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49話
ネージュ様はまだ意識を取り戻さなかった。
ベッド脇に椅子を置き、ただずっとネージュ様の眠る姿を見つめているしか出来ない。
外が暗くなっているのに気がついたのはマシューが病室に入ってきたからだった。
「ルシナ、一度屋敷に帰ろう。リュシアンも待ってるよ」
「ええ、わかってるわ。だけど……」
ネージュ様は私とリュシアンを助けようとして代わりに怪我をして……
そう思うと病室から立ち去ることができない。もしかしたらこのまま意識が戻らないのでは……
いつもムスッとして笑顔を見せるのが苦手なひと。うまく気持ちを伝えられない不器用なひと。
何度も悲しい思いや悔しい思いをさせられたし、もう無理だと…大っ嫌いだと思った。離縁したことも後悔はしていない。
だけど、人としては本気で嫌いにはなれないでいた。
ネージュ様が私を庇い怪我をしてそのあと自分も倒れて……目覚めてからの私はぼんやりながらルシナとしての記憶を、意思を取り戻し始めた。
そして日記でしか知らなかった記憶が、ルシナとしての感情が、全てパズルのように当てはまり……自分を取り戻した。
大切なリュシアンとの思い出を忘れてしまうところだった。
妃殿下が私を嫌い、命まで奪おうとしたことはとてもショックだった。
学生の頃から友人が少なく一人で過ごすことが多かった私にとって妃殿下は優しく声をかけてくださった優しいお方だった。
妃殿下と肩を並べ勉強ができることが誇らしく、私も必死で勉強を頑張った。頑張ればいつかお父様も私を認めてくれるかもしれないと思った。
ネージュ様と結婚したあとも、伯爵家と侯爵家の共同で行った事業を頑張ったのも成果を出せば私をみてくださるかもしれないと思ったから。
でも、ルシナの記憶をなくしたあと、前世の記憶しかないわたしがお父様に会いに行って、やっぱり私はお父様に必要とされていないのだと再確認することになっただけだった。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
「遅くなってごめんなさい、ありがとう」
「お疲れのようだったので早めに就寝しました」
リュシアンの世話をしてくれたメイドにお礼を言ってリュシアンの眠るベッドへ行くと、スヤスヤと眠る愛らしいリュシアンの姿があった。
怖い思いをさせてしまい、そばに居てあげなかったことを今更ながら後悔していた。
私達を庇ってくれたネージュ様のことが心配ではあったけど、リュシアンを公爵家に預けっぱなしで…母親なのに……と自分のことを責めてしまう。
記憶を取り戻してからまだ混乱する頭の中で、一番大切なのはやはりリュシアンなんだとこの子の顔を見てつくづく感じた。
「忘れていてごめんなさい」
リュシアンの髪に頬に優しく触れた。
私の大切なリュシアン。
あなたを守ると誓ったのに、怖い思いをさせてしまった。
寝顔をしばらく見てから伯父様のところへ顔を出すことにした。
執事に伯父様は今どこにいるのか訊くと「旦那様がお待ちしております」と言われた。
伯父様も私と話をしようと待っていてくださったようだ。
伯父様の執務室を訪ねるとマシューと二人待っていてくれた。
「リュシアンはぐっすり眠っていただろう?」
マシューがにこりと微笑んだ。
「ええ、私の天使はとても幸せそうに眠っていたわ」
「うん?ルシナ……記憶が戻ったのか?」
『私の天使』この言葉は私がよく使っていた言葉。前世の記憶しかないわたしの時はその言葉は覚えていないので使うことはなかった。
マシューはすぐに気がついてくれたようだ。
「完全とは言えないけど、ほぼ。ご迷惑と心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「そうか、良かったな」
伯父様の言葉とは反対にマシューは。
「ルシナにとって良かったのか……忘れてしまいたい嫌な思い出も多かったのではないのかい?」
「ううん、大切なリュシアンとの思い出を忘れてしまっていたことのほうが辛い。生まれてきてくれた日のことやこれまでの日々、私にとって、とてもかけがえのない時間だったので思いだせて良かった」
マシューは「そうか」と苦笑した。
「王太子殿下にお願いしているのですが妃殿下に会おうと思っています。マシュー、良かったら一緒に行ってくれないかしら?一人では何かあるかもしないと心配されて駄目だと殿下に断られて、マシューについてきてもらうと思わず言ってしまったの」
二人は顔を顰めた。
「君は命を狙われたことを忘れたのかい?」
「そうだよ、離縁の原因だって、治験薬を使ったのだって、全て妃殿下が原因だ。いくら牢に入れられたとはいえ何を言われるかわからないし、またこちらでは考えられないような行動をとるかもしれない。護衛がいても咄嗟の時には反応が遅れて手遅れになることだってあるんだ」
「でも……このまま会わなければ後悔すると思うんです。どうしても会いたいんです」
「…………ハァー……わかったよ……だけど、護衛はしっかりつけるからね?俺は剣の腕は大したことないし、俺だけでは守りきれないから、そして妃殿下をあまり挑発するようなことは言っては駄目だよ?」
「前世のわたしは……結構ハッキリと言葉を言われていたみたいですね?(忘れてはいないけど)……今の私は、この世界で生きてきたのでわかっているつもりです。ご心配をかけないようにします」
「父上、ルシナに付き添ってあげてもいいでしょう?」
「わかった、でも気をつけるんだぞ。いくら牢に入れられても安全だとは言えないからな」
伯父様も本心はやめておいたほうがいいと思っているのだろう。それでもお会いすることを反対しないでくれたことに感謝した。
