【完結】戦争から帰ってきた夫が連れてきたのは彼が愛する人の子供だった。

たろ

文字の大きさ
50 / 73

50話

 それからの数日はリュシアンと静かに屋敷で過ごした。

 ネージュ様のお見舞いには一度だけ行ったけど、私はもう彼の妻ではない。
 ずっとそばについている訳にもいかず一度だけリュシアンを連れてお見舞いへ行った。
 その時に久しぶりにセバスチャンと病室で出会った。
 伯爵家の使用人やメイド達が度々お世話に来ていると聞いて安心した。

 皆変わらず元気に伯爵家で働いているとのこと。あの幸せだった時間に戻ることはもうないと思うとふと寂しさを感じた。

 義母ももうすぐ王都へ戻ってくるらしい。二人の関係がこれからどうなるのかわからないけど、少しでも改善されることを願うしかない。

 母のように慕っていたお義母様にももう気軽に会えないことがとても辛い。でも命の危険にあわせてしまった私に会いたいとは思ってはもらえないだろう。

 リュシアンの笑顔を見るとお義母様にもリュシアンにも申し訳なさが募る。

 リュシアンはお見舞いに行った時、病室に入ると静かに眠るネージュのそばに行きそっと彼の手に触れた。その小さな手を私は静かに見守るしかなかった。

「おじさん………」
 リュシアンに『お父様』と呼ばせてあげていない自分に罪悪感が募る。

 ネージュ様に会うとこんなにいろんな申し訳なさを感じるなんて………


 ネージュ様はまだ意識を取り戻さない。かなりの出血で危険な状態だったけど、なんとか乗り越え、今は安定してきているところだ。

 あとは意識を取り戻し傷が治れば……だけど騎士として復帰できるのか……

 彼は騎士としての誇りを持って生きてきた。そんな彼の大切な誇りをもしかしたら失わせるかもしれない。

 どうして庇ってくれたの?感謝してもしきれないくらいなのに、ついそんなことを考えてしまう。

 公爵家で過ごす優しい時間も今は苦痛で、幸せであること罪悪感となり重くのしかかる。



 お昼寝前に。

 リュシアンが絨毯の上で絵本を見ているのを一緒に隣で「これは?」「くまさんとおんなのこのおはなし!」「ふふっ、楽しいお話ね」と話しながら読んでいた。

 扉をノックして
「はい?」と答えると「失礼するよ」と入ってきたのはマシューだった。

「殿下から手紙が届いたよ」

 まだ封を開けていない手紙。

 受け取り、手紙の中を確認するとやはり妃殿下との対面についての日程と時間が指示されていた。

「マシュー、突然だけど明後日に妃殿下に会えるらしいの。時間は大丈夫?」

「明後日か…うん、都合はつけられるから気にしなくていいよ、最近はルシナが新しい商品を出していないし、商会の方はゆっくりしているしね。公爵家の仕事は父上がまだ現役だから俺が抜けても大丈夫だ」

「ご迷惑をかけてごめんなさい。よろしくお願いします」

「彼女は幼い頃から殿下に嫁ぐためだけに生きてきた人だ。そんな彼女が落ちるところまで堕ちてしまった。
 何を仕出かすかわからない。用心に越したことはないと思ってる」

「わかってる。それでも会えるチャンスがあるのならぜひ会いたいの」




 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎


 マシューと二人登城してネージュ様のお見舞いをしてから殿下の待つ客間へと通された。


「ネージュはまだ意識が戻らないようだな」

「はい、先程顔を出しに行きましたが、目を開けません。あの事件からもう一週間過ぎたのに……」

「あいつは昔っからのんびりしているところがあるから待っててやってくれ」

 殿下とネージュ様は幼馴染みでよく遊んでいたそうだ。戦争が終わってからは殿下はそんなネージュ様を護衛騎士としてそばに置き、重宝していた。

 私なんかより殿下の方がネージュ様の心配をしていることだろう。それも妃殿下が原因だし。

 流石に今回の事件はたくさんの人の前で起きてしまい、隠すことはできなかった。

 妃殿下の話は、今では貴族だけではなく平民にまで伝わってしまい、甘い処分では済まされないだろうと噂されている。

 殿下は少し疲れ気味なのかクマが目立つし顔色も悪い。

 思わずじっと見つめてしまっていたのか「そんなに僕の顔を見てどうしたのかな?」と苦笑された。

「も、申し訳ありません」

 焦ってお詫びを言うと「色々あるから疲れててね」とため息をつかれた。

「………」

 ここで、なんと答えるべきなのか……

「殿下、お疲れでしょうが早めに対面を終わらせましょう」

 マシューはこんな空気の中、わざと急かすように話をやめさせた。

「そうだね、嫌なことは早く終わらせるべきだ」

 そう言うと椅子から立ち上がり扉へ向かった。




 高位貴族が入るために用意された牢は広い個室になっていて、牢とは思えない場所だった。

 檻がなければ牢だとは思えないそんな場所で妃殿下は優雅に過ごしていた。

 ただ、侍女などはついていないようだった。退屈していた妃殿下は……


「貴方……それに、マティアス・エヴァリア小公爵……」

 妃殿下は私の姿を無視するかのように二人に笑顔を向けた。




感想 295

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
【 お知らせ 】 先日、近況ボードにも お知らせしました通り 2026年4月に 完結済みのお話の多数を 一旦closeいたします。 誤字脱字などを修正して 再掲載をするつもりですが 再掲載しない作品もあります。 再掲載の時期は決まっておりません。 表現の変更などもあり得ます。 他の作品も同様です。 ご了承いただけますようお願いいたします。 ユユ 【 お話の内容紹介 】 辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。