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番外編 ブラッド編 ③
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王家の影から公爵家の影へと移った。
それは今回の俺の目的、エリーゼ様をお守りする為だ。
なのにまた俺は守りきれなかった。
あのユイナ・ミレーヌ。
今回の前と今では動きが違った。
前の記憶と今の記憶。
俺に流れて入ってきた新しい記憶は……
学校の図書館で突然ナイフで襲いかかった。
他の生徒たちと紛れていたため、不意打ちで殺気に全く気が付かなかった。
傷自体は致命傷ではなかったがまたも毒を使った犯罪だった。
俺はユイナ・ミレーヌを捕まえて毒の名前を聞き出すために必死だった。
左の指を全部折ると右の指に行く。流石に痛みが酷いのか声が出てきた。
「グッ……」
それでも答えようとしない。
仕方がないので、剣を持って来て腕に斬りつけた。
「グッ……うっ、うぅ……」
「次は腕を切り落とす。それでも吐かなければ足を切り落とす」
流石に痛みと恐怖でガタガタと震え出した。
動かない指を使いポケットから小瓶を出した。
それを影に渡そうとして顔を見た。
影が受け取ろうとした時、その毒の小瓶を彼女は自身にかけようとした。
それを素手で受け止めて、自分にかけてしまった。
自分にかかった毒を無視して、
「言え!次はお前の腕を切り落とすぞ」
と言いながら、首に剣の先を当てていた。
殺人のプロでもある影たちは、そう言うと反対の腕を切りつけた。
「あっ、あぁ……い、痛い……」
「だったら毒の名前を言え!」
「あ……これは植物の ……」
「エリーゼ様のもとへ戻る」
ブラッドはふらつきながらも急ぎエリーゼの元へ向かった。
「これが毒の見本です、植物の毒でした、後よろしくおねが……」
それだけ言うと俺も倒れた。
エリーゼ様と同じように呼吸が荒く顔色も土色になってきた。
この毒は北部にある山に咲いている花で百合科の植物。この花は人を殺すためによく採取されるものだった。
毒入りの瓶を嗅いで、この花特有の匂いとユイナ・ミレーヌの自白により毒を断定出来た。
そして俺も意識を失ってしまった。
これが今回の今のあたらしい記憶だ。
だが、俺の中で前の記憶も前回の記憶も残った。
今回の前では、マリーナ様の幼馴染で、マリーナ様が辺境伯に嫁ぐことになったのはエリーゼ様が全ての悪だと思いこみ、その悪を排除してマリーナ様を救う、と考えたらしい。
そして、俺が目が覚めると何故か周りの状況が変わっていた。
俺に新しく入ってくる情報と記憶が入れ替わろうとする頭の中に対して抵抗した。
今回の今は、ユイナ・ミレーヌはマリーナ様の意思を継いで、自分がクロード殿下と結婚するのだと思い込んで、邪魔なエリーゼ様を排除しようとした。
俺は三つの記憶を持ったままの人間としてこれから生きていかなければならなくなった。
そのうえ、今回の今の体には麻痺が残り俺は影を辞めざるを得なくなった。
そして公爵家の執事見習いとエリーゼ様の護衛として屋敷で雇われることになった。
巻き戻った俺はやはり最後まで彼女を守る「影」としてしか生きることはないと思っていたし決めていた。
今度こそ最後まで守り続ける。
なのに任務に失敗して俺自身も「影」として生きることが出来なくなった。
さらに彼女の意識は戻らず俺は後悔の中、公爵家の執事見習いになった。
エリーゼ様が年々綺麗になって大人に成長する姿を見て俺は前回のことを思い出してしまう。
いつも彼女を目で追っていた。
この人の瞳に俺が映ることはない。
あの頃それが無性に寂しく苦しかった。
そして今回の今は、その気持ちに気づかないように、俺は外出するようになった。
適当に遊んで朝帰りを繰り返した。
だが、前回のように女遊びは出来なかった。
いくら女性と飲んで遊んでも、最後まではしない。
自分でも馬鹿だと思うが、殿下に裏切られたエリーゼ様を思い出すと、俺は馬鹿な女遊びが出来なくなっていた。
そしてようやく半年以上意識が戻らなかったエリーゼ様が目覚めた。
彼女の意識が戻るまでは公爵家を辞めてどこかに行く選択肢はなかった。
俺は胸が張り裂けそうになりながら彼女が意識を取り戻すんだと信じ続けた。
屋敷の者達もエリーゼ様を敬愛する者は多かった。
一度は孤児院に逃げ込まれ屋敷にいない時もあったが、使用人にも気を遣われて、いつも笑顔で、とても優しい。
エリーゼ様が屋敷にいるだけで、この屋敷はとても温かい空気を纏う。
とても不思議な少女なのだ。
そして目が覚めた時彼女の世界は変わっていた。
俺は彼女をずっと知っているのに、彼女は俺を、俺の存在を知らない。
なのに執事見習いとして屋敷を歩いている時に、エリーゼ様は俺を見た瞬間「影さん?」と呼んだ。
俺はその時、どんな顔をしていたのだろう。
エリーゼ様がどうして俺の存在を認識したのか?