こうして二人になんとか許可を得ることができた。
ベッド脇に椅子を置き、ただずっとネージュ様の眠る姿を見つめているしか出来ない。
外が暗くなっているのに気がついたのはマシューが病室に入ってきたからだった。
「ルシナ、一度屋敷に帰ろう。リュシアンも待ってるよ」
「ええ、わかってるわ。だけど……」
ネージュ様は私とリュシアンを助けようとして代わりに怪我をして……
そう思うと病室から立ち去ることができない。もしかしたらこのまま意識が戻らないのでは……
いつもムスッとして笑顔を見せるのが苦手なひと。うまく気持ちを伝えられない不器用なひと。
何度も悲しい思いや悔しい思いをさせられたし、もう無理だと…大っ嫌いだと思った。離縁したことも後悔はしていない。
だけど、人としては本気で嫌いにはなれないでいた。
ネージュ様が私を庇い怪我をしてそのあと自分も倒れて……目覚めてからの私はぼんやりながらルシナとしての記憶を、意思を取り戻し始めた。
そして日記でしか知らなかった記憶が、ルシナとしての感情が、全てパズルのように当てはまり……自分を取り戻した。
大切なリュシアンとの思い出を忘れてしまうところだった。
妃殿下が私を嫌い、命まで奪おうとしたことはとてもショックだった。
学生の頃から友人が少なく一人で過ごすことが多かった私にとって妃殿下は優しく声をかけてくださった優しいお方だった。
妃殿下と肩を並べ勉強ができることが誇らしく、私も必死で勉強を頑張った。頑張ればいつかお父様も私を認めてくれるかもしれないと思った。
ネージュ様と結婚したあとも、伯爵家と侯爵家の共同で行った事業を頑張ったのも成果を出せば私をみてくださるかもしれないと思ったから。
でも、ルシナの記憶をなくしたあと、前世の記憶しかないわたしがお父様に会いに行って、やっぱり私はお父様に必要とされていないのだと再確認することになっただけだった。
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「遅くなってごめんなさい、ありがとう」
「お疲れのようだったので早めに就寝しました」
リュシアンの世話をしてくれたメイドにお礼を言ってリュシアンの眠るベッドへ行くと、スヤスヤと眠る愛らしいリュシアンの姿があった。
怖い思いをさせてしまい、そばに居てあげなかったことを今更ながら後悔していた。
私達を庇ってくれたネージュ様のことが心配ではあったけど、リュシアンを公爵家に預けっぱなしで…母親なのに……と自分のことを責めてしまう。
記憶を取り戻してからまだ混乱する頭の中で、一番大切なのはやはりリュシアンなんだとこの子の顔を見てつくづく感じた。
「忘れていてごめんなさい」
リュシアンの髪に頬に優しく触れた。
私の大切なリュシアン。
あなたを守ると誓ったのに、怖い思いをさせてしまった。
寝顔をしばらく見てから伯父様のところへ顔を出すことにした。
執事に伯父様は今どこにいるのか訊くと「旦那様がお待ちしております」と言われた。
伯父様も私と話をしようと待っていてくださったようだ。
伯父様の執務室を訪ねるとマシューと二人待っていてくれた。
「リュシアンはぐっすり眠っていただろう?」
マシューがにこりと微笑んだ。
「ええ、私の天使はとても幸せそうに眠っていたわ」
「うん?ルシナ……記憶が戻ったのか?」
『私の天使』この言葉は私がよく使っていた言葉。前世の記憶しかないわたしの時はその言葉は覚えていないので使うことはなかった。
マシューはすぐに気がついてくれたようだ。
「完全とは言えないけど、ほぼ。ご迷惑と心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「そうか、良かったな」
伯父様の言葉とは反対にマシューは。
「ルシナにとって良かったのか……忘れてしまいたい嫌な思い出も多かったのではないのかい?」
「ううん、大切なリュシアンとの思い出を忘れてしまっていたことのほうが辛い。生まれてきてくれた日のことやこれまでの日々、私にとって、とてもかけがえのない時間だったので思いだせて良かった」
マシューは「そうか」と苦笑した。
「王太子殿下にお願いしているのですが妃殿下に会おうと思っています。マシュー、良かったら一緒に行ってくれないかしら?一人では何かあるかもしないと心配されて駄目だと殿下に断られて、マシューについてきてもらうと思わず言ってしまったの」
二人は顔を顰めた。
「君は命を狙われたことを忘れたのかい?」
「そうだよ、離縁の原因だって、治験薬を使ったのだって、全て妃殿下が原因だ。いくら牢に入れられたとはいえ何を言われるかわからないし、またこちらでは考えられないような行動をとるかもしれない。護衛がいても咄嗟の時には反応が遅れて手遅れになることだってあるんだ」
「でも……このまま会わなければ後悔すると思うんです。どうしても会いたいんです」
「…………ハァー……わかったよ……だけど、護衛はしっかりつけるからね?俺は剣の腕は大したことないし、俺だけでは守りきれないから、そして妃殿下をあまり挑発するようなことは言っては駄目だよ?」
「前世のわたしは……結構ハッキリと言葉を言われていたみたいですね?(忘れてはいないけど)……今の私は、この世界で生きてきたのでわかっているつもりです。ご心配をかけないようにします」
「父上、ルシナに付き添ってあげてもいいでしょう?」
「わかった、でも気をつけるんだぞ。いくら牢に入れられても安全だとは言えないからな」
伯父様も本心はやめておいたほうがいいと思っているのだろう。それでもお会いすることを反対しないでくれたことに感謝した。
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