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新しい恋。
にじゅうに
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祭りの日はドレスを脱ぎ、街に溶け込む様にワンピースに着替えた。
ブラシで梳かしてくれるサマンサの姿が鏡に映っていた。
「楽しみだわ」
わたしの髪の毛が三つ編みになって町娘になっていく。
「お祭りに行くのは初めてですね」
「なかなか護衛なしではお父様が許可をしてくださらないのだもの」
「それだけご心配なさっていたのでしょう」
「そうね、お父様にはとても心配ばかりかけたと思っているの。今も記憶が戻らないし……」
「ライナ様が元気で笑っていることが一番の親孝行だと思います」
「ええ、今は……笑って過ごせると思うわ」
ーーだって辛いことなんて何も覚えていないもの。
それにやっとバズールも元気になったし。わたしの怪我も治ったし、あとはこれからどうするかだけだもの。
留学を辞めるか続けるか。
まだ気持ちがハッキリと決まっていない。
「ライナ迎えに来た」
バズールも今日は白いシャツにゆったりとしたズボンを履いていた。いつもの貴族らしい正装とは全く違う。髪型も洗い立てのサラッとした髪型でいつものようにカチッと固めていなかった。
思わず上から下までじっと眺めてしまう。
「どうした?カッコよくて驚いた?」
ふざけて言ってるのに思わず反応出来なくて、「へっ?」と返してしまった。たぶん耳は赤くなっている……はず。
ーー恥ずかしい。でもそんなわたしの小さな変化にバズールは気が付かない。
「ライナも水色のワンピースに三つ編みかぁ、いつものドレス姿もいいけどそんな姿も新鮮でいいよね」
さらにお褒めの言葉を言われて、顔が真っ赤になった。
「あ、ありがとう……バズールが褒めてくれるなんて珍しい。せっかくのお祭りなのに雨が降らなければいいけど」
ついいつもの癖で一言余計な言葉が出てしまう。
ーーお礼だけ言えればいいのに……心の中ではいくらでも素直なのに……な。
好きだと気がついてからどう受け答えしていいのか自分でもよくわからない。
意地っ張りで素直じゃないわたしをバズールは嫌わないかしら?
心配なくせに今までの二人の関係から前に進めずにいる。
幼馴染、いとこ同士、同級生、なんて楽な関係だったのだろう。そばにいて当たり前、お互い好きなことを平気で言っても壊れない関係だった。
なのに、好きだと気がついて次の一歩を踏み出そうとしても、逆にどうしていいのかわからない。だってこんな大事な関係が壊れてしまうなんて考えただけで怖い。
「…………ライナ?聞いてる?……行くよ?」
バズールの呼びかけにハッとして我に返った。
「あ、ごめんなさい、バズール、今日はよろしく」
バズールの手を取り馬車に乗った。
街の馬車乗り場に降ろしてもらうとそこからは歩く。
「ライナが迷子になると困るからお手をどうぞ」
「ふふ、ありがとう」
バズールの手を取り街の中心でしている祭りへと向かう。
たくさんの人々、いろんな出店、楽器が鳴り響き楽しそうな音楽があっちこっちで流れている。
音楽に合わせて輪になり踊っている人々。
広場では楽しそうにそれぞれが一人で踊っていた。大道芸人のパフォーマンス、お昼からはカラフルな衣装を着た女性達のパレードもあるらしい。
そして夜には花火が上がる。
夜までは残念ながら見れないけど、昼間だけでもしっかり楽しむつもり。
たくさんの人混みの中、何度か逸れそうになりながらも、繋いだバズールの手がわたしの手をしっかりと握っていてくれたので離れずにすんだ。
出店は食べ物や飲み物、スイーツ、手作りの装飾品を売っているお店、小物入れや古本を売っている人、絵なども売られていた。
驚いたのはヤギや豚が生きたまま売られていたことだった。
そんなお店を見て回るのもとても楽しかった。
「ねぇバズール、あそこからとてもいい匂いがするわ」
「あれは串焼きだね」
「串焼き?」
「そう、串に牛肉や羊肉などを刺して焼いて甘辛のタレにつけて売っているんだ。食べてみる?」
「う、うん、あっ……でもどこで食べるの?」
「どこでって……立って歩きながら?かな。それとも地面に座って食べる?」
「わたし……自信がない……わ」
「お前、学校行ってる時はみんなで街へ行って食べ歩きしてたのに」
バズールが笑いながら言った言葉にわたしは驚いた顔をして固まった。
「そんなことしていたの?」
「あっ……」
気不味そうにしているバズールに、
「わたし、どんな風に暮らしていたのか知りたい。バズールはもうすぐ大学へ戻るのでしょう?わたしもあと5ヶ月残っているのにこのまま辞めていいのか悩んでいるの」
