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結婚生活の破綻
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朝目が覚めた。
わたしはいつものように仕事に行くために支度を始めた。
実家に戻って数日お休みをもらい、また仕事に復帰した。
「セスティ・グリーンティア、重たい荷物は男どもに任せなさい。貴女は座って仕事をするのよ、大変な仕事は全て男どもに回しなさい!いいわね」
イリーンさんの言葉に周りの人達は、慌てて
「いつでも言って!」
「大丈夫、僕がするから」
と優しく声をかけてくれる。
もちろんイリーンさんはいつものイリーンさんで、面倒な仕事は全て人に任せて自分は楽なことしかしない。
うん、イリーンさんは健在である。
わたしはやっと実家に帰ってお父様やカムリと暮らし心が落ち着いてきた。
悪阻はまだ続いていて食事は摂れないけど、精神的に落ち着いたので睡眠もしっかりとっているし体調は以前よりも落ち着いてきた。
そんな中、何度かランドルがわたしの職場に顔を出してきた。
でも入り口には、
『関係者以外立ち入り禁止』
の紙が何枚も貼られていて、ランドルはわたしに会うことはない。
このままではいけないことはもちろんわかっている。
ランドルと一度話し合わなければいけない。
離縁してわたしに払ったお金を返却するにしても、お腹の子のことを考えると、どうするべきか……
女の子ならわたしが引き取れるけど男の子ならグリーンティア家の跡取りになってしまう。
わたしがランドルと歩み寄ることは出来るのだろうか。
未だにランドルを見ると体が強張る。
でも少しずつ改善はされてきた。
食事で朝は必ず顔を合わせていたし、なんとか彼といることに慣れてきていた。
愛のない夜の生活は、嫌ではなかった。
だからと言って嬉しくもなかったが。
たぶん彼を嫌いではないから。
ただあの冷たい目にまた捨てられるのではと思い、心が守ろうとして彼を必死で拒否しているのだと思う。
またあの辛い日々に戻りたくないから、もう彼に裏切られたくないから、捨てられたくないから……
彼を愛してしまいたくない。
だから必死で心が否定する。
決心が決まらない中、お腹の赤ちゃんは関係なく順調に育っていった。
お腹が少し膨らみ始めた5ヶ月をすぎた頃、王宮内を歩いていると殿下を見かけた。
わたしは急ぎ廊下の端に行き頭を下げた。
早く通り過ぎて欲しい。
そう思っていると、わたしの目の前で足音が止まった。
(またわたしに話しかける気なのかしら?)
結婚してからは殿下がわたしに話しかけることはなくなっていたので、安心してしまっていた。
「セスティ、頭を上げて」
殿下の言葉に頭を上げると、少し困った顔をした殿下がわたしを見ていた。
「ランドルの屋敷を出たらしいね。僕が間違えたことが今も君を苦しめているんだね」
わたしは殿下の言葉にどう答えていいのか悩んでいた。
「……殿下が悪かったわけではありません。わたしも誰にも否定しなかったですから……何を言っても誰も聞いてはくれないと諦めてしまいました、殿下との噂と実家の父の事と二つが重なりわたしはもうどうでもよくなっていました」
わたしは初めて心の中を冷静に話せた。
いつもは殿下への恐怖で頭がパニックになるのに動揺せずに話すことができた。
「ですからもうわたしの事など気にしないでください」
もう殿下からの申し訳なさそうな顔もわたしをつらそうに見る視線も、わたしには鬱陶しかった。
気にしてくれなくていい。
「わかった……でも君は今大切な時期だろう?仕事をするよりもゆっくりと過ごすべきではないのか?」
「わたしの職場はみんながとても親切でこんなわたしでも働いていいと言ってくれます。迷惑にならないように働かせてもらっています」
わたしがみんなに迷惑をかけないようにしているつもりだと、伝わったのか、
「いや、違うんだ。君の体を心配しただけなんだ」
「ご心配いただきありがとうございます。ですがわたしは大丈夫です」
もうこれ以上話しかけないで!
