【完結】今夜さよならをします

たろ

文字の大きさ
105 / 109
新しい恋。

番外編 リリアンナの後悔③

しおりを挟む
 目が覚めた。

 白い天井と白い壁。

 ずっともう一度だけ見たいと思っていた空が、横を振り向くと見えた。

 ただそれだけで……涙が溢れた。

「こ……こ…は?」
 小さな掠れた声をなんとか絞り出した。

 誰もいないと思っていたらカイお兄様が可愛がっているオリエと言う女騎士が部屋の中にいた。

「リリアンナ様、やっとお目覚めになられたのですね?」

 とても優しい声。


「お水を少しでも飲まれませんか?」
 寝ているわたしの体を少しだけ起こしてくれて背中に枕を当てて座る体勢になった。
 水差しからコップに水を注いで、「どうぞ」とわたしに差し出した。
 でも体に力が入らないわたしにはコップを持つ力さえなかった。

 それに気付き彼女がコップを持って少しずつわたしの口に水を含ませるように飲ませてくれた。

 ーー美味しい。

 言葉にならないけど思わずゴクゴクと飲んでいた。

「リリアンナ様、辛かったでしょう?」

 オリエ……様はわたしが水を飲み終わるともう一度そっと寝かせてくれた。

「あまり食事が摂れなかったのですね?体が衰弱していますよ」

 わたしの手を優しく握りしめた。

「お助けできなくて申し訳ありませんでした。全て貴女が列車事故を指示したように仕組まれていました。カイさんですらそのことを見破るのは大変でした。犯人達が捕まった時、全員が貴女の名前を出し、同じことを言い、貴女が全て悪いんだと口裏を合わせていました」

 声が出にくいわたしは黙って頷いていた。

「でも貴女は列故事故だけは指示していないとカイさんに訴えたのでカイさんは一人でもう一度調べ始めました。何度聞いても同じことしか言わない犯人達に違和感を覚えて、囚われた犯人達の家族や友人知人達を片っ端から調べたんです。そしたら犯人達はリリアンナ様と接触したことがないとわかったんです。
 全員が接触したことがあると言った人物はリリアンナ様の側近だったユリウス殿でした」

「ユ…リ、ウス?」
 驚き目を見開いて聞き直す。

 ーーユリウスはわたしのどんな我儘も聞いてくれた、そして『リリアンナ様のためなら』といつも笑ってくれたお兄様みたいな人。

「はい、調べれば調べるほど『黒』で怪しい人物でした。前国王の派閥にユリウスの父親はいたのに言葉巧みに自分は違うと逃げ切っていました。その次男のユリウスは、貴女のそばで仕えながら陛下の評判をなんとか落として少しでも陛下の治世を揺らごうと画策していたみたいです」

 ーーわたしはお兄様の地位を揺らごうとしていたの?
 わたしの傲慢さや我儘がお兄様にも迷惑をかけようとしていたなんて……バズールが好きだから、バズールとライナが幸せになるのが許せないからと、まわりを使い酷いことばかりしていた。

「リリアンナ様……貴女がバズール様やライナ様にしたことは決して許されることではありません。でも何もしていないことまで罪を被る必要はありません。貴女は我儘から人を傷つけた、でも人殺しはしていないのです」

「殺して……いない?」

 涙が溢れた。
 ずっとわたしの足元に亡くなった人たちが絡みついて、離してくれなかった。自分の愚かさのせいでたくさんの命を奪ったのに生き続けなければいけない、それが恐怖だった。「いっそ処刑してくれれば…」何度そう思ったことか。

 まだわたしのそばには「苦しい」「どうして死ななければいけなかったの?」とわたしの足を持ち縋っている人の姿が見える。

『わたしはしていないから離して』なんて死んだ人たちに言うつもりはない。
 わたしが傲慢で我儘だったから主犯に祭り上げられたのだ。それはわたし自身が蒔いた種だ。

 フラフラとした頭の中、常に思考回路が回らずボッーとした日々の中で過ごしたわたしの意識が少しずつ正常に動き始めた。

 やっと少しずつ言葉も出始めた。

「オリエ様……本当のこと…がわかって……少しだけホッ……としま…した。でもやは……りわたし……の責任です。ユリウス……の悪意に…気がつ…きもせず彼を…側近と…して扱っ…てきた…のだから……」

 なんとか言い終わるとわたしは疲れてまた意識を失ってしまった。

 足元に絡みつく亡くなった人たちの憎悪と悲しみがわたしを眠りへと誘う。






しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

処理中です...