「ライナにとって留学はとても充実していたと思う。確かに嫌な思い出もあった。でもそれ以上に大切な友達や知り合いができたと思う」
「カイさん……ってどうなったのかしら?」
ずっと気になっていた。バズールが意識が戻らないのは妹のリリアンナ様の所為だと言ってたけど……違ったようだし、戻ってくると言ったけど結局顔を出すことはなかった。
「カイ様は……とても忙しいお方なんだ。でも俺のために動いてくれた。だから俺は今こうして意識を取り戻せたんだ。オリソン国へ戻ったらお礼を言うつもりだ」
「じゃあ、本当に呪いだったの?」
「詳しくは話せない。ライナは知らない方がいい。でもあの列車事故自体が事故ではなく故意に起こされたものだと思う。そして俺は呪われた。永遠に目覚めることがないはずの呪いに……」
「故意?そんな……」
「カイ様は忙しく動いているんだと思う。ライナ、君はただ笑っていて。それだけでいい」
「わたしは笑ってるだけなんて嫌だわ」
「俺たちには今何もすることはないし、動くと邪魔にしかならない。だから報告を待つしかないんだ」
「………わかった」
せっかくの楽しいお祭りなのに……とても辛い話だった。巻き込まれて亡くなった人も大勢いるのに…だからこそ犯人にはきちんと罪を償って欲しい。
「ライナ、今日は……今日だけは俺だけを見て、一緒に過ごそう」
バズールはいつもの口の悪さも揶揄う言葉もやめてずっと紳士的に接してくれた。
「うん、わかったわ、じゃあ……串焼き食べてみるわ」
せっかくのバズールとの時間だからわたしは今だけは何も考えずに笑顔で過ごそうと思った。
バズールオススメの串焼きはとっても美味しくて二人で取り合って食べることになった。
「バズール、それわたしの。自分の食べなさいよ!」
「もう俺のは食った!ゆっくり食べるライナが悪い。あと一口くれ!」
「え?嫌だよ!」
「ったくお前ってケチだな」
「ケチ?失礼ね!」
仕方なくバズールに串焼きをあげようとすると受け取らずわたしの持っている手を握るとニヤッとして……串焼きをパクッと食べた。
「もうそんなに食べたらわたしの分がなくなっちゃうわ」
結局喧嘩しながらお祭りを回ることになってしまった。
でもとっても楽しい一日を過ごすことができた。
我儘を言って花火まで見ることができた。
幼い頃お父様とお母様と花火を見に行って以来なので10年以上ぶりの花火は驚くほど綺麗でわくわくしてしまった。
隣にバズールがいて綺麗な花火を見ることができて本当は胸がドキドキしたのだけどバズールには絶対知られたくない。
わたしの胸の高鳴りも真っ赤な顔も花火の音と暗闇でバズールに届くことはなかった。
『大好きだよ』聞こえないことをいいことにそっと告白した。
花火がわたしの心を隠してくれた。
ブラシで梳かしてくれるサマンサの姿が鏡に映っていた。
「楽しみだわ」
わたしの髪の毛が三つ編みになって町娘になっていく。
「お祭りに行くのは初めてですね」
「なかなか護衛なしではお父様が許可をしてくださらないのだもの」
「それだけご心配なさっていたのでしょう」
「そうね、お父様にはとても心配ばかりかけたと思っているの。今も記憶が戻らないし……」
「ライナ様が元気で笑っていることが一番の親孝行だと思います」
「ええ、今は……笑って過ごせると思うわ」
ーーだって辛いことなんて何も覚えていないもの。
それにやっとバズールも元気になったし。わたしの怪我も治ったし、あとはこれからどうするかだけだもの。
留学を辞めるか続けるか。
まだ気持ちがハッキリと決まっていない。
「ライナ迎えに来た」
バズールも今日は白いシャツにゆったりとしたズボンを履いていた。いつもの貴族らしい正装とは全く違う。髪型も洗い立てのサラッとした髪型でいつものようにカチッと固めていなかった。
思わず上から下までじっと眺めてしまう。
「どうした?カッコよくて驚いた?」
ふざけて言ってるのに思わず反応出来なくて、「へっ?」と返してしまった。たぶん耳は赤くなっている……はず。
ーー恥ずかしい。でもそんなわたしの小さな変化にバズールは気が付かない。
「ライナも水色のワンピースに三つ編みかぁ、いつものドレス姿もいいけどそんな姿も新鮮でいいよね」
さらにお褒めの言葉を言われて、顔が真っ赤になった。
「あ、ありがとう……バズールが褒めてくれるなんて珍しい。せっかくのお祭りなのに雨が降らなければいいけど」
ついいつもの癖で一言余計な言葉が出てしまう。
ーーお礼だけ言えればいいのに……心の中ではいくらでも素直なのに……な。
好きだと気がついてからどう受け答えしていいのか自分でもよくわからない。
意地っ張りで素直じゃないわたしをバズールは嫌わないかしら?
