【完結】[改稿版]内緒で死ぬことにしたーーいつか思い出してください…わたしがここにいた事を。

たろ

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王太子殿下 エリック。

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「すぐに国へ帰る」

 国王である父から婚約者であるアイシャの容態についての手紙を受け取った。

 エリックはいずれ国王となり愛するアイシャと共に生きていく。

 だからこそ母である王妃に諭されたとはいえ留学を決意したのだ。



 幼い頃一目惚れしたアイシャ。

 どうしても彼女を妻として娶りたい。

 父である国王に頭を下げて頼んだ。初めてわがままを言った。自分の意思を貫いた。




 アイシャと初めて出会ったのはエリックが7歳の時だった。

 毎日王太子になるために課せられた厳しい勉強。

 いい加減嫌になり教師の目を盗んで逃げ出し、裏庭でひとり芝生に寝転んだ。

 青い空に楽しそうに飛んでいる鳥をただ目で追っていた。

 豪華なたくさんの服、いつも王宮料理人が作る美味しい料理、たくさんの宝石や有名な画家の絵、宝剣など欲しいと思えばいつでも思うがままに手に入れられる環境。

 大の大人達が傅き、自分のご機嫌を窺う。

 これ以上の贅沢はない、何が不満なのか。

 エリックを羨む者は多い。

 でも、エリックは心から笑ったことはない。心から安心して他人に気を許すこともできない。

 常に王太子としての威厳を保つようにと両親に言われ、品行方正に過ごさなければならなかった。

 楽しいと感じることもなく、食べることも美味しいと感じることもなく淡々と生きていくしかなかった。

 そんなある日、ふと逃げ出したいと思った。

 ーーここから自分がいなくなったら……父上と母上は心配してくださるだろうか?

 多分………厳しく叱られるだけなのだろうとわかってはいたが、逃げ出したくなった。

 ふと窓の外で楽しそうに飛ぶ鳥達をみて。

 だけど逃げ出したところで行く宛もない。

 仕方なく裏庭に来たものの、どうしていいのかわからない。

 与えられたことしか、したことがない。

 自分の意思で物事を考え、行動したのは初めてだった。

 自由に飛ぶ鳥を見て瞳には涙が浮かぶ。

 ただ、飛ぶ鳥を見ているだけの自分。


「なにをしているの?」

 頭の後ろから声が聞こえた。

 女の子の声だとわかったが返事をする気にはなれない。

 今瞳には涙が浮かび、目は赤くなっている。

 泣いていたなんて思われたくない。

 無視していると徐ろに顔を覗き込んできた。

「なぁんだ、へんじがないから、しんでるのかとおもったわ」

 ーー死んでるわけないだろう?

「………」
 腹が立ち無視を続けた。

「隣に座ってもいいかしら?」

 そう言うと女の子は隣に座り一人で話をし始めた。

「わたしね、おとうさまにおしろにつれてきてもらったの。だってえほんに、おうじさまがすんでいるって、かいてあったの。あ、じは、よめないから、メイドのアンがよんでくれたの。
 でもね、おうじさまなんてどこにもいないの。たくさんのフリルのついたキラキラしたおようふくをきて、あたまにかんむりをのせて、『ぼくはおうじさまなんだ』って言ってるひとをさがしたんだけど、つかれちゃって、いま、おやすみして、おはなをみてたの」

 ーーフリル?そんなもの着ないよ。キラキラした服?どんな絵本を読んだんだ?

 イライラしながら話を聞くエリックは、自分がその王子様だと絶対言わないと思った。

 期待した姿とは違うと思われたくないし、ましてや面倒だった。

 早くどこかへ行ってくれないかと思って不機嫌な顔をしているのにこの女の子はそんなことに気が付かずまだ話をしていた。

「おとうさまもおかあさまもいそがしくてあんまりあいてにしてもらえないの。
 おにいさまも、おべんきょうがいそがしくて、じゃまにならないようにとしようにんに、いわれてるの」

「………」

「だから、かわりに、あなたがあそんでくれるかしら?」

 ーーだから⁉︎⁉︎いやいや、おかしいだろう?

