63 / 73
62話
しおりを挟む
「ルシナ、仕事は捗っているかい?少しお茶でもして休憩しよう」
マシューは求婚してからというもの返事はゆっくりでもいいと言いつつ、何かと用事もないのに会いにくる。
リュシアンももちろんマシューには懐いているので「おじちゃま!あそぼっ!」とすぐに引っ付いて離れない。
商会の仕事に小公爵としての仕事、本当は寝る時間さえ取れないくらい忙しいはずなのに、私達のために時間を作ってくれる。
リュシアンに対しても悪いことをしたりわがままを言っても怒るわけではなく、わかるように諭してくれる。
もしこんな優しい人がリュシアンの父親なら……リュシアンも幸せになれる?
でもそれはマシューを利用しようとしているだけ、そんな狡いことを考えること自体なんて酷いことなんだろう。
マシューに対して失礼だわ。
でも結局すぐに答えは出なかった。
多分、マシューに対して恋愛的な感情なのかはわからないけど、とても尊敬しているし頼りにしているし、とても大切な人であることは変わらない。
だからこそ失いたくない。
私を助けにきてくれたネージュ様とはあれから会っていない。
助けてもらったことに感謝はしているし何かしらお礼をしたいとは思っているのだけどなかなか会うことは難しい。
一度離縁した私たちが会うことは醜聞になるし、今は特に色々と問題ばかり起こしてしまっている私は社交界でも噂が尽きない。
評判が悪いというより、私への同情的な面が多いけど、離縁したネージュ様が私を庇って刺されたり、今回も助けにこられたりと十分な話題を提供してしまっているので、今は静かに過ごしたい。
伯父様たちが話を聞きたくてうずうずしている貴族たちを上手く躱してくれているけど、表立って会うことも出来ないし、公爵家に招くのは居候の身としてもあまり良くないし、マシューが求婚してくれていることもあり会うのは難しい。
一応お礼状は書いて送ったのでこのまま時が過ぎてしまうのかもしれない。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
やっと生活も落ち着いて今は仕事と子育てにと忙しい日々を過ごしていた。
「ルシナ、今度新しくオープンしたカフェに行かないか?うちが出資してオープンした店なんだ。君が提案してくれたハーブティーやそれに合うお菓子も出しているし、他国から仕入れたコーヒーも出す予定なんだ」
「コーヒー?この国では紅茶がメインだから受け入れられるかしら?」
「俺は外国へ行くことも多いからコーヒーは飲む機会が多いんだ。コーヒーの生豆を輸入して売り出すつもりだ。焙煎する焙煎士も数人他国から雇ったんだ。これから何店舗も展開するつもりさ」
「嬉しい。コーヒーが飲めるなんて!」
仕事で街に出店している自分の店へ出かけることはあってものんびりと街を出歩くことはなかった。
今回のお出かけは公爵家の護衛騎士数名とメイドが付き添う大掛かりなお出掛けになってしまうので今回はリュシアンにはお留守番をしてもらう事になった。その代わり、大好きなクッキーをたくさん買ってくる約束になっている。
一人減っても護衛は見えないところにたくさん配置されていた。マシューと馬車を降り二人で街を散策して回った。
この世界に生まれてきてからの私は侯爵家に縛られ、伯爵家を女の腕一つで支えるため自由な時間なんてあまり取れなかった。
同じ場所に自分のお店があるのにこんなに街のことを知らないとは自分でも思っていなかった。
賑わい活気のある商店は平民たちがたくさん行き交う。そこから少し離れた場所には高級な店構えの一等地があり大きな馬車が乗り入れられるように道の真ん中に馬車用の道があり両脇に人が歩ける煉瓦造りの歩道がある。
街灯の一つ一つも手が混んでいて美しい街並みに思わずため息が溢れる。
優雅に歩く貴婦人や澄まし顔で歩く子どもたちもこの街にあっていて、まるで映画の世界に入り込んでいる感覚に陥る。
私のお店はこの全く違う二つの店たちの間にある、平民も貴族も立ち寄る場所の一角にある。
マシューが出店したカフェは富裕層の貴族たちをターゲットにした、高級なカフェで、店構えもお店の中もとても手が混んでいて洗練されたお店になっていた。
予約制でマシューの顔を見た店員は慌てることなく優雅に個室の席に案内してくれた。
