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安らぎ。
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小屋から救出された。
キース様のお屋敷に着くとわたしは着替えをさせられてそのまま眠ってしまっていたようだ。
目が覚めたのはお昼を過ぎていた。
「ダイアナ様?お目覚めになられましたか?」
ネヴァンス侯爵家の客室に寝かされていたようだ。
少し年配の侍女さんが優しく声をかけてきてくれた。
「あ……遅くまで眠ってしまったようですみません」
「ゆっくり寝かせてあげるようにと言われておりました。目が覚めたら湯浴みをされませんか?それとも先にお食事をしますか?」
「あ……出来れば先に湯浴みをしたいです」
昨日は埃だらけの地下牢に閉じ込められていたしとにかくゆっくりとお湯に浸かりたかった。
「いつも一人で入っているので付き添いはいりません」
何人もの侍女さんが手伝おうとしてくれるのだが、実家ではいつも何をするのも一人だった。
だから誰かにお風呂に入れてもらうことには抵抗がある。
王妃様のところにいる時も出来るだけ自分のことは自分でするように王妃様にも言われていた。
いずれはお父様の公爵家を出て自立するつもりだったから。
入浴を済ませると新しい服が準備されていた。
締め付けずに着られる室内用のシンプルなドレス。
ーー肌触りもいいし着心地もいい。
まだ疲れて怠い体には楽な服。
落ち着くと今度はお腹の音がなってしまった。
「食事の用意はできています」
スープとパン、サラダにフルーツ、あまり胃に負担にならないように軽めで用意をしてくれていた。
「ありがとうございます」
昨日の朝食べたっきりなのでお腹は空いているのだけど、やはり食欲はないみたいで半分くらいしか食べられなかった。
「ごめんなさい残してしまって」
侍女さんに謝ると
「食べられるだけでいいのですよ。まだ体調は良くないと思います。あとでお医者様が来られますのでゆっくりとしていてくださいね」
「ありがとう」
また寝巻きに着替えてベッドに横になった。
キツイはずなのに目を閉じても眠れない。
思い出すのは昨日のこと。
怖かった。
ミリア様のあの顔。思い出すだけで恐怖が蘇った。
お父様はミリア様を愛していたから再婚したのではないの?二人は強制されて子供を作ったの?
ううん、違う。お父様はお母様を裏切った。
病床のお母様に会いにも来ずにあの人はミリア様やジェファと過ごしていたもの。
お母様はその間一人寂しくベッドで寝ていた。
……そして……お祖父様はお母様を犯していた。
「ダイアナ、お祖父様が来られたら絶対近くに来てはダメよ。見つからないように隠れていてね」
お母様はお祖父様がわたしと顔を合わせることをとても嫌がっていた。
そう、お祖父様はお母様を見るあの気持ち悪い目でわたしのことも見ていた。
なんで忘れてしまったのだろう。
お母様はとても怖がっていた。
お祖父様が会いにくることを。でもそれ以上に私に会わせようとしなかった。
お祖父様は……お母様をそしてわたしを「性」の対象として見ていたのだろう。
気持ちが悪い。全て気持ち悪い。
お父様だってお母様が亡くなった時、わたしを納屋に閉じ込めた。
わたしは何日も放っておかれた。
お腹が空いても喉が渇いても何ももらえない。泣き叫んだけど誰も助けてはくれなかった。
サリーはわたしに優しい侍女だったのにあの時……
「ダイアナ様、ぐずぐずしないでさっさと歩いてください、ほら、行きますよ」
泣いて嫌がるわたしを引きずるように連れて行き納屋に押し込んだ。
「そこでじっとしていて下さい、ほんと黒髪は気持ち悪い」そう言って吐き捨てられた。
いつも優しく接してくれた人だったはずなのに。
納屋にいる間、サリーはわたしが生きているか確認しにきた。
「まだ生きているのね」ぶつぶつ言いながら去っていく。
「お願いここから出して」わたしの言葉はもう誰にも届かない。
「エレファ様は亡くなった、もうダイアナ様の居場所はないんですよ、あなたもさっさと死んでしまった方が楽になりますよ」
サリーの冷たい言葉。
お母様が亡くなった?