「ねぇ、あそこにさいているおはなは、なんていうの?」
「ねぇ、おなかがすかない?おやつっておしろでは、でるのかしら?」

 女の子はお腹を撫でて「はああっ」と息を吐いた。

「おとうさまは、きょうはなぜかごきげんなの。りゆうはね、おかあさまがひさしぶりにおやしきにいるからなの。わたしがおやしきにいると、おかあさまのごきげんがわるくなるから、おとうさまにおしろにきたいと、おねがいしたのよ。
 おとうさまと、『大人しくしているように』とやくそくしたからいい子でまってるのに、ずっとわたしのこと、ほうってるのよ」

 女の子は一人でよく話す。

 だけどよく話を聞いていると、両親にはあまり愛されていないようだ。

 特に母親から嫌われていて女の子を見ると不機嫌になるらしい。

「わたし、おとうさまにかおがにているらしいの。だからおかあさまが『あんたのかおをみると、イライラするわ』といつもいわれてしまうの」

「………」

 少しだけ女の子の顔をチラッと見たけど別に不細工ではなかった。どちらかと言うと………瞳が大きくほっぺが膨らんで口元は小さく……とっても可愛らしい女の子だった。

 それこそ絵本から飛び出してきたみたいな可愛らしい女の子。

「わたしってかわいくないらしいの」
 悲しそうに話す女の子にエリックはとうとう返事をした。

「君は別に不細工じゃないよ。可愛いと思う」

「ほんと?うれしい!ありがとう」

 ニコニコと笑う女の子に何故か胸がドキッとしたエリックは「おやつが食べたければついておいで」と立ち上がった。

 隠れていても仕方がない。そろそろ自分もお腹が空いてきたし、おやつでも食べよう。

「うん!わたしのなまえは、『アイシャ』っていうの!」

「僕は……リック……」

「リック?わかったわ。リック、おともだちね?」

 エリックは自分より年下の女の子から友達と言われあまり嬉しくはなかったけど、嫌でもなかった。

 そしてたまにアイシャは王城に遊びに来るようになった。

 使用人達にアイシャが来たら声をかけるように伝えていた。

 多分二人で遊んでいることは両親は知っているはず。なのに叱られることはなかった。

 アイシャが宰相の娘でたまに連れてきては放置していて、エリックが息抜きに遊んであげていることを承知して両親が見逃していたことをのちのち知った。

 アイシャはエリックに会えると満面の笑みで駆け寄ってきて「あそぼう!」と嬉しそうに言った。

 駆けっこしたりかくれんぼしたり、たまに王城内にある湖のボートに乗ったりして遊んだ。

 国王は表情に乏しいエリックがアイシャと遊んでいる時だけは子供らしく笑う姿を見て、二人が遊ぶことを許可していた。

 王妃はアリアの娘だと言うのが気に入らない。
 昔からアリアとはよく比べられていた。負けたことはなかったが、アリアが自分にご機嫌を取ることなどなかった。

 周りは王太子の婚約者として顔色をうかがい、いつも気持ちの良い言葉を話しかけてくるのに、アリアだけは素知らぬ顔をしていた。
 澄ましたその態度が気に入らなかった。だからアイシャに対しても好きになれなかった。

 でも子供達のこと。あまり苛立ちを表に出して、王妃としての評価を落としたくはなかった。

 だから裏で手を回した。

 アリアが屋敷にあまり居ないことを知っているのでロザリアの耳元で囁いた。

『貴女なら公爵家の実権を握れるのでは?』と。

 そしてアリアがいない時にロザリアがローゼを連れて公爵家に我が物顔で暮らすようになった。

 天真爛漫だったアイシャはいつからか自己肯定感が低くなり、いつもビクビクとするようになっていった。


 顔を出さなくなったアイシャに寂しさを覚えながらも少しずつ大人になっていったエリック。
 それでもエリックはアイシャのことを忘れずにいた。婚約者選びが始まると知って、父にアイシャがいいと直談判したのだった。


 
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