26 / 31
結婚生活の破綻
しおりを挟む
朝目が覚めた。
わたしはいつものように仕事に行くために支度を始めた。
実家に戻って数日お休みをもらい、また仕事に復帰した。
「セスティ・グリーンティア、重たい荷物は男どもに任せなさい。貴女は座って仕事をするのよ、大変な仕事は全て男どもに回しなさい!いいわね」
イリーンさんの言葉に周りの人達は、慌てて
「いつでも言って!」
「大丈夫、僕がするから」
と優しく声をかけてくれる。
もちろんイリーンさんはいつものイリーンさんで、面倒な仕事は全て人に任せて自分は楽なことしかしない。
うん、イリーンさんは健在である。
わたしはやっと実家に帰ってお父様やカムリと暮らし心が落ち着いてきた。
悪阻はまだ続いていて食事は摂れないけど、精神的に落ち着いたので睡眠もしっかりとっているし体調は以前よりも落ち着いてきた。
そんな中、何度かランドルがわたしの職場に顔を出してきた。
でも入り口には、
『関係者以外立ち入り禁止』
の紙が何枚も貼られていて、ランドルはわたしに会うことはない。
このままではいけないことはもちろんわかっている。
ランドルと一度話し合わなければいけない。
離縁してわたしに払ったお金を返却するにしても、お腹の子のことを考えると、どうするべきか……
女の子ならわたしが引き取れるけど男の子ならグリーンティア家の跡取りになってしまう。
わたしがランドルと歩み寄ることは出来るのだろうか。
未だにランドルを見ると体が強張る。
でも少しずつ改善はされてきた。
食事で朝は必ず顔を合わせていたし、なんとか彼といることに慣れてきていた。
愛のない夜の生活は、嫌ではなかった。
だからと言って嬉しくもなかったが。
たぶん彼を嫌いではないから。
ただあの冷たい目にまた捨てられるのではと思い、心が守ろうとして彼を必死で拒否しているのだと思う。
またあの辛い日々に戻りたくないから、もう彼に裏切られたくないから、捨てられたくないから……
彼を愛してしまいたくない。
だから必死で心が否定する。
決心が決まらない中、お腹の赤ちゃんは関係なく順調に育っていった。
お腹が少し膨らみ始めた5ヶ月をすぎた頃、王宮内を歩いていると殿下を見かけた。
わたしは急ぎ廊下の端に行き頭を下げた。
早く通り過ぎて欲しい。
そう思っていると、わたしの目の前で足音が止まった。
(またわたしに話しかける気なのかしら?)
結婚してからは殿下がわたしに話しかけることはなくなっていたので、安心してしまっていた。
「セスティ、頭を上げて」
殿下の言葉に頭を上げると、少し困った顔をした殿下がわたしを見ていた。
「ランドルの屋敷を出たらしいね。僕が間違えたことが今も君を苦しめているんだね」
わたしは殿下の言葉にどう答えていいのか悩んでいた。
「……殿下が悪かったわけではありません。わたしも誰にも否定しなかったですから……何を言っても誰も聞いてはくれないと諦めてしまいました、殿下との噂と実家の父の事と二つが重なりわたしはもうどうでもよくなっていました」
わたしは初めて心の中を冷静に話せた。
いつもは殿下への恐怖で頭がパニックになるのに動揺せずに話すことができた。
「ですからもうわたしの事など気にしないでください」
もう殿下からの申し訳なさそうな顔もわたしをつらそうに見る視線も、わたしには鬱陶しかった。
気にしてくれなくていい。
「わかった……でも君は今大切な時期だろう?仕事をするよりもゆっくりと過ごすべきではないのか?」
「わたしの職場はみんながとても親切でこんなわたしでも働いていいと言ってくれます。迷惑にならないように働かせてもらっています」
わたしがみんなに迷惑をかけないようにしているつもりだと、伝わったのか、
「いや、違うんだ。君の体を心配しただけなんだ」
「ご心配いただきありがとうございます。ですがわたしは大丈夫です」
もうこれ以上話しかけないで!
