【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

にじゅうさん

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 バズールがオリソン国へ向かう。

 またしばらく会えなくなる。

「お父様、わたし記憶がなくなってしまいましたがオリソン国へバズールと戻って勉強をしたいと思っています。何も覚えていないからと逃げるのは嫌なんです……それに………離れたくない」

「離れたくないとは?」

 眉を顰めているお父様に、本当の気持ちを伝えるのは恥ずかしすぎる。

「バズールが好きなのね?」
 お父様の隣で黙って聞いていたお母様がわたしの方を見て笑顔で尋ねる。

 わたしはその言葉にどう答えようか悩みながらも小さく頷いた。

「バズールには伝えたの?」

 わたしは慌てて大きく横に首を振る。

「だってずっと……幼馴染で従兄弟で一番仲が良い友達だったのよ?今更好きなんて……言ってフラれたらどうしたらいいのかわからないの」

「ライナ……バズールは貴女をもし振ったとしても貴女を傷付けるような態度をする子ではないと思うわ。それに何もしないで終わらせていいの?貴方はうちの跡取りでバズールも嫡男だけど、あっちはカイリが跡を継ぐことも出来るはずよ」

「お母様……」
 ーーわたしはそこまでまだまだ考えていなかったのに……いつかバズールと……

 そう、わたしには婚約者がいた。記憶にないけどわたしはシエル様が大好きだったのだと友達が教えてくれた。
 本当はわたしと結婚して男爵家を継ぐ予定だった人。
 わたしの記憶の中ではお父様が国王から仕事を評価され陞爵して伯爵になったと思っていたけど……本当はわたしのためにリーリエ様一家を牽制するた力が必要で伯爵の地位を受け入れたのだと伯母様から教えてもらった。
 男爵では高位貴族から侮られてしまい、我が家はどうしても周りから軽く見られていた。

 我が家は高位貴族に匹敵する財力があるので地位なんて気にしていないで過ごしていた。だけど貴族社会ではいくら金銭的に裕福でも地位が低いと生きづらいものだった。

 リーリエ様はわたしが男爵家の娘だからと侮っていたのだと聞いた。

 わたしの忘れてしまった世界はきっと生きづらい日々だったのだろう。 




「バズール、わたしもオリソン国へ行くわ」
 わたしの言葉にバズールは驚いて返事をしなかった。

 ーーそんな顔をするなんて……
 思ってもみない反応にショックを受けつつ、それでも必死に自分の気持ちを伝えた。

「わたしがどんな風にオリソン国で過ごしたか知りたい。どうして記憶をなくしたのかはわからないけど……少しでも思い出すかもしれない。それにオリソン国で出来たと言うわたしの大切な友達や知り合った人たちにも会いたいの」

「……わかった」



 そしてバズールと二月ぶりのオリソン国へと向かった。
 今回も列車の個室に乗った。ただし二人ではなく三人で乗ることになった。
 サマンサが何があってもついて行くと言い出して、お父様もサマンサ付きなら許可すると言ってくれた。

 列車はもちろん事故を起こすことも何事もなくオリソン国に着いた。

 駅のホームに降り立つと周りをキョロキョロ見回したが懐かしさとかそんな感情は湧かなかった。

 ただ知らない国へ来たと言うだけだった。

 でも列車に乗っている間、心の中に何かよくわからない違和感を感じた。

 バズールの受けた呪いのこと……何かスッキリとしない。列車の中でずっと感じていた違和感、でもどんなに考えても何も浮かばない。
 仕方なくわたしは考えるのをやめて、サマンサとわたしが住んでいると言う女子寮へと向かった。
 サマンサは一緒に暮らすことはできないので、学校の近くに別の部屋を借りることになった。
 わたしは以前のまま寮で過ごす事を選んだ。
 そこからわたしの世話に通うサマンサ。

 寮で同じ部屋のマリアナとサマンサは会ってすぐに何故か気が合って二人は仲良くなった。
 サマンサが寮の部屋に顔を出すことに対してマリアナも快く許可をくれたので気を使わないで済むのでホッとした。

 マリアナはわたしが覚えていないことに驚いてはいたけど、すぐにわたし自身も仲良くなって寮での過ごし方などを教えてもらった。

「ライナはもうやめてしまうのかと思っていたの。改めて初めまして。そしてあと4ヶ月間仲良くしてね」

 マリアナは4ヶ月後学校を一年で修了して王宮で文官として働くことになったと嬉しそうに言った。

 平民で一年しか大学に通っていないのに文官試験に受かったそうだ。
 最近文官の手伝いで仕事を始めて俄然やる気が出たマリアナは今回試験に受かったらしい。

「凄いわ、おめでとう」
 記憶がなくても文官の試験が難しいことくらいはわかる。わたしとサマンサはマリアナにお祝いの言葉とささやかながらケーキを焼いて祝うことにした。

 マリアナはわたしがどんな風にこの寮で暮らしたかたくさん話をしてくれた。

 そして、わたしがギルバート様と言う先生の元に通い、助手のような事をして過ごしていたと聞いた。

 その言葉を聞いてわたしは一人でその研究室へと顔を出してみた。
 部屋の中には四人の人が本と真剣に睨めっこをしていた。

 わたしの顔に気がつくと

「ライナ?もう元気になったんだな」

「久しぶりね、もう来ないのかと思ったわ」

「余計なこと言わないの!ライナ聞いているよ、まだ記憶が戻らないんだって?」

 みんなが親しげに話しかけてくる。
 顔を引き攣らせどうしたらいいのか分からずに固まっていると、先生らしき人がため息を吐いた。

「お前達、ライナにいつものように話しかけたら戸惑うだろう?彼女にとっては初めましてなんだから」

「あ……そうでした」

 みんながハッと気がついて「ごめんごめん」と謝ってくれた。そんなやり取りに申し訳なくて
「皆さん、お忙しそうにしている中突然顔を出してしまい申し訳ございませんでした。少しでも記憶が戻ればとわたしが過ごした場所を今歩いてまわっております」
 みんなに謝罪をして部屋からすぐに出ようとした。

「ライナがまた以前の生活をしてみたいと思ったらいつでもここにおいで。ここは君の大好きだった場所だったんだよ」
 先生の優しい笑顔に緊張していたわたしはホッとして「ありがとうございます。まずはわたしが忘れてしまっている生活してきた場所を少しずつ回ってみようと思っています。その後また受け入れてもらえたら嬉しいです」

 ーーこの暖かな人たちの場所にまた来たい。

 そう思える場所を記憶をなくして二番目に見つけることができた。
 もちろん一番目はマリアナと過ごす寮の部屋。

 わたしはこの国でこんなに楽しく幸せに過ごしていたんだと痛感した。だからこそどうして記憶をなくしたのかしら?

 辛いことなんてここではなかったと感じるのに。








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