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継母の旦那様と恋人
わたしは旦那様がいたことをうっかり忘れていた。
だって結婚式の日以来、お会いしていないのだ。
顔すらまともに覚えていない。
(これ本当の話)
思い出した理由は、彼の恋人であるルイーズ様が我が家に来られたからだ。
と言っても彼女が家の中に入ろうとしたら、ドアが突然閉まり開かなくなってしまった。
だから彼女は玄関の前で
「何!このボロ屋は?」
と言って家の中まで聞こえる大きな声で叫んでいた。
リイナが対応していたので、わたしは自分の部屋の窓から彼女の姿をこっそり見ていたが、わたしと違い大人で(旦那様と同じ歳なので当たり前)。
色っぽくて(お胸が特にお尻もボンっと!)
とてもお化粧がお上手で(少し濃い気がするのだけど)
わたしとは正反対の女性だった。
思わずわたしは、鏡に自分の姿を映して、少し小さめのお胸を見て、
(うん、まだ成長段階だから大丈夫!)
と、自分を励ました。
『アイリスはとっても可愛いからあんな女に負けないわ』
ラファもわたしを慰めてくれた。
ふと思ったのだが
『ラファがあの人を家に入れないように扉を開かなくしたの?』
『あの人嫌い。黒いの』
『黒い?』
『そう、周りが黒いの。黒いは悪い人、意地悪な人、強欲な人』
『では旦那様の彼女さんは……』
わたしはそこで言うのをやめた。
だってそばにはセルマ君がいるんだもん。
セルマ君のお父様でもある旦那様の悪口は言ってはいけないもの。
わたしはこのまま彼女さんという嵐が過ぎ去るのを静かに待った。
リイナには気の毒だけど、わたしが彼女の前に顔を出せば嵐は大嵐になりそうなので、わたしは沈黙することにしてセルマ君におやつを食べさせていた。
「まま、おいしいね」
セルマ君はミナの作るクッキーが大好き。
わたしもたまに作るのだが、薬師のわたしはハーブを入れたり野菜を入れたりするので、セルマ君的には微妙らしい。
大人の私たちにとっては紅茶に合うし、美味しいのだけど。
子供用のクッキーはミナにお任せ。
うん、人には向き不向きがある。
ラファと三人で仲良く過ごしていると
「出てきなさいよ!」
また外から声が聞こえてきた。
『出なくていいよ、あの黒いの。相手にしては駄目よ』
『でも、リイナ達が大変だわ』
ラファにセルマ君のそばにいて貰うように頼んで下へ降りた。
扉の前にはリイナとミナが困り果てて立っていた。
「わたしが対応するしかないかしら?」
わたしの言葉に二人は思いっきり横に首を振った。
「駄目です!」
「あんなの相手にしてはいけません」
「でも旦那様の恋人でしょう?わたしにお話があるのなら会わなくて帰っても、また次も来ると思うの」
「……それでも駄目です。あの人は異常です」
ミナは猛反対をした。
わたしだって本当は怖い。
何を言われるかわからないし、でも、このまま知らん顔もできない。
だってわたしはここの家の主なんだもの。
みんなを守るのはわたしなの。
セルマ君の継母でもあるのだから。
しっかりしなくっちゃ。
わたしは震える手で扉を開けた。
「やっと開けたわね。貴女がロバートの奥さんかしら?」
「……えっ?ロバート…あ!はい。そんな名前でしたね、旦那様の名前」
わたしは旦那様の名前すら忘れていた。
だって旦那様は旦那様なんだもの。
「はあ?貴女わたしを馬鹿にしているの?」
「そんなことありません、だってわたし貴女のこと知らないので馬鹿にすらできません」
