64 / 73
63話
「………やぁっ」
腕を掴まれ痛がる小さな女の子。そんな女の子を心配するでもなく「早く歩きなさい!」と腕を掴み引き摺るように歩いている。
周囲も心配そうに気にして見てはいるけど誰も助けようとはしない。
婦人の服装はどこから見ても貴族夫人。平民では声をかけられそうもない。
「マシュー……」
私はマシューの服を掴んだ。
私の今の身分は……元伯爵夫人で元侯爵令嬢。今は、爵位もない、でも、平民でもない。
離縁した時にリュシアンは伯爵家の名を残し、いずれ爵位を継ぐこともできるようにした。そのため育ての母である私が平民になればリュシアンが困ったことになる。
でも侯爵家の名を名乗ることもしたくなかったし縁を切りたかった私は伯父様預かりの身分、後見人になってもらい貴族として名を残している。
国から身分証明書を受け取れば、公爵家預かりで、公爵家の名を名乗ることを許可されている。
そう、いつでも平民に突き落とされる身分ではあるけど、一応貴族の仲間に入れられている。だからと言って目の前の婦人にどこまで口を出せるのか……
躊躇しているとソフィアが転んでそのまま引き摺られた。
「やめて!ソフィア!」
マシューも私もソフィアに駆け寄った。
「大丈夫?」
掴まれていた婦人の手をソフィアから離した。
地面を引きずられ膝から血が出ていた。
「………あっ…………あっ、……う、うわあーーーんっ!!!」
私の顔を見るなりソフィアが地面に転んだまま泣き出した。その顔を見て胸が苦しくて思わず抱きしめた。
頭の上で「あなたは誰?勝手に他人の子供に何をしているの?警ら隊はいないの?この人を捕まえなさい!」と叫んでいた。
「あなたは子供に対して虐待に近いことをしていた。それを助けただけだ」
マシューは普段優しくて穏やかなのに、その声はとても怖かった。
「あなたは……エヴァリア小公爵…さま?」
驚いた声が聞こえてきた。
「ど、どうして私に声をかけるのかしら?私がこの子を引き取ったことはご存知でしょう?大人の言う事を聞かないこの子をただ連れて歩いていただけだわ」
動揺しながらも自分は何も悪くないと言う婦人。
「マシュー……」
ーーこの人はだれ?
「ルシナ、彼女はバーウェル子爵夫人で、ソフィアの後見人だよ」
「そう……」
私は二人が頭の上で話している間に持っていたハンカチでソフィアの膝の血を拭き、とりあえずハンカチで傷を塞ぐことにした。
ハンカチを包帯がわりに結んであげたけど血は滲んでいる。
「マシュー、うちのお店に行けば薬があるの。連れて行ってはダメ?」
マシューを見上げてお願いすると、マシューは少し困った顔をして「婦人、この子の傷の手当てをしてあげたいのですが?」と少しキツイ口調で聞いてくれた。
「…………し、仕方ないわね、ソフィアを誰か連れて行って!」
近くにいた護衛に声をかけたが、ソフィアがビクッとして震えていた。
「私が抱っこして連れて行きます。私のお店なので!」
護衛の人が悪いわけではない。でも今の状態のソフィアには大きな大人の人は怖く感じるだろう。
「ソフィア、抱っこしてもいいかしら?」
優しく声をかけると「かあさま」と小さな声で私に手を差し出した。
「な、なに?なんでこんな素直に抱っこされるの?いつも泣いてばかりで体に触れるのを嫌がるのにっ!」
「ソフィアは人懐っこい子供です。でも環境が変わってしまって戸惑っているのだと思います。まだ幼い子供です、少し時間をかけて向き合ってはいただけませんか?」
「わたくしのことをよく知りもしないでお説教などしないでちょうだい!」
「申し訳ございません。ただ、ソフィアのことを知っている者として余計なことを言ってしまいました」
私はソフィアのもう面倒を見てあげられる立場ではない。
ソフィアの本当の父であるルベルト伯は自国に連行されてその後裁判のもと処刑された。
レベッカ様ももうすぐ処刑されるらしい。