と言っているのがわかってくれたようで
「そうか……体を大事にしてくれ」
と言って殿下が立ち去った。
殿下の後ろにはもちろんランドルがいた。
わたしはランドルに一切視線を向けなかった。
彼がわたしをどんな風に見ていたかなんて知らない。
結婚してもわたしに冷たくしかしなかったランドル。
歩み寄ることが難しいと分かってはいても何度となく期待して、でもまともに話すこともできなくて、結局実家に帰った。
殿下の後ろに控えていたランドルの姿も見えなくなった。
わたしはホッとして急ぎ職場に戻ろうとしたら、不意に肩を掴まれた。
「きゃっ!」
わたしが驚いて振り返ると、ランドルが立っていた。
「………セスティ、少し話せないか?」
わたしはいつものように仕事に行くために支度を始めた。
実家に戻って数日お休みをもらい、また仕事に復帰した。
「セスティ・グリーンティア、重たい荷物は男どもに任せなさい。貴女は座って仕事をするのよ、大変な仕事は全て男どもに回しなさい!いいわね」
イリーンさんの言葉に周りの人達は、慌てて
「いつでも言って!」
「大丈夫、僕がするから」
と優しく声をかけてくれる。
もちろんイリーンさんはいつものイリーンさんで、面倒な仕事は全て人に任せて自分は楽なことしかしない。
うん、イリーンさんは健在である。
わたしはやっと実家に帰ってお父様やカムリと暮らし心が落ち着いてきた。
悪阻はまだ続いていて食事は摂れないけど、精神的に落ち着いたので睡眠もしっかりとっているし体調は以前よりも落ち着いてきた。
そんな中、何度かランドルがわたしの職場に顔を出してきた。
でも入り口には、
『関係者以外立ち入り禁止』
の紙が何枚も貼られていて、ランドルはわたしに会うことはない。
このままではいけないことはもちろんわかっている。
ランドルと一度話し合わなければいけない。
離縁してわたしに払ったお金を返却するにしても、お腹の子のことを考えると、どうするべきか……
女の子ならわたしが引き取れるけど男の子ならグリーンティア家の跡取りになってしまう。
わたしがランドルと歩み寄ることは出来るのだろうか。
未だにランドルを見ると体が強張る。
でも少しずつ改善はされてきた。
食事で朝は必ず顔を合わせていたし、なんとか彼といることに慣れてきていた。
愛のない夜の生活は、嫌ではなかった。
だからと言って嬉しくもなかったが。
たぶん彼を嫌いではないから。
ただあの冷たい目にまた捨てられるのではと思い、心が守ろうとして彼を必死で拒否しているのだと思う。
またあの辛い日々に戻りたくないから、もう彼に裏切られたくないから、捨てられたくないから……
彼を愛してしまいたくない。
だから必死で心が否定する。
決心が決まらない中、お腹の赤ちゃんは関係なく順調に育っていった。
お腹が少し膨らみ始めた5ヶ月をすぎた頃、王宮内を歩いていると殿下を見かけた。
わたしは急ぎ廊下の端に行き頭を下げた。
早く通り過ぎて欲しい。
そう思っていると、わたしの目の前で足音が止まった。
(またわたしに話しかける気なのかしら?)
結婚してからは殿下がわたしに話しかけることはなくなっていたので、安心してしまっていた。
「セスティ、頭を上げて」
殿下の言葉に頭を上げると、少し困った顔をした殿下がわたしを見ていた。
「ランドルの屋敷を出たらしいね。僕が間違えたことが今も君を苦しめているんだね」
わたしは殿下の言葉にどう答えていいのか悩んでいた。
「……殿下が悪かったわけではありません。わたしも誰にも否定しなかったですから……何を言っても誰も聞いてはくれないと諦めてしまいました、殿下との噂と実家の父の事と二つが重なりわたしはもうどうでもよくなっていました」
わたしは初めて心の中を冷静に話せた。
いつもは殿下への恐怖で頭がパニックになるのに動揺せずに話すことができた。
「ですからもうわたしの事など気にしないでください」
もう殿下からの申し訳なさそうな顔もわたしをつらそうに見る視線も、わたしには鬱陶しかった。
気にしてくれなくていい。
「わかった……でも君は今大切な時期だろう?仕事をするよりもゆっくりと過ごすべきではないのか?」
「わたしの職場はみんながとても親切でこんなわたしでも働いていいと言ってくれます。迷惑にならないように働かせてもらっています」
わたしがみんなに迷惑をかけないようにしているつもりだと、伝わったのか、
「いや、違うんだ。君の体を心配しただけなんだ」
「ご心配いただきありがとうございます。ですがわたしは大丈夫です」
もうこれ以上話しかけないで!
と言っているのがわかってくれたようで
「そうか……体を大事にしてくれ」
と言って殿下が立ち去った。
殿下の後ろにはもちろんランドルがいた。
わたしはランドルに一切視線を向けなかった。
彼がわたしをどんな風に見ていたかなんて知らない。
結婚してもわたしに冷たくしかしなかったランドル。
歩み寄ることが難しいと分かってはいても何度となく期待して、でもまともに話すこともできなくて、結局実家に帰った。
殿下の後ろに控えていたランドルの姿も見えなくなった。
わたしはホッとして急ぎ職場に戻ろうとしたら、不意に肩を掴まれた。
「きゃっ!」
わたしが驚いて振り返ると、ランドルが立っていた。
「………セスティ、少し話せないか?」
21
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる