚めたのか?ちょうどよかった。さっきウィリアムがここにきたんだ」
ゴードンはウィリアムに再三に渡って面会を申し入れたし、今回はハウザー公爵家に顔を出すように手紙を出した。
だがずっと忙しいと無視された続け、陛下に頼んで陛下からの命令で、仕方なく屋敷へと顔を出したばかりだった。
「お父様が……」
目覚めたばかりのアイシャはまだよく頭が回らない。
ここはどこなのか、まだ把握しきれていなかった。
「アイシャ嬢、とりあえず診察してウィリアムと会って話そう」
ゴードンはアイシャの診察を始めた。
その間サラとキリアンは廊下へと出ていた。
ゴードンのそばにはエマがいてエマもなんともいえない顔をしてアイシャを見ていた。
エマは診察中というのもありまだアイシャに話しかけられずにいた。
「アイシャ嬢、君の心臓はあまり良くない。とにかくしばらく安静にしていなさい」
エマが横からアイシャの顔を見つめた。
「アイシャ、馬鹿な子。心配させないでちょうだい。こんなに青白い顔をして、無理ばかりして……どれだけ心配したと思っているの」
泣き腫らした目のエマにアイシャは「ごめんなさい」としか言えなかった。
自分がどれだけ他人に迷惑をかけたのか……やっとわかった。
でも、早く屋敷に帰らないとまた大切な人が……
「ごめんなさい、心配をおかけしました……でも早く屋敷に帰らないとエインが……」
「エインさんなら一緒にここに来てるから大丈夫よ」
エマの信じられない言葉に目を見開いた。
「えっ?」
「エインさんも保護したわ」
「……………よかった」
アイシャは心から安堵した。
その時、「アイシャ!!!」扉から入ってきたウィリアムの声にアイシャのカラダは凍りついた。
「……お父様」
ベッドに横になったまま真っ青な顔をして震えるアイシャ。
その腕を掴んで「いい加減に起きなさい!みっともない。さっさと屋敷に帰るぞ」
そう言ってベッドから引きずるように起こして、アイシャの頬を叩いた。
「人様にご迷惑ばかりかけて、我が家の恥だ。しばらく屋敷から外に出さない。義姉上から話は聞いている。わがままばかりでまともに勉強もしない。屋敷の使用人に当たり散らして傲慢な態度。さらにはハウザー様にまでご迷惑をおかけして!この恥晒しが!!」
まだまともに立つことができないアイシャはベッドから追い出され床に倒れ込んだ。
「情けない。お前は我が家の恥だ。まともに王妃様の教育にもついていけず周りに当たり散らすだけのわがままな娘など必要ない。何が病で倒れただ!本当に死ぬのならさっさと死んで仕舞えばいい」
ウィリアムはただ怒っていた。
大切な仕事の邪魔をされ、義姉からのアイシャに対しての報告は毎回あまりにも酷い。
なぜこんなわがままで傲慢な娘に育ったのだろう。
その声はわたしの閉ざされた心に優しく響く。
もう現実の世界に戻りたくないのに、切ないくらいわたしを呼ぶこの可愛い声に返事をしてあげなくてはと思ってしまう。
意識が戻りアイシャは重たい瞼を仕方なくこじ開けた。
「……アイシャ!」
「おねぇたん!」
キリアンとサラの声を聞いたそばに居た使用人がアイシャが目覚めたのを確認して「呼んで参ります」と言って部屋を慌てて出て行った。
アイシャはぼんやりとしながら視線を動かすとキリアンと目があった。
「…………キリアン君?どうして……」
ーーここは………どこ?わたし……掃除が終わって……疲れて……部屋に戻ろうと思ったけど………少しだけ廊下で休んで……
アイシャは何度もやり直しをさせられて床掃除が終わったあと、自分の部屋に戻るだけの体力がなくなっていた。
胸が苦しくて歩くのもやっとでとにかく少し休もうと廊下の壁に寄りかかり、気がつけば意識を失っていた。
アイシャを救出して急ぎゴードンの屋敷へと連れ帰られ、治療をして薬の投与を行いなんとか一命は取り留めた。
アイシャの心臓はかなり弱っていて呼吸の機能が低下し、心不全を起こしていた。
「アイシャ、どうして屋敷に戻ったの?」
サラは目に涙をためて真っ赤になっていた。そして眉間に皺を寄せてアイシャに本気で怒った。
「勝手に家からいなくならないで!勝手に出て行ってはダメよ!」
アイシャの手を握りしめ怒りながらも泣き出した。
「どれだけ心配したと思っているの?本当にもう目覚めないかもしれないと思ったのよ」
アイシャはベッドの上で目覚めたまま動けないでいた。
頭も体も重たく動かすことがしんどい。
アイシャは握られた手の反対の手をそっと力が入らず震えながらもサラの頭へと伸ばした。
サラの髪になんとか触れる。
ーー泣かないでください
「………ごめんなさい」
僅かに聞こえるほどの小さな声で謝ることしかできなかった。
アイシャは誰かが自分のことを心配するなど考えたことがなかった。