レベッカ様のお父様の辺境伯は、財産を没収され領民と共に復興をさせるため自らも体を動かし働いているそうだ。
そして罪人になった二人の子供であるソフィアを、辺境伯が引き取ることは許可されなかった。
ネージュ様も離縁して独身のためソフィアを育てることは難しい。
まぁ、彼に子育ての能力は皆無だと思うけど。あの頃だって私に押し付けていたし。
バーウェル子爵がなぜソフィアを引き取ったのか?疑問を持ちながらもここで聞くことはできなかった。
自分自身、いろいろとあり過ぎてソフィアのことにまで気は回らなかった。
ソフィアはどこかで優しい家族のもと暮らしているのだろうなんて思っていた。
お店で手当てをしてソフィアはバーウェル子爵婦人と帰って行った。
大泣きして泣き疲れたソフィアは抵抗することも嫌がることもなかった。
目覚めたらソフィアはあの婦人のもとでどんなふうに過ごすのだろう。
そう考えると胸を締め付けられる。
私にはソフィアを助ける力もないのに……
だけど………
「マシュー、王太子殿下が仰ったの。
『妻のせいで事件に巻き込んですまなかった。君に何かあった時は僕ができることだけど、一度だけ願いを聞いてあげよう』と」
「殿下へのお願いは、ソフィアのことだね?」
「うん。ソフィアを引き取りたいの」
「………苦労するよ?ソフィアは犯罪者の娘なんだ。守ることはできるのかい?」
「マシュー、私一人の力では限界があるわ。お願いします、助けてはもらえないかしら?育てるのはもちろん私一人で頑張る。ただ、ソフィアへの風当たりが強い時、助けて欲しい。こんなずるいお願いは本当はしてはいけないことはわかってる。だけど、あのままソフィアが不幸になるのを放ってはおけないの」
腕を掴まれ痛がる小さな女の子。そんな女の子を心配するでもなく「早く歩きなさい!」と腕を掴み引き摺るように歩いている。
周囲も心配そうに気にして見てはいるけど誰も助けようとはしない。
婦人の服装はどこから見ても貴族夫人。平民では声をかけられそうもない。
「マシュー……」
私はマシューの服を掴んだ。
私の今の身分は……元伯爵夫人で元侯爵令嬢。今は、爵位もない、でも、平民でもない。
離縁した時にリュシアンは伯爵家の名を残し、いずれ爵位を継ぐこともできるようにした。そのため育ての母である私が平民になればリュシアンが困ったことになる。
でも侯爵家の名を名乗ることもしたくなかったし縁を切りたかった私は伯父様預かりの身分、後見人になってもらい貴族として名を残している。
国から身分証明書を受け取れば、公爵家預かりで、公爵家の名を名乗ることを許可されている。
そう、いつでも平民に突き落とされる身分ではあるけど、一応貴族の仲間に入れられている。だからと言って目の前の婦人にどこまで口を出せるのか……
躊躇しているとソフィアが転んでそのまま引き摺られた。
「やめて!ソフィア!」
マシューも私もソフィアに駆け寄った。
「大丈夫?」
掴まれていた婦人の手をソフィアから離した。
地面を引きずられ膝から血が出ていた。
「………あっ…………あっ、……う、うわあーーーんっ!!!」
私の顔を見るなりソフィアが地面に転んだまま泣き出した。その顔を見て胸が苦しくて思わず抱きしめた。
頭の上で「あなたは誰?勝手に他人の子供に何をしているの?警ら隊はいないの?この人を捕まえなさい!」と叫んでいた。
「あなたは子供に対して虐待に近いことをしていた。それを助けただけだ」
マシューは普段優しくて穏やかなのに、その声はとても怖かった。
「あなたは……エヴァリア小公爵…さま?」
驚いた声が聞こえてきた。
「ど、どうして私に声をかけるのかしら?私がこの子を引き取ったことはご存知でしょう?大人の言う事を聞かないこの子をただ連れて歩いていただけだわ」
動揺しながらも自分は何も悪くないと言う婦人。
「マシュー……」
ーーこの人はだれ?
「ルシナ、彼女はバーウェル子爵夫人で、ソフィアの後見人だよ」
「そう……」
私は二人が頭の上で話している間に持っていたハンカチでソフィアの膝の血を拭き、とりあえずハンカチで傷を塞ぐことにした。
ハンカチを包帯がわりに結んであげたけど血は滲んでいる。
「マシュー、うちのお店に行けば薬があるの。連れて行ってはダメ?」
マシューを見上げてお願いすると、マシューは少し困った顔をして「婦人、この子の傷の手当てをしてあげたいのですが?」と少しキツイ口調で聞いてくれた。
「…………し、仕方ないわね、ソフィアを誰か連れて行って!」
近くにいた護衛に声をかけたが、ソフィアがビクッとして震えていた。
「私が抱っこして連れて行きます。私のお店なので!」
護衛の人が悪いわけではない。でも今の状態のソフィアには大きな大人の人は怖く感じるだろう。
「ソフィア、抱っこしてもいいかしら?」
優しく声をかけると「かあさま」と小さな声で私に手を差し出した。
「な、なに?なんでこんな素直に抱っこされるの?いつも泣いてばかりで体に触れるのを嫌がるのにっ!」
「ソフィアは人懐っこい子供です。でも環境が変わってしまって戸惑っているのだと思います。まだ幼い子供です、少し時間をかけて向き合ってはいただけませんか?」
「わたくしのことをよく知りもしないでお説教などしないでちょうだい!」
「申し訳ございません。ただ、ソフィアのことを知っている者として余計なことを言ってしまいました」
私はソフィアのもう面倒を見てあげられる立場ではない。
ソフィアの本当の父であるルベルト伯は自国に連行されてその後裁判のもと処刑された。
レベッカ様ももうすぐ処刑されるらしい。
レベッカ様のお父様の辺境伯は、財産を没収され領民と共に復興をさせるため自らも体を動かし働いているそうだ。
そして罪人になった二人の子供であるソフィアを、辺境伯が引き取ることは許可されなかった。
ネージュ様も離縁して独身のためソフィアを育てることは難しい。
まぁ、彼に子育ての能力は皆無だと思うけど。あの頃だって私に押し付けていたし。
バーウェル子爵がなぜソフィアを引き取ったのか?疑問を持ちながらもここで聞くことはできなかった。
自分自身、いろいろとあり過ぎてソフィアのことにまで気は回らなかった。
ソフィアはどこかで優しい家族のもと暮らしているのだろうなんて思っていた。
お店で手当てをしてソフィアはバーウェル子爵婦人と帰って行った。
大泣きして泣き疲れたソフィアは抵抗することも嫌がることもなかった。
目覚めたらソフィアはあの婦人のもとでどんなふうに過ごすのだろう。
そう考えると胸を締め付けられる。
私にはソフィアを助ける力もないのに……
だけど………
「マシュー、王太子殿下が仰ったの。
『妻のせいで事件に巻き込んですまなかった。君に何かあった時は僕ができることだけど、一度だけ願いを聞いてあげよう』と」
「殿下へのお願いは、ソフィアのことだね?」
「うん。ソフィアを引き取りたいの」
「………苦労するよ?ソフィアは犯罪者の娘なんだ。守ることはできるのかい?」
「マシュー、私一人の力では限界があるわ。お願いします、助けてはもらえないかしら?育てるのはもちろん私一人で頑張る。ただ、ソフィアへの風当たりが強い時、助けて欲しい。こんなずるいお願いは本当はしてはいけないことはわかってる。だけど、あのままソフィアが不幸になるのを放ってはおけないの」
あなたにおすすめの小説
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
【 お知らせ 】
先日、近況ボードにも
お知らせしました通り
2026年4月に
完結済みのお話の多数を
一旦closeいたします。
誤字脱字などを修正して
再掲載をするつもりですが
再掲載しない作品もあります。
再掲載の時期は決まっておりません。
表現の変更などもあり得ます。
他の作品も同様です。
ご了承いただけますようお願いいたします。
ユユ
【 お話の内容紹介 】
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。