【完結】戦争から帰ってきた夫が連れてきたのは彼が愛する人の子供だった。

たろ

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71話

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「ルシナ、頼むから少しはゆっくりしていてくれ」

「妊娠は病気ではないの。これくらいで横になっていたら何もできないわ」

「かあさま!マシューとうさまがそう言ってるんだ!ゆっくりねててください」

「リュシアン、でもね、子供達が待ってるの。父様だってそれはわかってるはずだわ。それに悪阻は仕方がないことなの。きつい時は休みながらだったら仕事もできるわ」

「いや、いや、君が絶対行かなければならないわけではない。うちの使用人に行くようにと頼んでいる。だから今日はゆっくりしていてほしい」

「そうだよ。かあさま、ぼく、しんぱいなんだ」

「心配してくれるのは嬉しい。でもね、今日はどうしても行きたいの」

「ほんと頑固だな」

「ごめんなさい……でも今日発表があるの。学校が始まって、初めて文官の試験を受けた子の合否の発表の日なの。どうしてもそばにいてあげたいの」

 平民の子供達のために立ち上げた学校は少しずつ生徒も増えている。
 学習に意欲のある子達は教えたことをすぐに吸収していく。

 教わるのがとても楽しいみたい。そして教える私達も楽しい。

 次は何を教えよう。もっと高度な教育をこの子には与えてあげたい。そんな欲求がどんどん膨らんでくる。

 マシューと結婚して公爵夫人となり領地の運営の手伝いや商会の仕事と忙しい日々の中、時間を作っては学校で子供達にも勉強を教えている。

 新しいものを作り出すのは今も続けているけどお店の運営にまで手が回らなくなって、私が立ち上げたお店は今はクリスティに任せている。もともと担当として私と商会の間でいろいろお世話をしてくれていたので一番信頼できる彼女。

 お店は繁盛して今は王都以外の場所でもお店を開くまでになった。

 リュシアンが7歳になり彼は本格的に伯爵家の跡取りとして家庭教師がつき勉強が始まった。

 週に一度は伯爵家で過ごすのも当たり前になった。

 10歳になれば王立学園に通い始める。

 そろそろ母親も必要なくなり、人前では甘えてこなくなっていた。

 だけど妊娠がわかってからはマシュー以上に心配して私のそばを離れようとしない。

 私がお店を手放したのもあまりにもリュシアンが体を心配してくれるのも理由の一つだった。

 忙しすぎて頑張りすぎた私は倒れてしまった。

『妊娠しています』
 医師にそう告げられ。

『病気ではなかったみたい』

 心配して駆けつけてくれたマシューとリュシアンに照れながら言った。

『妊娠したのか……』
 突然そう言われてマシューは少し戸惑いながらも満面の笑みでとても嬉しそうにしていた。

 なのに真顔になり『じゃあもう無理はしないで』と詰め寄られてしまった。

 リュシアンも『かあさまがにんしん?』と呟いた。

『貴方もお兄様になるのよ。よろしくね』

『……かあさま、やしきにかえりましょう!もう赤ちゃんがうまれるまで、そとにはでてはいけません!』

 突然の息子からの軟禁宣言に『何を言い出すの?妊娠は病気ではないの!仕事をしても大丈夫なのよ?』と叫んでしまった。

 そして今に至る。

 二人はとても心配症で親子ではないのに似ている。
 私とマシューは従兄なのでリュシアンも血は繋がってはいるとはいえ、父親のネージュ様よりも共に暮らした時間は長いせいか考え方や仕草、好みまで似ている。

「じゃあ、二人とも付き添ってくれる?どうしてもトーマスのそばにいてあげたいの。リュシアン、私は貴方を一番愛しているわ。だからこそ他の子供達にも力になってあげたい。私ができることは僅かだけど、子供達が少しでも空腹にならないように、将来安定した仕事に就けるように力になってあげたい。貴方がいるからこそ他の子供達にも幸せになってほしい」

「…………わかったよ、でもむりはしないでね?」

「学校が始まって初めて文官試験をトーマスが受けたんだ。今日は合格発表される大切な日だ。俺も一緒に祝おう」

「マシューったらもし落ちたらトーマスが落ち込んでしまうわ。あまりプレッシャーはかけないで!もちろん受かっていると信じてはいるけど」

「トーマスはとても努力をしてきた。貧しくて幼い時から自分も働き必死で両親を助けながら、少ない勉強時間で頑張ってきたんだ。必ず受かる。もし落ちたら公爵家の執事見習いにでもなってもらって俺がしっかり優秀な執事に育ててやるよ」

「まあ、素敵な提案ね?でもそんなことにはならないと思うわ。トーマスは本当に努力をしてきたから。それに身分を言い訳に落とされないようにマシューが推薦状を書いてくれたのだもの」

 公爵家の推薦状を見れば試験官も平民だと侮って簡単に落とすわけにはいかないはず。
 トーマスは驚くくらい優秀だった。一度教えたら覚えてしまう。理解力もありテストをすれば満点を取る。
 だからこそしっかりと優秀さを見極めてもらわないと。
 もちろん王太子殿下も身分差で結果を決めないようにと仰ってくださった。



 馬車に乗り込み町外れにある学校へと向かった。

 学校といっても古い商家だった建物を買取り、いくつかの教室にして使っている。

 そこに国からの補助金で教師を数人雇い勉強を教えている。

 私は完全ボランティアでお手伝いをさせてもらっている。

 トーマスは開校して一番最初に通い始めた。13歳だった彼は字もまともに読めず計算も出来なかった。

 だけど勉強をしたいという欲求は他の子供達よりも強く、一番努力をした子だった。だからこそ今日だけは彼のそばにいてあげたい。

 受かっていれば共に喜びを分かち合いたい。もしもの時は……ないと思うけど、その時はそばに黙っていてあげたい。

 リュシアンもトーマスに懐いている。

「トーマス、ごうかくしてたらいいね」

「受かっているわ」

「うんそうだな」

 いつもより会話は弾まない。

 私自身母親のような気持ちになり緊張していた。二人もそんな私の気持ちに影響されているみたい。

 学校に着くとすぐにトーマスの姿を探した。

 トーマスは学校の裏にある小さな庭に佇んで泣いていた。

 ーーえっ?もしかして………

 三人とも足取りは重くトーマスのそばに行こうか戸惑っていると、トーマスの方が私達に気がついた。

「ルシナ様!公爵様!リュシアン様!」

 トーマスは笑顔をこちらに向けて泣き笑いしながら

「合格しました!!」と叫んだ。

「やったあ!」
「受かってると思っていたんだ!」

「…………」
 私は嬉しくて一言も言葉を発せなかった。

 トーマスの頑張りが認めてもらえたことが嬉しくて。
 トーマスが誇らしくて。

 トーマスのあとに続けと、貧しくても皆が前向きになってくれたらと、心から願った。






 
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