心配なくせに今までの二人の関係から前に進めずにいる。
幼馴染、いとこ同士、同級生、なんて楽な関係だったのだろう。そばにいて当たり前、お互い好きなことを平気で言っても壊れない関係だった。
なのに、好きだと気がついて次の一歩を踏み出そうとしても、逆にどうしていいのかわからない。だってこんな大事な関係が壊れてしまうなんて考えただけで怖い。
「…………ライナ?聞いてる?……行くよ?」
バズールの呼びかけにハッとして我に返った。
「あ、ごめんなさい、バズール、今日はよろしく」
バズールの手を取り馬車に乗った。
街の馬車乗り場に降ろしてもらうとそこからは歩く。
「ライナが迷子になると困るからお手をどうぞ」
「ふふ、ありがとう」
バズールの手を取り街の中心でしている祭りへと向かう。
たくさんの人々、いろんな出店、楽器が鳴り響き楽しそうな音楽があっちこっちで流れている。
音楽に合わせて輪になり踊っている人々。
広場では楽しそうにそれぞれが一人で踊っていた。大道芸人のパフォーマンス、お昼からはカラフルな衣装を着た女性達のパレードもあるらしい。
そして夜には花火が上がる。
夜までは残念ながら見れないけど、昼間だけでもしっかり楽しむつもり。
たくさんの人混みの中、何度か逸れそうになりながらも、繋いだバズールの手がわたしの手をしっかりと握っていてくれたので離れずにすんだ。
出店は食べ物や飲み物、スイーツ、手作りの装飾品を売っているお店、小物入れや古本を売っている人、絵なども売られていた。
驚いたのはヤギや豚が生きたまま売られていたことだった。
そんなお店を見て回るのもとても楽しかった。
「ねぇバズール、あそこからとてもいい匂いがするわ」
「あれは串焼きだね」
「串焼き?」
「そう、串に牛肉や羊肉などを刺して焼いて甘辛のタレにつけて売っているんだ。食べてみる?」
「う、うん、あっ……でもどこで食べるの?」
「どこでって……立って歩きながら?かな。それとも地面に座って食べる?」
「わたし……自信がない……わ」
「お前、学校行ってる時はみんなで街へ行って食べ歩きしてたのに」
バズールが笑いながら言った言葉にわたしは驚いた顔をして固まった。
「そんなことしていたの?」
「あっ……」
気不味そうにしているバズールに、
「わたし、どんな風に暮らしていたのか知りたい。バズールはもうすぐ大学へ戻るのでしょう?わたしもあと5ヶ月残っているのにこのまま辞めていいのか悩んでいるの」
「ライナにとって留学はとても充実していたと思う。確かに嫌な思い出もあった。でもそれ以上に大切な友達や知り合いができたと思う」
「カイさん……ってどうなったのかしら?」
ずっと気になっていた。バズールが意識が戻らないのは妹のリリアンナ様の所為だと言ってたけど……違ったようだし、戻ってくると言ったけど結局顔を出すことはなかった。
「カイ様は……とても忙しいお方なんだ。でも俺のために動いてくれた。だから俺は今こうして意識を取り戻せたんだ。オリソン国へ戻ったらお礼を言うつもりだ」
「じゃあ、本当に呪いだったの?」
「詳しくは話せない。ライナは知らない方がいい。でもあの列車事故自体が事故ではなく故意に起こされたものだと思う。そして俺は呪われた。永遠に目覚めることがないはずの呪いに……」
「故意?そんな……」
「カイ様は忙しく動いているんだと思う。ライナ、君はただ笑っていて。それだけでいい」
「わたしは笑ってるだけなんて嫌だわ」
「俺たちには今何もすることはないし、動くと邪魔にしかならない。だから報告を待つしかないんだ」
「………わかった」
せっかくの楽しいお祭りなのに……とても辛い話だった。巻き込まれて亡くなった人も大勢いるのに…だからこそ犯人にはきちんと罪を償って欲しい。
「ライナ、今日は……今日だけは俺だけを見て、一緒に過ごそう」
バズールはいつもの口の悪さも揶揄う言葉もやめてずっと紳士的に接してくれた。
「うん、わかったわ、じゃあ……串焼き食べてみるわ」
せっかくのバズールとの時間だからわたしは今だけは何も考えずに笑顔で過ごそうと思った。
バズールオススメの串焼きはとっても美味しくて二人で取り合って食べることになった。
「バズール、それわたしの。自分の食べなさいよ!」
「もう俺のは食った!ゆっくり食べるライナが悪い。あと一口くれ!」
「え?嫌だよ!」
「ったくお前ってケチだな」
「ケチ?失礼ね!」
仕方なくバズールに串焼きをあげようとすると受け取らずわたしの持っている手を握るとニヤッとして……串焼きをパクッと食べた。
「もうそんなに食べたらわたしの分がなくなっちゃうわ」
結局喧嘩しながらお祭りを回ることになってしまった。
でもとっても楽しい一日を過ごすことができた。
我儘を言って花火まで見ることができた。
幼い頃お父様とお母様と花火を見に行って以来なので10年以上ぶりの花火は驚くほど綺麗でわくわくしてしまった。
隣にバズールがいて綺麗な花火を見ることができて本当は胸がドキドキしたのだけどバズールには絶対知られたくない。
わたしの胸の高鳴りも真っ赤な顔も花火の音と暗闇でバズールに届くことはなかった。
『大好きだよ』聞こえないことをいいことにそっと告白した。
花火がわたしの心を隠してくれた。
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