【完結】母になります。

たろ

文字の大きさ
30 / 35

舞踏会。

しおりを挟む
 舞踏会まであと少し。

 アリスちゃんが正式にカルロとアリアの娘になった。アリスちゃんがアリアになついた事ももちろんあるのだけど、グレイ様がーー。

「もしノエルがアリスと結婚したいと言い出したら二人のためにもアリスを貴族令嬢にしておいた方が話が進みやすい。カルロは男爵だから」

 ーー知らなかった。

 低位貴族は領地を持たず、高位貴族の屋敷で働く者もいる。伯爵家では代々執事や家令をしている家系の人が受け継いでいる。

 カルロの場合は、先代が侯爵の時に借金で首が回らなくなり爵位を返そうとしていたカルロの父親を手助けして、今も親子で執事をしているとグレイ様が教えてくれた。

 グレイ様の両親はカルロの両親と共に領地で暮らしている……らしい。

 わたしたち夫婦の関係について色々と異を唱えたいだろうけど、遠くで見守ってくれているのだろうな。
 ーーこんな嫁、本当なら文句の一つや二つ言いたいだろうに。

 と言う事で、アリスちゃんはカルロ達と暮らし始めた。だけどこの屋敷から出て行ったわけではない。元々この屋敷の同じ敷地にカルロ夫婦の家は建てられている。

 だから二人が出勤している間はこの屋敷でノエル君と二人で過ごしている。

 ノエル君が朝起きた時と夜眠る時はそばにいない。だけどノエル君なりに理解してくれているようだ。





「アリアはアリスのままだから、よる、がまんする」

「うん、アリスも、『まま』ってよべるひとが、いてね、とってもうれしいの」

「アリスがわらってる!ノエルね、アリスのえがおがいっちばん、すきぃ!」

「アリスもノエルがわらってるかお、だいすき!」

「おんなじぃ!」

「うん、おなじだね。こんど、アリスのおへやにあそびにきてね?」

「いつ?いま?いくいく!」

「きょうはだぁめ!もうすぐあたらしい、カーテンとベッドがくるの!そしたらきてもいいよ」

「そんなのどうでもいいのに。ぼく、アリスのおへやであそんでみたいな」

「ままがおしごと、おやすみのひ、ね?」

「アリアはいつおやすみ?あした?ねえ?あしたおやすみだよね?」

 二人の話を近くで聞いていたアリアはクスクス笑いながら「ノエル様、明日はお仕事です。遊びにぜひ来て欲しいのですが、旦那様の許可が必要です」

「ぱぱ?わかった。ぱぱ、こわいけど、きく!ぱぱ、おこるかな?ままはやさしいのに、ぱぱのおかおは……コワイノ」

「旦那様は怒っているように見えますが、ノエル様のことをとても大切に思っております。怒ったりしないのでぜひ話しかけてあげてください」

「こわくない?」

「ええ、怖くなんてありません」

「ノエル、アリスといっしょにいこう」

「うん!!」





「ノエルがアリスの家に遊びに行きたい?」

「だめ?」ノエル君が必死でグレイ様の顔を恐々見つめている。見つめる目はキラキラしてる。

 ーーノエル君の見つめる顔が…か、可愛い!グレイ様も少し顔が緩んでる。

 絶対内心悶えてるはずだわ!

「あーー、うん、行くならままも一緒に行くように」

「わたしも?ええ、もちろんついて行くわ」

「「やったぁ!」」

 ーーふふっ、二人はずっと仲良しね。昼間はずっと一緒にいられるからお互い寂しくはないみたい。

 よかった。二人の笑顔がこのままずっと続いて欲しい。

 グレイ様が二人が結婚を、なんて言ったけど有り得ない話ではないわ。こんなに仲良しさんなんだもの。

 でも、わたしは幼馴染でとても仲が良かったのに、クリフォードと結ばれることはなかった。まぁ、クリフォードにわたしへの恋愛感情があったのかは分からないけど。

 わたしは……大好きだったな。今はかなりグレイ様に絆されている気がする。

 彼が真っ直ぐに『ティアを愛しているんだ』と言ってくれる言葉が嬉しく感じる。

 初めは『何もこのおじさん』だったのに今は『安心して頼れる人』になった。

 もうすぐ舞踏会。

 この5年間の記憶を失くしてしまったわたしにとって初めて知人達と会う日。



 ハンクスが宝石をいくつか持って屋敷に顔を出した。

「ティア様、今度の舞踏会にはわたしも出席するんです」

「あっ、そうなの?」

 ーーなんだか顔が暗いは。

「アリス商団の代表なんだもの。しっかり顔を売るのに舞踏会はいい場所じゃない」

「……そうなんですが……セリナ殿下が嫁がれたウィルジマ国から…セリナ様とマルセーヌ公爵の叔母であるフランソア夫人も舞踏会に参加されるんです」

「そうなの?セリナ様の他にも呼ばれているのね?」

「フランソア夫人と一緒に……帰ってくるんです……アリス商団を作ったお方が……」

「アリス商団を?」

 ーー別に困ることではないわよね?

「こんな話をティア様にするのは……セリナ様とご友人だと聞いているからなんです」

「セリナ様?ええ、そうね」

「僕は………アリス商団の代表ですが本当はアリスティアが代表になるべきでした」

 ーーアリスティア様………なんだか不思議ね。アリスちゃんとわたしの名前が………

 ハンクスは困った顔をしながら掻い摘んで過去の話をしてくれた。この話は貴族の間では皆知っているらしい。

 記憶を失くしたわたしは知らなかっただけ。

 今回、アリスティア様がフランソア夫人のお供として舞踏会に参加するらしい。

 ハンクスはアリスティア様を今も愛していて今回なんとか話しかけたいのだとわたしに言ってきた。

 仕事ではフランソア夫人と交流があるもののアリスティア様とは会ってもらえない。今回も避けられてしまうだろう。

 フランソア夫人はアリスティア様の味方なので、どんなにハンクスが近寄ろうとしても邪魔される。セリナ様を介して話せるならとわたしに頼みにきた。

「それは難しいのでは?アリスティア様はハンクスのことをどう思っているのかしら?」

「……アリスティアは……この国で暮らすにはあまりにも辛い思い出しかありません。だからこの国から出て行きました。俺はそれを止めることができませんでした……復讐のため彼女を利用して死にそうな目に合わせてしまいました……顔を合わせることができませんでした……恨まれているはずなのに、彼女は優しすぎます……俺はやっとアリス商団を大きくして安定させることができました。やっと彼女に会ってこの商団を返すことができます。アリスティアに詫びて……」

「うーん、よく分からないけど、ハンクスはアリスティア様を愛しているのね?そしてアリスティア様も多分あなたを愛しているのね?
 不器用な二人の恋愛……わたし、協力できるか分からないけど、アリスティア様に話しかけてみるわ」

 ーーなんだか面倒なことになったけど、アリスティア様に興味がわいたので、会ってみたいと思った。

 わたしは家族の愛をたくさんもらって育った、なのに歪んでしまった。アリスティア様は虐げられて育ったのに真っ直ぐに頑張って生きてきた人。

 わたしとは真逆な人。とても惹かれる。





 ◆ ◆ ◆

【妹にあげるわ】の主人公のアリスティアとハンクスの話が少しだけ出てきます。

 舞踏会での二人の再会とティアの友人達との再会が次のお話になります。

 いつもいいね、エール、感想ありがとうございます。










しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

ヒスババアと呼ばれた私が異世界に行きました

陽花紫
恋愛
夫にヒスババアと呼ばれた瞬間に異世界に召喚されたリカが、乳母のメアリー、従者のウィルとともに幼い王子を立派に育て上げる話。 小説家になろうにも掲載中です。

【完結】この地獄のような楽園に祝福を

おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。 だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと…… 「必ず迎えに来るよ」 そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。 でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。 ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。 フィル、貴方と共に生きたいの。 ※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。 ※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。 ※本編+おまけ数話。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...