俺はずっとそばに居ても、顔も声も知らないはず。
すごい衝撃だった。
そして、なんとも言えない、嬉しくも恥ずかしくも、そして切なくも感じた。
俺にとってはずっと「守る人」なのだ。
なのに初めて彼女の前に立った俺の存在を一瞬で見つけ出した。
感動でしかなかった。
それでもやはり13歳の女の子に向ける感情は、俺にとっては護衛の対象で主でしかなかった。
ずっと見守る彼女は、とても美しく成長していった。
それは今回の俺の目的、エリーゼ様をお守りする為だ。
なのにまた俺は守りきれなかった。
あのユイナ・ミレーヌ。
今回の前と今では動きが違った。
前の記憶と今の記憶。
俺に流れて入ってきた新しい記憶は……
学校の図書館で突然ナイフで襲いかかった。
他の生徒たちと紛れていたため、不意打ちで殺気に全く気が付かなかった。
傷自体は致命傷ではなかったがまたも毒を使った犯罪だった。
俺はユイナ・ミレーヌを捕まえて毒の名前を聞き出すために必死だった。
左の指を全部折ると右の指に行く。流石に痛みが酷いのか声が出てきた。
「グッ……」
それでも答えようとしない。
仕方がないので、剣を持って来て腕に斬りつけた。
「グッ……うっ、うぅ……」
「次は腕を切り落とす。それでも吐かなければ足を切り落とす」
流石に痛みと恐怖でガタガタと震え出した。
動かない指を使いポケットから小瓶を出した。
それを影に渡そうとして顔を見た。
影が受け取ろうとした時、その毒の小瓶を彼女は自身にかけようとした。
それを素手で受け止めて、自分にかけてしまった。
自分にかかった毒を無視して、
「言え!次はお前の腕を切り落とすぞ」
と言いながら、首に剣の先を当てていた。
殺人のプロでもある影たちは、そう言うと反対の腕を切りつけた。
「あっ、あぁ……い、痛い……」
「だったら毒の名前を言え!」
「あ……これは植物の ……」
「エリーゼ様のもとへ戻る」
ブラッドはふらつきながらも急ぎエリーゼの元へ向かった。
「これが毒の見本です、植物の毒でした、後よろしくおねが……」
それだけ言うと俺も倒れた。
エリーゼ様と同じように呼吸が荒く顔色も土色になってきた。
この毒は北部にある山に咲いている花で百合科の植物。この花は人を殺すためによく採取されるものだった。
毒入りの瓶を嗅いで、この花特有の匂いとユイナ・ミレーヌの自白により毒を断定出来た。
そして俺も意識を失ってしまった。
これが今回の今のあたらしい記憶だ。
だが、俺の中で前の記憶も前回の記憶も残った。
今回の前では、マリーナ様の幼馴染で、マリーナ様が辺境伯に嫁ぐことになったのはエリーゼ様が全ての悪だと思いこみ、その悪を排除してマリーナ様を救う、と考えたらしい。
そして、俺が目が覚めると何故か周りの状況が変わっていた。
俺に新しく入ってくる情報と記憶が入れ替わろうとする頭の中に対して抵抗した。
今回の今は、ユイナ・ミレーヌはマリーナ様の意思を継いで、自分がクロード殿下と結婚するのだと思い込んで、邪魔なエリーゼ様を排除しようとした。
俺は三つの記憶を持ったままの人間としてこれから生きていかなければならなくなった。
そのうえ、今回の今の体には麻痺が残り俺は影を辞めざるを得なくなった。
そして公爵家の執事見習いとエリーゼ様の護衛として屋敷で雇われることになった。
巻き戻った俺はやはり最後まで彼女を守る「影」としてしか生きることはないと思っていたし決めていた。
今度こそ最後まで守り続ける。
なのに任務に失敗して俺自身も「影」として生きることが出来なくなった。
さらに彼女の意識は戻らず俺は後悔の中、公爵家の執事見習いになった。
エリーゼ様が年々綺麗になって大人に成長する姿を見て俺は前回のことを思い出してしまう。
いつも彼女を目で追っていた。
この人の瞳に俺が映ることはない。
あの頃それが無性に寂しく苦しかった。
そして今回の今は、その気持ちに気づかないように、俺は外出するようになった。
適当に遊んで朝帰りを繰り返した。
だが、前回のように女遊びは出来なかった。
いくら女性と飲んで遊んでも、最後まではしない。
自分でも馬鹿だと思うが、殿下に裏切られたエリーゼ様を思い出すと、俺は馬鹿な女遊びが出来なくなっていた。
そしてようやく半年以上意識が戻らなかったエリーゼ様が目覚めた。
彼女の意識が戻るまでは公爵家を辞めてどこかに行く選択肢はなかった。
俺は胸が張り裂けそうになりながら彼女が意識を取り戻すんだと信じ続けた。
屋敷の者達もエリーゼ様を敬愛する者は多かった。
一度は孤児院に逃げ込まれ屋敷にいない時もあったが、使用人にも気を遣われて、いつも笑顔で、とても優しい。
エリーゼ様が屋敷にいるだけで、この屋敷はとても温かい空気を纏う。
とても不思議な少女なのだ。
そして目が覚めた時彼女の世界は変わっていた。
俺は彼女をずっと知っているのに、彼女は俺を、俺の存在を知らない。
なのに執事見習いとして屋敷を歩いている時に、エリーゼ様は俺を見た瞬間「影さん?」と呼んだ。
俺はその時、どんな顔をしていたのだろう。
エリーゼ様がどうして俺の存在を認識したのか?
俺はずっとそばに居ても、顔も声も知らないはず。
すごい衝撃だった。
そして、なんとも言えない、嬉しくも恥ずかしくも、そして切なくも感じた。
俺にとってはずっと「守る人」なのだ。
なのに初めて彼女の前に立った俺の存在を一瞬で見つけ出した。
感動でしかなかった。
それでもやはり13歳の女の子に向ける感情は、俺にとっては護衛の対象で主でしかなかった。
ずっと見守る彼女は、とても美しく成長していった。
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