わたしは呆然として納屋で過ごした。
そして……もうどうでもいいや、生きていたって仕方ないもの。
助け出された時には嫌な思い出は記憶から消えていた。
気持ち悪いお祖父様がしたこともサリーのことも。
サリーは今も屋敷で侍女長として働いている。
そしてわたしを納屋に閉じ込めたと別の人が解雇されていた。どうしてサリーは捕まらずに他の人が犯人にさせられていたのだろう。
記憶が戻るとよく分からないことばかり。
だけどサリーは侍女長だから、あの屋敷の中で力がある。
彼女も仮面を被っていた、本性は誰も知らない。
お父様だってお祖父様のお母様への仕打ちを知らないはず。
こんな記憶を思い出していたらわたしはあの屋敷に固執して過ごすなんて馬鹿なことをしなかった。思い出を守ろうなんて考えなかった。
なのにお父様がわたしを助けにきてくれた時、咄嗟に体が動いた。
お父様なんて大っ嫌いだしどうでもいいはずなのに死んでほしくないと思った。
自分でもよく分からない行動。
キース様のお屋敷に着くとわたしは着替えをさせられてそのまま眠ってしまっていたようだ。
目が覚めたのはお昼を過ぎていた。
「ダイアナ様?お目覚めになられましたか?」
ネヴァンス侯爵家の客室に寝かされていたようだ。
少し年配の侍女さんが優しく声をかけてきてくれた。
「あ……遅くまで眠ってしまったようですみません」
「ゆっくり寝かせてあげるようにと言われておりました。目が覚めたら湯浴みをされませんか?それとも先にお食事をしますか?」
「あ……出来れば先に湯浴みをしたいです」
昨日は埃だらけの地下牢に閉じ込められていたしとにかくゆっくりとお湯に浸かりたかった。
「いつも一人で入っているので付き添いはいりません」
何人もの侍女さんが手伝おうとしてくれるのだが、実家ではいつも何をするのも一人だった。
だから誰かにお風呂に入れてもらうことには抵抗がある。
王妃様のところにいる時も出来るだけ自分のことは自分でするように王妃様にも言われていた。
いずれはお父様の公爵家を出て自立するつもりだったから。
入浴を済ませると新しい服が準備されていた。
締め付けずに着られる室内用のシンプルなドレス。
ーー肌触りもいいし着心地もいい。
まだ疲れて怠い体には楽な服。
落ち着くと今度はお腹の音がなってしまった。
「食事の用意はできています」
スープとパン、サラダにフルーツ、あまり胃に負担にならないように軽めで用意をしてくれていた。
「ありがとうございます」
昨日の朝食べたっきりなのでお腹は空いているのだけど、やはり食欲はないみたいで半分くらいしか食べられなかった。
「ごめんなさい残してしまって」
侍女さんに謝ると
「食べられるだけでいいのですよ。まだ体調は良くないと思います。あとでお医者様が来られますのでゆっくりとしていてくださいね」
「ありがとう」
また寝巻きに着替えてベッドに横になった。
キツイはずなのに目を閉じても眠れない。
思い出すのは昨日のこと。
怖かった。
ミリア様のあの顔。思い出すだけで恐怖が蘇った。
お父様はミリア様を愛していたから再婚したのではないの?二人は強制されて子供を作ったの?
ううん、違う。お父様はお母様を裏切った。
病床のお母様に会いにも来ずにあの人はミリア様やジェファと過ごしていたもの。
お母様はその間一人寂しくベッドで寝ていた。
……そして……お祖父様はお母様を犯していた。
「ダイアナ、お祖父様が来られたら絶対近くに来てはダメよ。見つからないように隠れていてね」
お母様はお祖父様がわたしと顔を合わせることをとても嫌がっていた。
そう、お祖父様はお母様を見るあの気持ち悪い目でわたしのことも見ていた。
なんで忘れてしまったのだろう。
お母様はとても怖がっていた。
お祖父様が会いにくることを。でもそれ以上に私に会わせようとしなかった。
お祖父様は……お母様をそしてわたしを「性」の対象として見ていたのだろう。
気持ちが悪い。全て気持ち悪い。
お父様だってお母様が亡くなった時、わたしを納屋に閉じ込めた。
わたしは何日も放っておかれた。
お腹が空いても喉が渇いても何ももらえない。泣き叫んだけど誰も助けてはくれなかった。
サリーはわたしに優しい侍女だったのにあの時……
「ダイアナ様、ぐずぐずしないでさっさと歩いてください、ほら、行きますよ」
泣いて嫌がるわたしを引きずるように連れて行き納屋に押し込んだ。
「そこでじっとしていて下さい、ほんと黒髪は気持ち悪い」そう言って吐き捨てられた。
いつも優しく接してくれた人だったはずなのに。
納屋にいる間、サリーはわたしが生きているか確認しにきた。
「まだ生きているのね」ぶつぶつ言いながら去っていく。
「お願いここから出して」わたしの言葉はもう誰にも届かない。
「エレファ様は亡くなった、もうダイアナ様の居場所はないんですよ、あなたもさっさと死んでしまった方が楽になりますよ」
サリーの冷たい言葉。
お母様が亡くなった?
わたしは呆然として納屋で過ごした。
そして……もうどうでもいいや、生きていたって仕方ないもの。
助け出された時には嫌な思い出は記憶から消えていた。
気持ち悪いお祖父様がしたこともサリーのことも。
サリーは今も屋敷で侍女長として働いている。
そしてわたしを納屋に閉じ込めたと別の人が解雇されていた。どうしてサリーは捕まらずに他の人が犯人にさせられていたのだろう。
記憶が戻るとよく分からないことばかり。
だけどサリーは侍女長だから、あの屋敷の中で力がある。
彼女も仮面を被っていた、本性は誰も知らない。
お父様だってお祖父様のお母様への仕打ちを知らないはず。
こんな記憶を思い出していたらわたしはあの屋敷に固執して過ごすなんて馬鹿なことをしなかった。思い出を守ろうなんて考えなかった。
なのにお父様がわたしを助けにきてくれた時、咄嗟に体が動いた。
お父様なんて大っ嫌いだしどうでもいいはずなのに死んでほしくないと思った。
自分でもよく分からない行動。
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