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後編
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卒業式当日。
最後の制服を着る。
わたし専属のメイドが聞いてきた。
「お嬢さま、髪型はどうなさいますか?」
「うーん、最後だからまっすぐストレートにして、何もしないで」
わたしがセザンに初めて会った頃は、ベッドの中で過ごしていたので、長い髪をそのまま何もせずにいた。
学園に通い出してからは一つ結んだり三つ編みをしたり編み込みをしたり、シニヨンをしたりと、いつも纏めていることが多かった。
今日はセザンと初めて会った日と同じ髪型にしたかった。
ーー最後の日ーー
わたしは、支度をしてもらいながら思い出していた。
いつもベッドの中で、使用人達に気を遣われながら寂しく過ごしていた子供の頃。
突然扉から入ってきたわたしと同じ歳くらいの男の子がわたしを見てニッコリと笑った。
「君の名前は?ぼくは、セザン・バーリン」
「……わ、わたしは、ダ、ダリア・パウンダー……です」
「ふうん、ダリアか。分かった!ダリア、一緒に遊ぼう、何をする?ぼくが本を読んであげようか?」
そう言ってセザンが持ってきた本を読んでくれた。
ーー実はその本何回も読んでいたから内容も全て覚えていたのだけど、セザンが一生懸命に読んでくれたので、わたしは嬉しくてすごく楽しそうな顔をしたんだった。
それからは来るたびに本を読んでくれた。
そして少しずつお庭に散歩に連れ出してくれたり、屋敷の中を探検したりするようになった。
いつもセザンが来るのを窓を見ながら待っていた。
でももう待つこともない。
ここ数年屋敷に来ることは無くなった。
わたしは窓から外を見ることすらやめた。
わたしの部屋のカーテンは重く閉じられて、外を見ることはできなくなっている。
ううん、わたしが見ることができなくなった。
ーーー
セザンに初めて会った日のあのドキドキを思い出しながらわたしは馬車に乗った。
寂しくて辛い日もたくさんあった初恋。
バッドが尻尾を振りながらわたしを見送ってくれた。
「お嬢さま、セザン様のお宅には寄られますか?」
「ううん、寄らなくていいわ」
今朝もセザンの家には寄らずにそのまま登校した。
ーーだって朝一発目で振られたら、1日どんな顔して過ごしたらいいかわからないもの。
学園に行くと何故かみんながわたしをチラチラと様子を伺っているのがわかる。
まあ、あれだけ毎日セザンを追いかけ回したのだからみんな知っているわよね。
わたしがもう振られたこと…いや、まだだ。
まだ振られてはいない!
そう、今から振られるんだもの。
◇ ◇ ◇
卒業式でセザンが卒業生代表の挨拶をした。
彼の最後の制服姿をわたしはしっかり目に焼き付けて、彼の声を忘れないようにしっかりと聞き入っていた。
子供の頃の聞き慣れた幼い声から、低い大人の声に変わっていた。当たり前だけど。
いつも優しいぶっきらぼうなセザンの声。
大好きだったセザンの声に何故か涙が止まらない。
横にいたエリーが、「ほら、ハンカチ!」と言ってびしょ濡れになったわたしのハンカチを見て自分のハンカチを貸してくれた。
「……っう、ひっ……っぐ……」
ありがとうも言えずにハンカチを借りた。
「あー、もう、ダリア、鼻水!ほら吹いて!」
エリーが小さな声でわたしの顔を見ながら言った。
「う、うん」
鼻水を拭くと、エリーがポツリと呟いた。
「そのハンカチ返さなくていいから」
ーーうっ、ごめんなさい
卒業式が終わって教室に帰ると、仲間達と最後のお別れの挨拶をした。
夜は卒業パーティーがある。
だからみんなドレスアップするために一旦家に帰る。
わたしは急いで隣のクラスに行った。
教室の中をキョロキョロ見回していると顔見知りの男の子がわたしに近づいてきた。
「あーー、セザンならさっきユリアンって子に呼ばれて出て行ったよ、たぶんあっちの方へ行ったと思う」
わたしがセザンが大好きなことは有名でみんな知っている。だから、とても言いにくそうに気を遣って教えてくれた。
わたしは傷ついていないフリをして
「ありがとう」と微笑んだ。
ーーちゃんと笑えたかな?