広めの個室からバルコニーに出ることも出来てバルコニーから続く庭には色とりどりの綺麗な花たちが咲き、目を楽しませてくれた。
コーヒー豆の焙煎をする人はもちろんコーヒーを淹れる職人も雇っていて、前世で飲んでいた安価なコーヒーとは全く違い驚くほど美味しい。
コーヒーに合わせたケーキや菓子も他国から職人を招き入れこだわっていた。
「マシュー、このお店の空間は異国のようね?」
「気に入ってくれた?」
「ええ。とっても。ここのコーヒーはクセになりそう。毎日飲みたくなるわ」
「屋敷に帰っても飲めるように、豆は量り売りしているんだ。コーヒーを淹れるための器具も販売しているんだ」
「あら?このコーヒーは素人が淹れるには難しいんじゃないかしら?」
「コーヒーを淹れるのは屋敷の使用人だから、それなりに出来るんじゃない?」
「ねえ、仕事としてコーヒー器具を買った人に淹れ方の教室を開いては?」
「教室?」
眉根を寄せて意味がわからないという顔をしたマシュー。
「ここで飲んだコーヒーに近い味のコーヒーを淹れられれば使用人たちも主人たちに叱られないし喜ばれるわ。
コーヒーの淹れ方を教えてある程度の知識と技術を得た人に資格証を渡せば、その資格を得た人は仕事として屋敷で働かせてもらえるし、コーヒーが美味しければ売れ行きも良くなる。教室を開けば授業料ももらえるし、悪くないと思うわ」
「うーん、確かに素人がコーヒーを淹れても美味しくはないか……少し考えてみるよ」
「ふふっ。絶対上手くいくわ。こんな美味しいコーヒーなら毎日飲みたいと思ってしまうもの」
カフェで過ごす時間はゆったりとしていたはずなのに、二人でつい話すのは商売の話になって、「ルシナといると甘い時間にならないな」と苦笑された。
だけど私はマシューとこんな時間を過ごすのもとても楽しくて。
店を出て私の出店している通りを歩いている時に、ソフィアに会わなければ楽しい時間で終わっていただろう。
「………ソフィア?」
マシューと二人並んで歩いていた時、まだ小さなソフィアはどこかの婦人に泣きじゃくっているのに無理やり引っ張られながら歩いていた。
マシューは求婚してからというもの返事はゆっくりでもいいと言いつつ、何かと用事もないのに会いにくる。
リュシアンももちろんマシューには懐いているので「おじちゃま!あそぼっ!」とすぐに引っ付いて離れない。
商会の仕事に小公爵としての仕事、本当は寝る時間さえ取れないくらい忙しいはずなのに、私達のために時間を作ってくれる。
リュシアンに対しても悪いことをしたりわがままを言っても怒るわけではなく、わかるように諭してくれる。
もしこんな優しい人がリュシアンの父親なら……リュシアンも幸せになれる?
でもそれはマシューを利用しようとしているだけ、そんな狡いことを考えること自体なんて酷いことなんだろう。
マシューに対して失礼だわ。
でも結局すぐに答えは出なかった。
多分、マシューに対して恋愛的な感情なのかはわからないけど、とても尊敬しているし頼りにしているし、とても大切な人であることは変わらない。
だからこそ失いたくない。
私を助けにきてくれたネージュ様とはあれから会っていない。
助けてもらったことに感謝はしているし何かしらお礼をしたいとは思っているのだけどなかなか会うことは難しい。
一度離縁した私たちが会うことは醜聞になるし、今は特に色々と問題ばかり起こしてしまっている私は社交界でも噂が尽きない。
評判が悪いというより、私への同情的な面が多いけど、離縁したネージュ様が私を庇って刺されたり、今回も助けにこられたりと十分な話題を提供してしまっているので、今は静かに過ごしたい。
伯父様たちが話を聞きたくてうずうずしている貴族たちを上手く躱してくれているけど、表立って会うことも出来ないし、公爵家に招くのは居候の身としてもあまり良くないし、マシューが求婚してくれていることもあり会うのは難しい。
一応お礼状は書いて送ったのでこのまま時が過ぎてしまうのかもしれない。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
やっと生活も落ち着いて今は仕事と子育てにと忙しい日々を過ごしていた。
