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番外編 ジャスティア。
「はあ、こんなところに嫁に来なければよかった」
見渡す限り山。森。木。
男といえばおっさんと屈強な筋肉の男ばかり。そして老人と子供達。
何が辺境伯よ!地位と名前はカッコいいけど、この場所は本当に辺境の地じゃない。
美しいわたしには相応しくない場所よ!
だって新しいドレスなんて売っていないし、流行りのカフェもスイーツ店もない。
あるのは町の衣料品店にお菓子屋さん。庶民が買う場所ばかりで貴族が好んで買うお店なんてどこにもない!
仕方がないので最近のわたしの服は、昼間はワンピースで常に動きやすい格好になってしまった。
「ドレス?」そんなの着たって行くところも見てくれる人もいない。
旦那様はいつも任務で家を空けてばかり。
わたしは暇なので仕方なく、本当に仕方なく、子供達に文字を教えている。
騎士の子供達はみんな親を見習い、騎士の真似事をして遊んでいる。そうやってこの土地では騎士になるための基本を覚えていくらしい。
「じゃあ勉強は?」その質問に騎士の妻達であるメイドや使用人は豪快に笑った。
「勉強なんてしてもお腹がいっぱいにはなりません」
「そんな暇があったら少しでも体力を作る方が大切ですよ」
「女の子は料理や洗濯を覚えて男どものために尽くすんです」
なんとも豪快な暮らし。
だから馬鹿みたいにみんな子供がたくさん出来るのよ!
王都では多くても3~4人なのに、辺境伯領では5~6人は当たり前。
ほんと、体力馬鹿達はヤルことしか考えていないのかしら?
わたしは今日も大広間に子供達を集めて文字を教える。
最近はみんな自分の名前を書けるようになった。
「ジャスティア様、見て見て!俺の名前、カッコいいだろう?」
「わたしだって書けたわ!」
「俺なんか弟の名前も書けるようになったんだぜ」
みんなが自慢したくてわたしのそばに来ては大きな声で騒ぎ出す。
「あなた達うるさいわよ。わかったからいちいち見せにこなくてもいいわ」
そう冷たく言ってもこの子達はわたしの言葉に負けていない。
「えー?なんで?俺、ジャスティア様のこと結構好きなんだ!見た目嫌な奴に見えたけどいい人だもんな」
ーー何この上から目線?
「ほんと、領主様の奥様、すっごい意地悪そうだったけど本当はいいところもあるもん」
ーー意地悪そう?失礼な!
子供達にこんななこと言われるなんて……
初めはショックで、こんな子達もう相手になんてしないわ!
と何度も思った。
だけど、こんな正直に裏表なく、わたしのこと貶しながらも褒めてくれる人なんていなかった。
みんなわたしの顔色を伺ってビクビクしていた。
だからイライラしてさらに傲慢な態度をとってしまっていた。
ほんと、ダイアナはわたしに対して怖がりもせずご機嫌もとらない生意気な子だった。そしてキースも。
キースのことを思い出すと未だに胸がズキっとする時がある。わたしの初恋の人、無理矢理でもわたしのそばにいて欲しかった。
ーー流石に諦めたけどね。
「さあ、自分の名前が書けたら今度は誰でもいいから他の人の名前を書いてみて!わからない文字は聞きに来なさい。教えてあげるから!わかった?」
「「「「はーい」」」」
みんな必死で習った文字を思い出しながら書いている。
「好きな子の名前でも書いているのかしら?」
ちょっと好奇心で子供達の机を覗いた。
『ジャスティア』
何人かの子供がそう書いていた。
ーーなんでわたしの名前を書くの?