サラやエマ、キリアンのことは好きだがそれは自分の病気に同情してのことだと思っていた。行く当てのないアイシャを優しい人たちが助けてくれているだけなのだと。
ここにずっと居れば迷惑をかけてしまう。それにもうすぐ死ぬのに邪魔者でしかないとも思っていた。
ーーずっとずっとここに居たい
その思いは心の奥にしまい込んで、みんなに迷惑をかけたくない。そう思った。
ううん、違う。
好きになったこの人たちに嫌われたくない。
それに伯母様達がエインのように何かしてくるかもしれない。マークや侍女長たちが使用人を使って嫌がらせをしてくるのは目に見えていた。
アイシャは何も言い訳せずにただ謝った。
キリアンはそんなアイシャのベッドの上に乗ろうとして、サラに「ダメよ」と捕まり下されていた。
「おねぇたん、いいこいいこ」
キリアンはサラの膝の上に座り必死で手を伸ばしてアイシャの頭を撫でた。
サラは自分が見ていない間にアイシャが出て行ったことで罪悪感に駆られ、さらに倒れて意識をなくし、危険な状態が続いたため、精神的に余裕がなかった。
キリアンの様子を見て我に返り少し心を落ち着かせることができた。
「アイシャ、ごめんなさい。いきなり怒ってしまって。でもね、ほんの少しとはいえあなたと過ごしてあなたを大好きになったの。とても心配したの。もしこのまま亡くなってしまったら……そう思うだけで辛かった」
「………わたしを心配……すき?」
アイシャは信じられないと言う顔をしてサラを見つめた。
今まで自分を好いてくれた人は皆いなくなっていった。
今屋敷にいる使用人だって表立って優しくしてくれる人はいない。エインは祖父のお気に入りだったから多少は優しく接しても追い出されなかった。
そのエインすら酷い目にあってしまった。
自分から大切に想うことはいけないことだと思っていた。
だからこそエマやサラ、キリアンのそばがあまりにも居心地良くて怖かった。
アイシャは何を言って返せばいいのかわからず俯いていると、
「アイシャ嬢、目覚めたのか?ちょうどよかった。さっきウィリアムがここにきたんだ」
ゴードンはウィリアムに再三に渡って面会を申し入れたし、今回はハウザー公爵家に顔を出すように手紙を出した。
だがずっと忙しいと無視された続け、陛下に頼んで陛下からの命令で、仕方なく屋敷へと顔を出したばかりだった。
「お父様が……」
目覚めたばかりのアイシャはまだよく頭が回らない。
ここはどこなのか、まだ把握しきれていなかった。
「アイシャ嬢、とりあえず診察してウィリアムと会って話そう」
ゴードンはアイシャの診察を始めた。
その間サラとキリアンは廊下へと出ていた。
ゴードンのそばにはエマがいてエマもなんともいえない顔をしてアイシャを見ていた。
エマは診察中というのもありまだアイシャに話しかけられずにいた。
「アイシャ嬢、君の心臓はあまり良くない。とにかくしばらく安静にしていなさい」
エマが横からアイシャの顔を見つめた。
「アイシャ、馬鹿な子。心配させないでちょうだい。こんなに青白い顔をして、無理ばかりして……どれだけ心配したと思っているの」
泣き腫らした目のエマにアイシャは「ごめんなさい」としか言えなかった。
自分がどれだけ他人に迷惑をかけたのか……やっとわかった。
でも、早く屋敷に帰らないとまた大切な人が……
「ごめんなさい、心配をおかけしました……でも早く屋敷に帰らないとエインが……」
「エインさんなら一緒にここに来てるから大丈夫よ」
エマの信じられない言葉に目を見開いた。
「えっ?」
「エインさんも保護したわ」
「……………よかった」
アイシャは心から安堵した。
その時、「アイシャ!!!」扉から入ってきたウィリアムの声にアイシャのカラダは凍りついた。
「……お父様」
ベッドに横になったまま真っ青な顔をして震えるアイシャ。
その腕を掴んで「いい加減に起きなさい!みっともない。さっさと屋敷に帰るぞ」
そう言ってベッドから引きずるように起こして、アイシャの頬を叩いた。
「人様にご迷惑ばかりかけて、我が家の恥だ。しばらく屋敷から外に出さない。義姉上から話は聞いている。わがままばかりでまともに勉強もしない。屋敷の使用人に当たり散らして傲慢な態度。さらにはハウザー様にまでご迷惑をおかけして!この恥晒しが!!」
まだまともに立つことができないアイシャはベッドから追い出され床に倒れ込んだ。
「情けない。お前は我が家の恥だ。まともに王妃様の教育にもついていけず周りに当たり散らすだけのわがままな娘など必要ない。何が病で倒れただ!本当に死ぬのならさっさと死んで仕舞えばいい」
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