セザンが気になって彼が向かったと教えてもらった方へ廊下を歩いて行った。
空き教室にセザンとユリアン様がいた。
わたしは気づかれないようにそっと覗いた。
「セザン、卒業おめでとう。ずっとそばにいてくれてありがとう、寂しくなっちゃうわ」
「ううん、本当はまだ一緒にいてあげたかったけどごめんな」
ーーあ、告白する前に終わった。
どうやって自分の部屋へ戻ったかなんて記憶にない。
部屋に鍵をかけて誰も入れないようにした。
卒業パーティーのために頑張って自分でデザインして作ったお気に入りのドレス。
セザンにプレゼントしたかったペンと時計。
自分で働いたお金で買いたくて、お父様に無理やり頼んでお父様の執務室のお掃除を毎日させてもらって稼いだお小遣いだった。
わたしは全てゴミ箱に捨てた。
セザンが悪いわけではない。
わたしの勝手な片思いなのだから。
分かってる、分かってるのに、ダメだと分かっていたのに、やっぱり二人の姿を見たら辛くて苦しくて、涙がいっぱい出て、止まらなかった。
「お嬢さま、大丈ですか?」
わたし付きのメイド達が心配して扉を叩く。
「お願い、体調が悪いの、一人にしてちょうだい」
なんとか声を振り絞って答えた。
泣き疲れて目が覚めたら、もう卒業パーティーが始まっている時間になっていた。
「ま、告白して断られてたら行けなかったしどっちにしろ不参加だったもの」
自嘲気味に笑った。
ふとベッドの下を見ると、バッドが静かに絨毯で寝ていた。
あまりにも静かすぎて気が付かなかった。
「バッド、居たのね、慰めてはくれないの?」
バッドは声をかけると、いつもならわたしに遊ぼうと来るか舐め回してくるのに、わたしをチラッと見るとまた目を閉じて静かに寝てしまった。
「あなたも一人になりたいのかしら?」
ベッドの横にあるランプの灯りが何故か寂しくてまた涙が出てきた。
ふと思い出して、セザンとの思い出の詰まった箱をクローゼットから取り出すとポツリと呟いた。
「さて、全て焼いてもらおう」
このまま落ち込んでいても仕方ない。
わたしはしわしわになった制服を脱ぎ捨てて私服に着替えた。
部屋を出ると、心配して様子を伺っていた使用人達が急いでそばに来た。
「お嬢さま、やっと出てこられたんですね」
ホッとした顔をしたわたし付きのメイドが
「それは…」
わたしが持っている箱を見つめて聞いてきた。
「うん、焼いて捨てて欲しいの。卒業しないとね」
笑えているかしら?
こうしてわたしの初恋は終わった。
◆ ◆ ◆
え?ハッピーエンドは?
ダリア編は失恋で終わっちゃいました。
次はセザン編です。
ここからセザン、頑張れる?かな
最後の制服を着る。
わたし専属のメイドが聞いてきた。
「お嬢さま、髪型はどうなさいますか?」
「うーん、最後だからまっすぐストレートにして、何もしないで」
わたしがセザンに初めて会った頃は、ベッドの中で過ごしていたので、長い髪をそのまま何もせずにいた。
学園に通い出してからは一つ結んだり三つ編みをしたり編み込みをしたり、シニヨンをしたりと、いつも纏めていることが多かった。
今日はセザンと初めて会った日と同じ髪型にしたかった。
ーー最後の日ーー
わたしは、支度をしてもらいながら思い出していた。
いつもベッドの中で、使用人達に気を遣われながら寂しく過ごしていた子供の頃。
突然扉から入ってきたわたしと同じ歳くらいの男の子がわたしを見てニッコリと笑った。
「君の名前は?ぼくは、セザン・バーリン」
「……わ、わたしは、ダ、ダリア・パウンダー……です」
「ふうん、ダリアか。分かった!ダリア、一緒に遊ぼう、何をする?ぼくが本を読んであげようか?」
そう言ってセザンが持ってきた本を読んでくれた。
ーー実はその本何回も読んでいたから内容も全て覚えていたのだけど、セザンが一生懸命に読んでくれたので、わたしは嬉しくてすごく楽しそうな顔をしたんだった。
それからは来るたびに本を読んでくれた。
そして少しずつお庭に散歩に連れ出してくれたり、屋敷の中を探検したりするようになった。
いつもセザンが来るのを窓を見ながら待っていた。
でももう待つこともない。
ここ数年屋敷に来ることは無くなった。
わたしは窓から外を見ることすらやめた。
わたしの部屋のカーテンは重く閉じられて、外を見ることはできなくなっている。
ううん、わたしが見ることができなくなった。
ーーー
セザンに初めて会った日のあのドキドキを思い出しながらわたしは馬車に乗った。
寂しくて辛い日もたくさんあった初恋。
バッドが尻尾を振りながらわたしを見送ってくれた。
「お嬢さま、セザン様のお宅には寄られますか?」
「ううん、寄らなくていいわ」
今朝もセザンの家には寄らずにそのまま登校した。
ーーだって朝一発目で振られたら、1日どんな顔して過ごしたらいいかわからないもの。
学園に行くと何故かみんながわたしをチラチラと様子を伺っているのがわかる。
まあ、あれだけ毎日セザンを追いかけ回したのだからみんな知っているわよね。
わたしがもう振られたこと…いや、まだだ。
まだ振られてはいない!
そう、今から振られるんだもの。
◇ ◇ ◇
卒業式でセザンが卒業生代表の挨拶をした。
彼の最後の制服姿をわたしはしっかり目に焼き付けて、彼の声を忘れないようにしっかりと聞き入っていた。
子供の頃の聞き慣れた幼い声から、低い大人の声に変わっていた。当たり前だけど。
いつも優しいぶっきらぼうなセザンの声。
大好きだったセザンの声に何故か涙が止まらない。
横にいたエリーが、「ほら、ハンカチ!」と言ってびしょ濡れになったわたしのハンカチを見て自分のハンカチを貸してくれた。
「……っう、ひっ……っぐ……」
ありがとうも言えずにハンカチを借りた。
「あー、もう、ダリア、鼻水!ほら吹いて!」
エリーが小さな声でわたしの顔を見ながら言った。
「う、うん」
鼻水を拭くと、エリーがポツリと呟いた。
「そのハンカチ返さなくていいから」
ーーうっ、ごめんなさい
卒業式が終わって教室に帰ると、仲間達と最後のお別れの挨拶をした。
夜は卒業パーティーがある。
だからみんなドレスアップするために一旦家に帰る。
わたしは急いで隣のクラスに行った。
教室の中をキョロキョロ見回していると顔見知りの男の子がわたしに近づいてきた。
「あーー、セザンならさっきユリアンって子に呼ばれて出て行ったよ、たぶんあっちの方へ行ったと思う」
わたしがセザンが大好きなことは有名でみんな知っている。だから、とても言いにくそうに気を遣って教えてくれた。
わたしは傷ついていないフリをして
「ありがとう」と微笑んだ。
ーーちゃんと笑えたかな?
セザンが気になって彼が向かったと教えてもらった方へ廊下を歩いて行った。
空き教室にセザンとユリアン様がいた。
わたしは気づかれないようにそっと覗いた。
「セザン、卒業おめでとう。ずっとそばにいてくれてありがとう、寂しくなっちゃうわ」
「ううん、本当はまだ一緒にいてあげたかったけどごめんな」
ーーあ、告白する前に終わった。
どうやって自分の部屋へ戻ったかなんて記憶にない。
部屋に鍵をかけて誰も入れないようにした。
卒業パーティーのために頑張って自分でデザインして作ったお気に入りのドレス。
セザンにプレゼントしたかったペンと時計。
自分で働いたお金で買いたくて、お父様に無理やり頼んでお父様の執務室のお掃除を毎日させてもらって稼いだお小遣いだった。
わたしは全てゴミ箱に捨てた。
セザンが悪いわけではない。
わたしの勝手な片思いなのだから。
分かってる、分かってるのに、ダメだと分かっていたのに、やっぱり二人の姿を見たら辛くて苦しくて、涙がいっぱい出て、止まらなかった。
「お嬢さま、大丈ですか?」
わたし付きのメイド達が心配して扉を叩く。
「お願い、体調が悪いの、一人にしてちょうだい」
なんとか声を振り絞って答えた。
泣き疲れて目が覚めたら、もう卒業パーティーが始まっている時間になっていた。
「ま、告白して断られてたら行けなかったしどっちにしろ不参加だったもの」
自嘲気味に笑った。
ふとベッドの下を見ると、バッドが静かに絨毯で寝ていた。
あまりにも静かすぎて気が付かなかった。
「バッド、居たのね、慰めてはくれないの?」
バッドは声をかけると、いつもならわたしに遊ぼうと来るか舐め回してくるのに、わたしをチラッと見るとまた目を閉じて静かに寝てしまった。
「あなたも一人になりたいのかしら?」
ベッドの横にあるランプの灯りが何故か寂しくてまた涙が出てきた。
ふと思い出して、セザンとの思い出の詰まった箱をクローゼットから取り出すとポツリと呟いた。
「さて、全て焼いてもらおう」
このまま落ち込んでいても仕方ない。
わたしはしわしわになった制服を脱ぎ捨てて私服に着替えた。
部屋を出ると、心配して様子を伺っていた使用人達が急いでそばに来た。
「お嬢さま、やっと出てこられたんですね」
ホッとした顔をしたわたし付きのメイドが
「それは…」
わたしが持っている箱を見つめて聞いてきた。
「うん、焼いて捨てて欲しいの。卒業しないとね」
笑えているかしら?
こうしてわたしの初恋は終わった。
◆ ◆ ◆
え?ハッピーエンドは?
ダリア編は失恋で終わっちゃいました。
次はセザン編です。
ここからセザン、頑張れる?かな
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