わたしの名前を書くなんて発想が自分にはなかった。だから思わずもう一度確かめてしまった。
「ジャスティア様、顔が赤いよ!嬉しくて照れてるの?」
「な、な、なに、言っているの?そ、そんなことないわ。驚いた、だけよ。どうしてわたしの名前を書いているの?」
動揺して、言葉が詰まってしまった。
「誰でもいいって言ったから、ジャスティア様の名前にしたんだ。だってジャスティア様はこの領地で一番のべっぴんさんだから」
「べっぴんさん??」
「ああ、お姫様にはわからないかもな。綺麗だって意味」
「……はは、ありがとう」
なんだかどんな素敵な人に褒められるよりも子供達に褒めてもらうことの方がとても嬉しいと感じた。
ーーなんなんだろう、訳もわからず涙が出てくる。もちろん涙はグッと我慢して泣かないけど。
夫がひと月ぶりに遠征から帰ってきた。
熊みたいな男達の中で、夫はとても綺麗な顔をしている。キースほどではないけど、短髪でキリッとした顔立ちの青年で、若く辺境伯となった人。
「ジャスティア、おいで」
「え?いやよ!まずはお風呂に入ってきてちょうだい。そんないつお風呂に入ったかわからない貴方に触られたくないわ」
「……わかった、一緒に入ろう」
「はああ?何故?どうして?嫌よ!」
ーーいくら夫婦でも恥ずかしすぎる。お互い裸でお風呂なんて!
夫はシュンとなりながらもお風呂に入って綺麗になっていた。
髭も剃り少し伸びた髪もついでに切ってきた。
そしてにこりと微笑んだ。
「ジャスティア、留守番ありがとう。君のおかげで子供達も勉強が楽しいと言っていたよ」
「少しでもお役に立ててよかったです。この場所ではわたしが出来ることなんてほんの一握りしかありませんから」
「みんな君のことが大好きだよ、ま、一番君を好きなのは俺だけどね」
恥ずかしげもなく彼はわたしに「好きだ」と言ってくれる。
ここではみんながわたしをちゃんと見てくれる。
王女ではなく、ジャスティアとして。
「ジャスティア、おいで、もういいだろう?我慢できない」
わたしは夫に愛されすぎている。
「今日は……お勉強はお休みだとみんなに伝えてちようだい」
「えー?今日は勉強休み?母ちゃんも仕事休むって言ってた」
「うちもー!」
「え?俺んちも!」
あと数ヶ月したら、何人が妊娠したと言うのだろう。かく言うわたしも……
あー、夫が帰ってくると身がもたない。
わたしの幸せは……ここにあった。いつかお父様とお義母様にもこの素敵な場所をお見せしたい。
義弟が国王になったらお二人も少しは暇になるだろう。その時は……少しは親孝行くらいしてあげてもいいかな。
見渡す限り山。森。木。
男といえばおっさんと屈強な筋肉の男ばかり。そして老人と子供達。
何が辺境伯よ!地位と名前はカッコいいけど、この場所は本当に辺境の地じゃない。
美しいわたしには相応しくない場所よ!
だって新しいドレスなんて売っていないし、流行りのカフェもスイーツ店もない。
あるのは町の衣料品店にお菓子屋さん。庶民が買う場所ばかりで貴族が好んで買うお店なんてどこにもない!
仕方がないので最近のわたしの服は、昼間はワンピースで常に動きやすい格好になってしまった。
「ドレス?」そんなの着たって行くところも見てくれる人もいない。
旦那様はいつも任務で家を空けてばかり。
わたしは暇なので仕方なく、本当に仕方なく、子供達に文字を教えている。
騎士の子供達はみんな親を見習い、騎士の真似事をして遊んでいる。そうやってこの土地では騎士になるための基本を覚えていくらしい。
「じゃあ勉強は?」その質問に騎士の妻達であるメイドや使用人は豪快に笑った。
「勉強なんてしてもお腹がいっぱいにはなりません」
「そんな暇があったら少しでも体力を作る方が大切ですよ」
「女の子は料理や洗濯を覚えて男どものために尽くすんです」
なんとも豪快な暮らし。
だから馬鹿みたいにみんな子供がたくさん出来るのよ!
王都では多くても3~4人なのに、辺境伯領では5~6人は当たり前。
ほんと、体力馬鹿達はヤルことしか考えていないのかしら?
わたしは今日も大広間に子供達を集めて文字を教える。
最近はみんな自分の名前を書けるようになった。
「ジャスティア様、見て見て!俺の名前、カッコいいだろう?」
「わたしだって書けたわ!」
「俺なんか弟の名前も書けるようになったんだぜ」
みんなが自慢したくてわたしのそばに来ては大きな声で騒ぎ出す。
「あなた達うるさいわよ。わかったからいちいち見せにこなくてもいいわ」
そう冷たく言ってもこの子達はわたしの言葉に負けていない。
「えー?なんで?俺、ジャスティア様のこと結構好きなんだ!見た目嫌な奴に見えたけどいい人だもんな」
ーー何この上から目線?