わたしが大真面目に答えると
「ふざけないで。わたしのロバートを返して!貴女なんかと結婚した所為であの人は今大変なのよ」
「え?わたしの所為?わたしは旦那様とお会いしたことはほとんどありませんけど?」
「あんた、惚けるのもいい加減にして!あんたなんかと結婚したからロバートは今必死で寝る間も惜しんでいるって言うのに!あーー!イライラする!」
ルイーズ様はそう言うと、わたしの腕を掴み右手でわたしの頬を平手打ちした。
そしてわたしを押し倒してヒールの尖った踵で思いっきり、わたしのお腹を蹴り上げた。
「い、痛いです」
「当たり前でしょう!」
わたしを睨みあげるルイーズ様。
リイナとミナが慌ててわたしに駆け寄った。
「あんた達邪魔なのよ!」
二人を蹴ろうとしたのでわたしは急いで二人の上に覆い被さって守った。
さらに蹴られて、とっても痛い。
『アイリス!黒いの!やっつける!殺してやるわ!』
『駄目!わたしは平気だから傷つけないで!お願い』
ラファは怒ってルイーズ様に向かって攻撃しようとしていた。
精霊の怒りは、この大地にも影響を与える。
周りの木々や草花が揺れて異様な音を立てている。
『駄目!お願い!やめて!』
ルイーズ様は、興奮してわたしを何度も蹴っていた。
わたしの下にいる二人は
「アイリス様お願いです、私たちは大丈夫ですから!」
と泣きながら叫んでいる。
わたしは二人を必死でギュッと抱きしめて動かない。
わたしは痛みとラファを止めるのに必死でルイーズ様の蹴りなんてもうなんとも感じていなかった。
『ラファ、お願い。怒る前にルイーズ様をちょっと木の上にでも置いてきてくれないかしら?』
わたしはなんとかラファの気持ちを殺す方ではなく違う方に向けてみた。
『木の上?』
『ええ、殺さなくても木の上ならルイーズ様は怖がって震えると思うの』
『分かったわ』
ラファは怖い笑顔で指を「パチン!」と鳴らした。
するとルイーズ様はいなくなり、家から離れたどこかの木の上に移動した。
わたしはホッとした。
『ラファ、助けてくれてありがとう』
『アイリスの背中、痛い?すぐにわたしが治してあげる』
ラファはそう言うとわたしの背中をそっと撫でてくれた。
不思議な感覚。
痛みがスーッとなくなってきた。
『わたしの今の力ではここまでしか治せない。ごめんねアイリス、まだわたしには癒しの力が少ししかないの』
悲しそうにラファがしていた。
『ラファ、ありがとう。とても楽になったわ』
リイナとミナがぐったりしたわたしを泣きながら立たせてくれた。
「家の中に入りましょう」
「早く傷の手当てをしないと」
「二人とも大丈夫。ラファが少し手当てをしてくれたのよ、痛みは随分減って楽になったの」
だって結婚式の日以来、お会いしていないのだ。
顔すらまともに覚えていない。
(これ本当の話)
思い出した理由は、彼の恋人であるルイーズ様が我が家に来られたからだ。
と言っても彼女が家の中に入ろうとしたら、ドアが突然閉まり開かなくなってしまった。
だから彼女は玄関の前で
「何!このボロ屋は?」
と言って家の中まで聞こえる大きな声で叫んでいた。
リイナが対応していたので、わたしは自分の部屋の窓から彼女の姿をこっそり見ていたが、わたしと違い大人で(旦那様と同じ歳なので当たり前)。
色っぽくて(お胸が特にお尻もボンっと!)
とてもお化粧がお上手で(少し濃い気がするのだけど)
わたしとは正反対の女性だった。
思わずわたしは、鏡に自分の姿を映して、少し小さめのお胸を見て、
(うん、まだ成長段階だから大丈夫!)