と言っているのがわかってくれたようで
「そうか……体を大事にしてくれ」
と言って殿下が立ち去った。
殿下の後ろにはもちろんランドルがいた。
わたしはランドルに一切視線を向けなかった。
彼がわたしをどんな風に見ていたかなんて知らない。
結婚してもわたしに冷たくしかしなかったランドル。
歩み寄ることが難しいと分かってはいても何度となく期待して、でもまともに話すこともできなくて、結局実家に帰った。
殿下の後ろに控えていたランドルの姿も見えなくなった。
わたしはホッとして急ぎ職場に戻ろうとしたら、不意に肩を掴まれた。
「きゃっ!」
わたしが驚いて振り返ると、ランドルが立っていた。
「………セスティ、少し話せないか?」
わたしはいつものように仕事に行くために支度を始めた。
実家に戻って数日お休みをもらい、また仕事に復帰した。
「セスティ・グリーンティア、重たい荷物は男どもに任せなさい。貴女は座って仕事をするのよ、大変な仕事は全て男どもに回しなさい!いいわね」
イリーンさんの言葉に周りの人達は、慌てて
「いつでも言って!」
「大丈夫、僕がするから」
と優しく声をかけてくれる。
もちろんイリーンさんはいつものイリーンさんで、面倒な仕事は全て人に任せて自分は楽なことしかしない。
うん、イリーンさんは健在である。
わたしはやっと実家に帰ってお父様やカムリと暮らし心が落ち着いてきた。
悪阻はまだ続いていて食事は摂れないけど、精神的に落ち着いたので睡眠もしっかりとっているし体調は以前よりも落ち着いてきた。
そんな中、何度かランドルがわたしの職場に顔を出してきた。
でも入り口には、
『関係者以外立ち入り禁止』
の紙が何枚も貼られていて、ランドルはわたしに会うことはない。
このままではいけないことはもちろんわかっている。
ランドルと一度話し合わなければいけない。
離縁してわたしに払ったお金を返却するにしても、お腹の子のことを考えると、どうするべきか……
女の子ならわたしが引き取れるけど男の子ならグリーンティア家の跡取りになってしまう。
わたしがランドルと歩み寄ることは出来るのだろうか。
未だにランドルを見ると体が強張る。
でも少しずつ改善はされてきた。
食事で朝は必ず顔を合わせていたし、なんとか彼といることに慣れてきていた。
愛のない夜の生活は、嫌ではなかった。
だからと言って嬉しくもなかったが。
たぶん彼を嫌いではないから。
ただあの冷たい目にまた捨てられるのではと思い、心が守ろうとして彼を必死で拒否しているのだと思う。
またあの辛い日々に戻りたくないから、もう彼に裏切られたくないから、捨てられたくないから……
彼を愛してしまいたくない。
だから必死で心が否定する。
決心が決まらない中、お腹の赤ちゃんは関係なく順調に育っていった。
お腹が少し膨らみ始めた5ヶ月をすぎた頃、王宮内を歩いていると殿下を見かけた。
わたしは急ぎ廊下の端に行き頭を下げた。
早く通り過ぎて欲しい。
そう思っていると、わたしの目の前で足音が止まった。
(またわたしに話しかける気なのかしら?)
結婚してからは殿下がわたしに話しかけることはなくなっていたので、安心してしまっていた。
「セスティ、頭を上げて」
殿下の言葉に頭を上げると、少し困った顔をした殿下がわたしを見ていた。
「ランドルの屋敷を出たらしいね。僕が間違えたことが今も君を苦しめているんだね」
わたしは殿下の言葉にどう答えていいのか悩んでいた。
「……殿下が悪かったわけではありません。わたしも誰にも否定しなかったですから……何を言っても誰も聞いてはくれないと諦めてしまいました、殿下との噂と実家の父の事と二つが重なりわたしはもうどうでもよくなっていました」
わたしは初めて心の中を冷静に話せた。
いつもは殿下への恐怖で頭がパニックになるのに動揺せずに話すことができた。
「ですからもうわたしの事など気にしないでください」
もう殿下からの申し訳なさそうな顔もわたしをつらそうに見る視線も、わたしには鬱陶しかった。
気にしてくれなくていい。
「わかった……でも君は今大切な時期だろう?仕事をするよりもゆっくりと過ごすべきではないのか?」
「わたしの職場はみんながとても親切でこんなわたしでも働いていいと言ってくれます。迷惑にならないように働かせてもらっています」
わたしがみんなに迷惑をかけないようにしているつもりだと、伝わったのか、
「いや、違うんだ。君の体を心配しただけなんだ」
「ご心配いただきありがとうございます。ですがわたしは大丈夫です」
もうこれ以上話しかけないで!
と言っているのがわかってくれたようで
「そうか……体を大事にしてくれ」
と言って殿下が立ち去った。
殿下の後ろにはもちろんランドルがいた。
わたしはランドルに一切視線を向けなかった。
彼がわたしをどんな風に見ていたかなんて知らない。
結婚してもわたしに冷たくしかしなかったランドル。
歩み寄ることが難しいと分かってはいても何度となく期待して、でもまともに話すこともできなくて、結局実家に帰った。
殿下の後ろに控えていたランドルの姿も見えなくなった。
わたしはホッとして急ぎ職場に戻ろうとしたら、不意に肩を掴まれた。
「きゃっ!」
わたしが驚いて振り返ると、ランドルが立っていた。
「………セスティ、少し話せないか?」
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