「ほんと、領主様の奥様、すっごい意地悪そうだったけど本当はいいところもあるもん」
ーー意地悪そう?失礼な!
子供達にこんななこと言われるなんて……
初めはショックで、こんな子達もう相手になんてしないわ!
と何度も思った。
だけど、こんな正直に裏表なく、わたしのこと貶しながらも褒めてくれる人なんていなかった。
みんなわたしの顔色を伺ってビクビクしていた。
だからイライラしてさらに傲慢な態度をとってしまっていた。
ほんと、ダイアナはわたしに対して怖がりもせずご機嫌もとらない生意気な子だった。そしてキースも。
キースのことを思い出すと未だに胸がズキっとする時がある。わたしの初恋の人、無理矢理でもわたしのそばにいて欲しかった。
ーー流石に諦めたけどね。
「さあ、自分の名前が書けたら今度は誰でもいいから他の人の名前を書いてみて!わからない文字は聞きに来なさい。教えてあげるから!わかった?」
「「「「はーい」」」」
みんな必死で習った文字を思い出しながら書いている。
「好きな子の名前でも書いているのかしら?」
ちょっと好奇心で子供達の机を覗いた。
『ジャスティア』
何人かの子供がそう書いていた。
ーーなんでわたしの名前を書くの?
わたしの名前を書くなんて発想が自分にはなかった。だから思わずもう一度確かめてしまった。
「ジャスティア様、顔が赤いよ!嬉しくて照れてるの?」
「な、な、なに、言っているの?そ、そんなことないわ。驚いた、だけよ。どうしてわたしの名前を書いているの?」
動揺して、言葉が詰まってしまった。
「誰でもいいって言ったから、ジャスティア様の名前にしたんだ。だってジャスティア様はこの領地で一番のべっぴんさんだから」
「べっぴんさん??」
「ああ、お姫様にはわからないかもな。綺麗だって意味」
「……はは、ありがとう」
なんだかどんな素敵な人に褒められるよりも子供達に褒めてもらうことの方がとても嬉しいと感じた。
ーーなんなんだろう、訳もわからず涙が出てくる。もちろん涙はグッと我慢して泣かないけど。
夫がひと月ぶりに遠征から帰ってきた。
熊みたいな男達の中で、夫はとても綺麗な顔をしている。キースほどではないけど、短髪でキリッとした顔立ちの青年で、若く辺境伯となった人。
「ジャスティア、おいで」
「え?いやよ!まずはお風呂に入ってきてちょうだい。そんないつお風呂に入ったかわからない貴方に触られたくないわ」
「……わかった、一緒に入ろう」
「はああ?何故?どうして?嫌よ!」
ーーいくら夫婦でも恥ずかしすぎる。お互い裸でお風呂なんて!
夫はシュンとなりながらもお風呂に入って綺麗になっていた。
髭も剃り少し伸びた髪もついでに切ってきた。
そしてにこりと微笑んだ。
「ジャスティア、留守番ありがとう。君のおかげで子供達も勉強が楽しいと言っていたよ」
「少しでもお役に立ててよかったです。この場所ではわたしが出来ることなんてほんの一握りしかありませんから」
「みんな君のことが大好きだよ、ま、一番君を好きなのは俺だけどね」
恥ずかしげもなく彼はわたしに「好きだ」と言ってくれる。
ここではみんながわたしをちゃんと見てくれる。
王女ではなく、ジャスティアとして。
「ジャスティア、おいで、もういいだろう?我慢できない」
わたしは夫に愛されすぎている。
「今日は……お勉強はお休みだとみんなに伝えてちようだい」
「えー?今日は勉強休み?母ちゃんも仕事休むって言ってた」
「うちもー!」
「え?俺んちも!」
あと数ヶ月したら、何人が妊娠したと言うのだろう。かく言うわたしも……
あー、夫が帰ってくると身がもたない。
わたしの幸せは……ここにあった。いつかお父様とお義母様にもこの素敵な場所をお見せしたい。
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