【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

文字の大きさ
122 / 156
嫌です。別れません

29話

しおりを挟む
 目覚めてから半年。

 今は穏やかな時間が過ぎている。

 ただ、あんなに元気だったはずの魔女さんが時おり『疲れた疲れた』と言って身体を休めることが増えた。

 御年300年を超えている魔女さんはわたしに寿命を与えてしまったので『あたしの人生もあと僅かだ』と言い出した。

「魔女さん、わたしのせいでごめんなさい」

 何度も謝った。でも謝って済むことではない。彼女の命を奪ったのだから。

 そしてこの辛い思いをリオはずっとしてきたのだと思うと、短絡的にしか考えていなかったわたしはなんて酷い人なんだと今更ながらに感じてしまう。

「マナ、あたしゃ長生きし過ぎたんだ。こんな体調だけどあたしの寿命はあんた達が死ぬ時と同じくらいさ。ちょうどいいくらいあんた達と笑い合いながら生きていって、あんた達と同じくらいに死ねる。
 やっと寂しいお別れをしなくて済むんだ。
 あたしゃ幸せだよ」

 普段素直じゃない魔女さんがポロッと本音を言ってくれた。

 どんなに長生きしても幸せではなかったのかもしれない。仲の良い人たちがどんどん先に死んでしまうのを見続けてきた魔女さんの寂しさや孤独に触れた気がした。

「ふふっ、じゃあ、魔女さん。わたしの癒しの力で魔女さんの体調を見守りつつ一緒にあともうしばらく長生きして一緒に死にましょうね?」

 わたしが笑いながらそう言うと、魔女さんも笑いながら言った。

「あたしの名前はソフィアだよ」

「ソフィア様………素敵なお名前ですね?これからはそう呼んでも?」

「やめておくれ。その名前で呼ばれていたのはずっとずっと大昔、あたしの夫や両親、家族たちさ。今はもう忘れられた名前だ。ただ覚えて欲しかったんだ。あたしの名前をこの世で一人だけでも知って欲しかったんだ」

「じゃあわたしは魔女さんにそのたった一人として選んでいただいたんですね?」

「あんたはあたしにとって娘でもあり友でもあり、そして楽しませてくれる人物だからね」
 魔女さんは顔を顰めた。
 やっぱり調子が悪いみたい。
 いつもの笑顔はなく、疲れて見える。
 あの元気な笑い声は消えてしまっていた。

 そんな魔女さんの手を握り、ほんの僅かな癒しの力を少しずつ魔女さんに流して行く。

「マナ?」

 心配したリオが仕事を早めに終わらせ帰ってきた。

「お帰りなさい」

「マナは夕食は?」

「あ………」

「忘れていたでしょう?メイド達が心配してるよ?」

「ごめんなさい」

 魔女さんの寝息が聞こえてきた。

 わたしは毛布をそっと掛け直して部屋を出た。



 食堂に二人で歩いて行く。

「魔女さんは?」

「あまりよくはなさそう。わたしのために……色々してくださったから」

 わたしは言葉を濁しながらリオにそう伝えた。

 わたしはリオのために。魔女さんはわたしのために。お互いがお互いを思い遣ってその結果が今。

「魔女さんは僕のずっとずっと昔の……血の繋がった祖母なんだ」

「あ……魔女さんは昔王妃だったと言ってたわ」

「うん、そして夫であるその当時の国王を守るため呪いを受けて、魔女にされてしまったんだって。ずっといつか死ねる日をと待っていたみたい」

 わたしは黙ってリオの話を聞いた。

 魔女さんは昔の話をわたしにはあまりしなかった。リオは祖先になるからなのか話を聞いたらしい。

 一人生き続けることの辛さは、魔女さんにしかわからないけど、長く、孤独で、気が狂いそうなほど辛かったのだと想像できた。

 魔女さんは床にふせりながらも、わたし達と笑い合い共に生きて、生をまっとうし共に終わらせようとしている。

 魔女さんの顔に安堵している表情が見てとれた。





しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

処理中です...