と、自分を励ました。
『アイリスはとっても可愛いからあんな女に負けないわ』
ラファもわたしを慰めてくれた。
ふと思ったのだが
『ラファがあの人を家に入れないように扉を開かなくしたの?』
『あの人嫌い。黒いの』
『黒い?』
『そう、周りが黒いの。黒いは悪い人、意地悪な人、強欲な人』
『では旦那様の彼女さんは……』
わたしはそこで言うのをやめた。
だってそばにはセルマ君がいるんだもん。
セルマ君のお父様でもある旦那様の悪口は言ってはいけないもの。
わたしはこのまま彼女さんという嵐が過ぎ去るのを静かに待った。
リイナには気の毒だけど、わたしが彼女の前に顔を出せば嵐は大嵐になりそうなので、わたしは沈黙することにしてセルマ君におやつを食べさせていた。
「まま、おいしいね」
セルマ君はミナの作るクッキーが大好き。
わたしもたまに作るのだが、薬師のわたしはハーブを入れたり野菜を入れたりするので、セルマ君的には微妙らしい。
大人の私たちにとっては紅茶に合うし、美味しいのだけど。
子供用のクッキーはミナにお任せ。
うん、人には向き不向きがある。
ラファと三人で仲良く過ごしていると
「出てきなさいよ!」
また外から声が聞こえてきた。
『出なくていいよ、あの黒いの。相手にしては駄目よ』
『でも、リイナ達が大変だわ』
ラファにセルマ君のそばにいて貰うように頼んで下へ降りた。
扉の前にはリイナとミナが困り果てて立っていた。
「わたしが対応するしかないかしら?」
わたしの言葉に二人は思いっきり横に首を振った。
「駄目です!」
「あんなの相手にしてはいけません」
「でも旦那様の恋人でしょう?わたしにお話があるのなら会わなくて帰っても、また次も来ると思うの」
「……それでも駄目です。あの人は異常です」
ミナは猛反対をした。
わたしだって本当は怖い。
何を言われるかわからないし、でも、このまま知らん顔もできない。
だってわたしはここの家の主なんだもの。
みんなを守るのはわたしなの。
セルマ君の継母でもあるのだから。
しっかりしなくっちゃ。
わたしは震える手で扉を開けた。
「やっと開けたわね。貴女がロバートの奥さんかしら?」
「……えっ?ロバート…あ!はい。そんな名前でしたね、旦那様の名前」
わたしは旦那様の名前すら忘れていた。
だって旦那様は旦那様なんだもの。
「はあ?貴女わたしを馬鹿にしているの?」
「そんなことありません、だってわたし貴女のこと知らないので馬鹿にすらできません」
わたしが大真面目に答えると
「ふざけないで。わたしのロバートを返して!貴女なんかと結婚した所為であの人は今大変なのよ」
「え?わたしの所為?わたしは旦那様とお会いしたことはほとんどありませんけど?」
「あんた、惚けるのもいい加減にして!あんたなんかと結婚したからロバートは今必死で寝る間も惜しんでいるって言うのに!あーー!イライラする!」
ルイーズ様はそう言うと、わたしの腕を掴み右手でわたしの頬を平手打ちした。
そしてわたしを押し倒してヒールの尖った踵で思いっきり、わたしのお腹を蹴り上げた。
「い、痛いです」
「当たり前でしょう!」
わたしを睨みあげるルイーズ様。
リイナとミナが慌ててわたしに駆け寄った。
「あんた達邪魔なのよ!」
二人を蹴ろうとしたのでわたしは急いで二人の上に覆い被さって守った。
さらに蹴られて、とっても痛い。
『アイリス!黒いの!やっつける!殺してやるわ!』
『駄目!わたしは平気だから傷つけないで!お願い』
ラファは怒ってルイーズ様に向かって攻撃しようとしていた。
精霊の怒りは、この大地にも影響を与える。
周りの木々や草花が揺れて異様な音を立てている。
『駄目!お願い!やめて!』
ルイーズ様は、興奮してわたしを何度も蹴っていた。
わたしの下にいる二人は
「アイリス様お願いです、私たちは大丈夫ですから!」
と泣きながら叫んでいる。
わたしは二人を必死でギュッと抱きしめて動かない。
わたしは痛みとラファを止めるのに必死でルイーズ様の蹴りなんてもうなんとも感じていなかった。
『ラファ、お願い。怒る前にルイーズ様をちょっと木の上にでも置いてきてくれないかしら?』
わたしはなんとかラファの気持ちを殺す方ではなく違う方に向けてみた。
『木の上?』
『ええ、殺さなくても木の上ならルイーズ様は怖がって震えると思うの』
『分かったわ』
ラファは怖い笑顔で指を「パチン!」と鳴らした。
するとルイーズ様はいなくなり、家から離れたどこかの木の上に移動した。
わたしはホッとした。
『ラファ、助けてくれてありがとう』
『アイリスの背中、痛い?すぐにわたしが治してあげる』
ラファはそう言うとわたしの背中をそっと撫でてくれた。
不思議な感覚。
痛みがスーッとなくなってきた。
『わたしの今の力ではここまでしか治せない。ごめんねアイリス、まだわたしには癒しの力が少ししかないの』
悲しそうにラファがしていた。
『ラファ、ありがとう。とても楽になったわ』
リイナとミナがぐったりしたわたしを泣きながら立たせてくれた。
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