「ルシナ、今度新しくオープンしたカフェに行かないか?うちが出資してオープンした店なんだ。君が提案してくれたハーブティーやそれに合うお菓子も出しているし、他国から仕入れたコーヒーも出す予定なんだ」
「コーヒー?この国では紅茶がメインだから受け入れられるかしら?」
「俺は外国へ行くことも多いからコーヒーは飲む機会が多いんだ。コーヒーの生豆を輸入して売り出すつもりだ。焙煎する焙煎士も数人他国から雇ったんだ。これから何店舗も展開するつもりさ」
「嬉しい。コーヒーが飲めるなんて!」
仕事で街に出店している自分の店へ出かけることはあってものんびりと街を出歩くことはなかった。
今回のお出かけは公爵家の護衛騎士数名とメイドが付き添う大掛かりなお出掛けになってしまうので今回はリュシアンにはお留守番をしてもらう事になった。その代わり、大好きなクッキーをたくさん買ってくる約束になっている。
一人減っても護衛は見えないところにたくさん配置されていた。マシューと馬車を降り二人で街を散策して回った。
この世界に生まれてきてからの私は侯爵家に縛られ、伯爵家を女の腕一つで支えるため自由な時間なんてあまり取れなかった。
同じ場所に自分のお店があるのにこんなに街のことを知らないとは自分でも思っていなかった。
賑わい活気のある商店は平民たちがたくさん行き交う。そこから少し離れた場所には高級な店構えの一等地があり大きな馬車が乗り入れられるように道の真ん中に馬車用の道があり両脇に人が歩ける煉瓦造りの歩道がある。
街灯の一つ一つも手が混んでいて美しい街並みに思わずため息が溢れる。
優雅に歩く貴婦人や澄まし顔で歩く子どもたちもこの街にあっていて、まるで映画の世界に入り込んでいる感覚に陥る。
私のお店はこの全く違う二つの店たちの間にある、平民も貴族も立ち寄る場所の一角にある。
マシューが出店したカフェは富裕層の貴族たちをターゲットにした、高級なカフェで、店構えもお店の中もとても手が混んでいて洗練されたお店になっていた。
予約制でマシューの顔を見た店員は慌てることなく優雅に個室の席に案内してくれた。
広めの個室からバルコニーに出ることも出来てバルコニーから続く庭には色とりどりの綺麗な花たちが咲き、目を楽しませてくれた。
コーヒー豆の焙煎をする人はもちろんコーヒーを淹れる職人も雇っていて、前世で飲んでいた安価なコーヒーとは全く違い驚くほど美味しい。
コーヒーに合わせたケーキや菓子も他国から職人を招き入れこだわっていた。
「マシュー、このお店の空間は異国のようね?」
「気に入ってくれた?」
「ええ。とっても。ここのコーヒーはクセになりそう。毎日飲みたくなるわ」
「屋敷に帰っても飲めるように、豆は量り売りしているんだ。コーヒーを淹れるための器具も販売しているんだ」
「あら?このコーヒーは素人が淹れるには難しいんじゃないかしら?」
「コーヒーを淹れるのは屋敷の使用人だから、それなりに出来るんじゃない?」
「ねえ、仕事としてコーヒー器具を買った人に淹れ方の教室を開いては?」
「教室?」
眉根を寄せて意味がわからないという顔をしたマシュー。
「ここで飲んだコーヒーに近い味のコーヒーを淹れられれば使用人たちも主人たちに叱られないし喜ばれるわ。
コーヒーの淹れ方を教えてある程度の知識と技術を得た人に資格証を渡せば、その資格を得た人は仕事として屋敷で働かせてもらえるし、コーヒーが美味しければ売れ行きも良くなる。教室を開けば授業料ももらえるし、悪くないと思うわ」
「うーん、確かに素人がコーヒーを淹れても美味しくはないか……少し考えてみるよ」
「ふふっ。絶対上手くいくわ。こんな美味しいコーヒーなら毎日飲みたいと思ってしまうもの」
カフェで過ごす時間はゆったりとしていたはずなのに、二人でつい話すのは商売の話になって、「ルシナといると甘い時間にならないな」と苦笑された。
だけど私はマシューとこんな時間を過ごすのもとても楽しくて。
店を出て私の出店している通りを歩いている時に、ソフィアに会わなければ楽しい時間で終わっていただろう。
「………ソフィア?」
マシューと二人並んで歩いていた時、まだ小さなソフィアはどこかの婦人に泣きじゃくっているのに無理やり引っ張られながら歩いていた。
1,607
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる