【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ

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オリソン国④

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「おい、リヴィ。お前いい加減にしろよ」

 ギルは呆れた顔をしてリヴィの頭を後ろから手でバシっと叩いた。

「俺の頭を平気で殴るのは貴方くらいですよ」
 ギルに叩かれて、頭を撫でながらギルをひと睨み。
 リヴィはギルの家に現在厄介になっている。

 オリエの実家の公爵家で両親が使用人として働いていたギルは幼い頃からオリエから弟のように可愛がられてきた。
 そしてオリエのいるオリソン国に留学した。その頃オリエはカイのところに住んでいたので、ギルは厚かましくイアンのところに居候して暮らしていた。

 まだイアンとオリエが恋人ではなく互いに意識だけしあっている頃だった。

 ギルがある意味二人のキューピッドでもある。そしてギルの恋人のアンは今イアンの屋敷の護衛騎士として働いている。

 オリソン国に留まることを決めたギルは王立騎士団に入り新人騎士として毎日鍛えられていた。
 そして最近アンとの結婚を視野に入れたギルは寮を出て家を借りて一人暮らしを始めた。

 その家に何故か今、リヴィが一緒に住んでいる。

「ほんっと、俺むさ苦しい男と住むのがいちばん嫌なんだけど」

 ギルの言葉に横にいたイアンが面白そうに笑う。

「お前だって俺の家に転がり込んできただろう!あの変な木彫りの人形をたくさん持って!」

「失礼ですよ!イアン様!あの木彫りは俺が彫ったんです!オリエ様にも差し上げたでしょう?この前可愛い俺のマリアのために犬のおもちゃも木で彫ったらマリアが喜んでましたよ」

「うちの可愛いマリアのことを『俺の』なんて言うな!あの木彫りの犬なら毎日マリアが投げて遊んでるぞ。たまに運良く綺麗に着地する姿を見て手を叩いて喜んでる、あ、ついでにあの犬マリアの涎でもう捨てた方がいいかもしれないな」

「ひっでぇな!イアン様、捨てるなんて!我が子の可愛らしい涎付きなんてずっと大切にとっておくべきでしょう?」

「あ、あの……」
 リヴィは二人の会話についていけないでいた。いや、突然叩かれたのに自分のことを置いて二人は何をしているんだと呆れていた。

「「あっ」」

 リヴィを忘れていた二人は言い合いをやめた。

「すまないリヴィ。で、ギルはリヴィに何を言いたかったんだ?」
 イアンはギルの家にオリエに頼まれて食料の差し入れに来ていた。ついでにリヴィに仕事のことで会いにも来ていた。

「こいつ俺の家に来て1ヶ月経っていると言うのに、カイさんの家の近くに行くだけでほとんど外を出ないんです。何しにこの国に来たのかと思って。好きな女を守りたいんだったら堂々と会いにいけばいいのに」

「………………」
 リヴィは困った顔をしたまま返事をしない。

「ギルはリヴィのことカイさんに頼まれて預かったんだよな?」

「そうだよ、カイさんのところにいるミルの婚約者でミルが心配で追いかけてきて住むところがないからとうちで預かったんだ」

「………住むところは…無いわけではありません」

 リヴィは不本意な言われ方に少しムッとした。別にお金はある。ホテルや宿に数ヶ月泊まってもいいし、家を一軒借りてもいいと思っていた。ただバードン侯爵のところに行くのだけはやめておいた。もし魔法を使うことになればこの屋敷の人達は魔法を知らないので驚き脅威を感じるかもしれない。

 しかしカイに魔法を使う可能性があるなら一人っきりでこの国に置いておくことは出来ないと言われた。

 魔法を使う時は緊急事態の時だけ、今回はリヴィはバードン侯爵に頼みオリソン国に魔法を使う許可を申請してもらっていた。

 そして魔法を使う可能性があるならこのギルの家に留まるように言われたのだ。

 リヴィよりも3歳年上の18歳のギルは王立騎士団で働く騎士。お調子者で部屋がとにかく汚かった。週に一度はイアンの屋敷で働くメイドのマチルダが掃除と食事を作りにやってきてくれる。
 マチルダはオリエの実家の使用人だった。今はオリソン国に夫のブルダと共に移り住んでいてギルの両親。

 リヴィは何故この家に住まなければいけないんだろうといつも思っていた。
(どうせならイアン様の屋敷が良かったのに。この家俺が居なかったら汚部屋になってアンさんにフラれるんじゃない?)

 だけどギルのことは嫌ではなかった。
 明るくて人懐っこい。みんながギルのことを好いているのもわかる。

 口は悪いけどリヴィのこともすぐに受け入れて煩いくらい世話をしてくれる。

 今もリヴィを心配してのことだとわかる。しかし伯爵令息で魔法使いとしても優秀でいずれは国を代表する魔術師として生きていくことがほぼ決まっているリヴィにとって平民の騎士でしかないギルとの生活は、毎日が驚きでしかなかった。

 料理に掃除などしたこともなかった。二人っきりの生活。
 なのにこの家はギルがいなくても毎日誰かがやって来る。

 それはもちろんリヴィを心配してのことでもあるが、ギルの人柄でもあるのがわかる。

(俺の周りにいる友人や知人なんて俺の爵位や魔法の優秀さでそばにいるだけで俺自身を好んでそばにいる奴なんて何人いるんだろう)

 この家に住んでからのリヴィは堅苦しさも息苦しさもない、ありのままの自分でいられることが不思議で仕方がなかった。
 自分はどれだけ傲慢で頑なだったんだろう。
 今はイライラすることもなく(ギルのおおらかさ以外)毎日が楽しい。

 この国に来てミルをこっそり守ろうなんて思ってやってきた。

 しかし神殿からの使いの者も国からの使いの者達もほとんどカイさんが魔法も使わずにさっさと追い帰してしまった。

 ミルヒーナを捉えて魔力を奪い続けようと考えてやって来た魔法使い達はミルヒーナに接触する前に捕まりこの国の牢に入れられていた。

 魔法が使えなくする魔道具を首に嵌められているので逃走すらできない。
 この国にもウェルシヤ国の魔法使いを捉えるための魔道具や特別な牢があることに驚いたが納得もした。
(こういう準備があるからウェルシヤ国民も他国に行って悪さができないのか)

 魔法が使える生活をしているウェルシヤ国民は、魔法が使えないと他国に比べるとかなり弱いことがわかった。

 筋力や体力はもちろん剣の技術も体術も、そして普段の生活もあまりにも魔法や魔道具に頼りすぎて、他国での生活はとても大変だった。

 特に貴族令息にとって箒など持ったこともなかった。食器を洗うなんて生まれて初めてだった。

 ただ魔道具はないがこの国はガスが通っていて灯りもお湯も沸かすことができる。それもまた驚きだった。

 ルイスがリヴィに『井の中の蛙になったらダメだ』と何度も言ってくれた意味がやっとわかった。

 ミルヒーナを守るために来たリヴィは今は何もできずただギルの家にいることしかできない。

 その間イアンがやってきてウェルシヤ国の魔法について色々質問してくる。ルイスも学校が終わるとギルの家にたまにやってくる。

 ルイスは始めはリヴィをとても警戒していた。
 せっかくのびのびと楽しそうに暮らしているミルヒーナがリヴィがこの国にいることを知ってしまったらと思うと心配していたのだ。

 今はリヴィが大人しくギルの家で過ごしているので安心はしているのだが。

 リヴィはすることがないのでイアンやイーサンに与えられた簡単な仕事の手伝いを家の中でしている。

 この国の平民の孤児達への支援の報告書をまとめたり、道路の工事計画書をきれいに書き写したりと、ほぼ文官の仕事をさせられた。

 重要ではない誰でも閲覧可能な書類ばかりなのだが、この国の平民達への税金の使い方が貴族主義のウェルシヤ国とは違っていてリヴィは驚くことばかりだった。

(この国は国民のためにあるんだ……)










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